26
朝、かなでが目を覚まして朝食の準備をしているときに電話に着信が入る。朝早くに誰だろうと首を傾げながら着信画面を見るとグラの文字が表示されていた。
「はい、もしもし。どうしたんですか?」
「あ、かなで? 急に悪いな。この前桔梗が話してた、わたぬき商会を調べてみたんだけどよ。結構大きな商会だったぜ」
「え、そうなんですか? ちなみに扱っているものは」
「子供用の商品とかも扱ってるけど、基本的には何でも扱っているな。電化製品も食品も本とかもな」
「行けばなんでも売ってる感じなんですね」
「そんな感じだな。近くに本店があったから今度行ってみるわ」
「……私も一緒に行ってもいいですか?」
グラの言葉に少しだけ悩んだかなでは自分の同行を求める。断る理由がないグラは二つ返事で受ける。
「いいぜ。どうせなら凪と静人も呼んで四人で行こうぜ」
「はい、さすがに責任者とかには会えないでしょうけど、出来るだけそこで買ったものを使いたいですからね」
「あっちから来てくれれば楽なんだけどな。値段もそこまで他と変わらないみたいだし、出来るだけそこで買うってのは賛成だな。桔梗達との繋がりを持たせてあげることができればさらに良しだな」
要件はそのことだけだったようでそれ以外に少しだけ世間話をしたあと通話を終える。携帯電話から耳を離して顔をリビングに向けると静人と目が合った。
「おや、電話は終わったのかい?」
「あ、おはようしず君。グラからだったんだけど、この前桔梗ちゃんが話してたわたぬき商会を見つけたって報告。それでしず君も一緒にどうかな?」
「もちろんいいよ。何を買うつもりなんだい?」
「結構なんでも取り扱ってるらしいから、食材を買った後はのんびり見て回ろうかなって思ってる」
「なるほどね。その時に桔梗ちゃんの知り合いに会えればいいんだけどね」
「さすがにそんなに都合よく会えないわよ」
かなでは希望を口にした静人に苦笑を浮かべて首を横に振る。静人もさすがに確率が低いことは分かっているのか同じように苦笑いを浮かべて頬をかく。
「分かっているんだけどね。なんとなくだけど会えそうな気がするんだよ」
「しず君が言うと何となくそうなるんじゃないかって感じがするわ」
「さすがに分からないけどね?」
「あ、どうせなら桔梗ちゃんに紹介状書いてもらう?」
「うーん。会えるかもわからないのに少し抵抗があるかな。二の足を踏むことになるかもだけど期待させて会えませんでしたっていうのはしたくないし」
「う、それはさすがにしたくないわね」
期待させてから落ち込み悲しむ桔梗の姿を想像したのか、かなでは口を詰まらせて首を横に振る。
「まぁもう少し先の話だし日時が決まってから考えよう! 今からご飯作るね?」
「ありがとう。飲み物くらいは僕が入れようかな。かなでは何飲む?」
「今日は温かい緑茶かな。ちなみに朝食はお味噌汁とご飯と焼き魚とほうれん草のお浸しです」
「おや? 今日はパンじゃないんだね」
「うん。なんとなくだけど食べたくなって。朝からお味噌汁とご飯と焼き魚なんてなかなか食べないけどね」
「あはは、たまにはこういうのもいいね。作るの大変だったりしないかい?」
「これを毎日はちょっときついけどたまになら大丈夫よ。うん、おいし」
かなでが料理の味見をしている横で静人はお湯を陶器でできたコップに注ぎ、少し冷ましてから茶葉の入った急須の中にコップの中身を注ぐ。蓋をして少し待ち優しい匂いを漂わせたお茶をコップに注ぐ。そのあとはかなでと一緒に配膳を済ませて椅子に座る。
「うん。美味しそうだ」
「ふふん、もちろんおいしいわよ。それじゃ、いただきます」
「いただきます」
手を合わせてからご飯を口に運ぶ。二人は食事をしながらだったがかなでが口を開き会話が始まった。
「食事をしながらするのもあれだけど、今日の夜ご飯は何にするの?」
「今日は餃子でも作ろうかなって思ってるよ。もちろんみんなでね」
「皮に包むのをやるの?」
「そうそう。具材は作っていこうかなって思ってる。皮は市販品だしね」
「結局教えることになりそうだけどね。もみじちゃん料理好きみたいだし」
「僕も作り方は分からないから、今日は市販品で次作るときはちゃんと皮から作ろうかな」
「そういえば辛いのって大丈夫なのかしら。麻婆豆腐とか作りたいのだけど」
「辛いのはあまり作ってなかったし、今度カレーでも作ってみるかい?」
「……お腹痛くなったりしないかしら」
少し不安そうな顔で頬に手をつくかなでに静人は頷いて提案する。
「そうだね。人によっては美味しいとは思うけどお腹が痛くなる人もいるし、無理はしないように言ってから食べてもらおうか」
「そうね。……そういえば何だけどあそこってトイレあったかしら。それに病気になったりしたらどうしてたのかしら」
「うーん。もしかしたらなかったかもしれないけど、全部見て回ったわけじゃないから分からないかな。一応妖怪的な物なんだよね、もみじちゃん達って。もしかしたら病気とは無縁なのかもしれないね。今日会った時に聞いてみようか」
「そうね。分からないものは分からないし、桔梗ちゃんに聞いてみようかしら」
考えても答えは出ないと思ったかなでは最終的に本人に聞くことにした。ご飯はもう食べ終わり二人で洗い物をしている最中ではあったが、二人で話しているうちに結局餃子のタネを今のうちに作ることになった。洗い物を終え冷蔵庫の中から今日使うものを取り出す。
「朝食を食べてすぐに餃子の仕込みをするってなんか不思議な感じだ」
「ふふ、ご飯を食べてすぐに別の料理を作ることなかなかないものね」
「しかも今回はいつもに比べてしっかりと朝食を食べたからね。あ、餃子のタネ作るけど匂いの強いのとか辛いのとか控えめにした方がいいのかな」
「うーん。今回はお試しってことでいろんな種類のタネを少しずつ作って持っていく?」
「そうだね。今日の所は少し辛くないのも持っていこうかな」
「意外に辛いほうが人気あるかもね」
「どうだろう。あー、でもそうだね。辛いほうが子供のころは好きだった気がするし」
かなでの言葉に首を傾げる静人だったが自分の子供のころを思い出したのか傾げていた首を元に戻し深く頷く。かなではそんな静人に笑顔で語りかける。
「辛いものは美味しいものね。うまく表現は出来ないけど」
「僕も美味しいとは思うけどうまく言葉に出来ないから何とも言えないね。そう考えると食レポする人達ってすごいよね」
「聞いてるだけで美味しそうって思えて、私も食べてみたいって思えるものね」
「うん。僕達にはうまく表現できないことも僕たちに伝わるように表現してくれるからすごいよね。まぁ、そういう表現はプロに任せて僕たちは美味しいって伝えればいいんだと思うよ」
「そうね、おいしいって言われると嬉しいものね」
二人は軽く会話をはさみながら餃子のタネを作っていく。少量ずつ作るとはいっても少しだけ作るのは難しいのである程度の量になってしまったが。二人は気付いていないのかそれとも見てみぬふりをしているのか会話を続ける。
「分かりやすく喜んでくれるとこっちももっと喜ばせたくなるからね」
「もみじちゃん達は分かりやすく喜んでくれるからいいわ。青藍ちゃんも表情は動かないけど目を見たりすると結構わかりやすいのよね」
「確かに分かりやすいよね。表情は動かないけど目はキラキラしてるから」
「そうなの。本人は気付いてるのか分からないけどある意味一番わかりやすいのよね」
「目は口程に物を言うってことわざがあるけどまさにその通りって感じだね」
「青藍ちゃんは目で、もみじちゃんは体で表現してくれるけど、桔梗ちゃんは意外にそこまで大きなリアクションは取ってくれないのよね。まぁ目も大きな表現じゃないけど」
「あはは、そうだね。特徴的な話し方ではあるけどね」
「そうね。あの見た目で一人称がわしで語尾がのだ、だからね。なんであんな話し方するんだろう?」
「うーん。予想になっちゃうけどイメージなんじゃないかな。桔梗ちゃんにとって年上のイメージがわしって言う人なんじゃない?」
「あー、確かに年上って感じがするわよね。見た目で考えると違和感がすごいけど生きてきた年数で考えると間違いじゃないのよね」
「そうだね。そこまで詳しく聞いてないけど百年は余裕で生きてる感じなのかな?」
「あの家の設備からして数百年は前ね。あ、かまどの使い方覚えた?」
「あ、まだ調べてないや。掃除とかしてあるのかな? あ、水質調査キットも持っていかないと」
段ボールで届いたキットをチラ見しながら話しかける。かなでもその言葉を聞いて思い出したのか同じように見て頷き返す。
「そういえば昨日届いていたわね。今日持っていきましょうか」
「餃子のタネも……、まぁ作り終えたし、というか作りすぎたような気もするけど」
「五人いるから大丈夫よ……多分。食べれなかったら私たちだけで食べましょうね」
「そうだね。もみじちゃん達ってにおいに敏感だし。やっぱり食べれないんじゃ……」
「美味しいって言ってもらうことさえできず、臭いって言われたらどうしましょう」
話し合ううちに少しずつ不安になっていく二人。かなでに至っては具体的に想像をしたのか顔を青ざめていた。静人は軽く頷き諦めた顔でかなでを見る。
「あ、うん。よし、考えないようにしよう。駄目かどうかは分からないしいつかは持っていってただろうから」
「そうよね。和食だけで限定しても料理は他にもあるでしょうけど、どうせなら他にもいろいろと知ってほしいものね」
「最初に食べてもらったのがハンバーグだしね。ミートソーススパゲティとか喜んでくれるかな?」
「喉詰まらせたりはしないわよね」
「そこはちゃんと教えていく感じで。喉を詰まらせると言えばお餅とかもいいね」
喉を詰まらせるという不穏な単語で思い出したのは一年に一度はニュースで流れる餅だった。かなでも思い出したのか顔を緩ませて思いはせる。
「あんこ? 醤油? 変わり種でチョコ?」
「あんこかな。きなことかもいいけど」
「きなこの存在忘れてたわ。あれも評価結構分かれるわよね」
「甘いから大丈夫かなって思ってるんだけどダメかな」
「甘いからとかじゃなくて結局味の好みだから何とも」
「そっか。まぁ、僕が好きだから駄目でも僕が食べるだけだね」
「ならいいのかな?」
「責任もって僕が食べるから大丈夫だよ。最後のデザートで食べるから少し量は少なめにしておこうかな」
「気に入ってもらえたらまた持っていけばいいしね」
「まぁ、今日はさすがに持っていかないけど。そういうチャレンジ品は少しずつ持っていかないとね」
「そうね。たくさん持っていって全部食べれないものだと困るし」
持っていったものが食べてもらえないのは嫌なのか渋い表情をしながら目の前の餃子のタネを見る。少し遠い目になったが目をそらして夕方が来るのを待つことにした。




