16
朝になり静人が目を覚ますと隣にいるはずのかなでの姿が見当たらない。早起きしたかなでに感心した様子で起き上がる。
「いつも僕より後に起きるのに珍しいな」
静人は静かに笑みをこぼしながらベッドから降りて身支度を整えていると、玄関が普段よりも騒がしいことに気が付く。
「だれかお客さんかな?」
顔を洗いに洗面台に向かい洗っていると足音が近づいてきた。
「あら、起きたのね」
「かなで、おはよう。誰か来てるのかい?」
「おはよう。二か月前に頼んでた洋服をグラさんが持ってきてるのよ」
「おや、そうなのかい? 挨拶しないとね」
「あ、あともう一人来てるけど。……びっくりしないでね」
「びっくり? 驚くような人が来てるのかい?」
「まぁ、会えばわかるよ」
かなでは苦笑いを浮かべつつも、多くは語らずに静人をリビングに誘導する。
「おう! こんにちは! あんたが静人さんか?」
「ええ、こんにちは。静人です。あなたは?」
静人は急に話しかけられて面食らった様子だったが、すぐに気を取り直して目の前の女の人に笑いかける。髪が短めにそろえられて男物の服に身を包み男口調の女性に、そこまで驚いた様子もなく普通に挨拶を返す。その様子に嬉しそうな顔で自己紹介をしてきた。
「私の名前はグラよ。そのままグラって呼ばれているわ」
「あはは、僕の名前は静人です。それではグラさんと呼ばせていただいていいですか?」
「呼び捨てでいいぜ? まぁいいや。無理強いはよくねぇもんな」
「ありがとうございます。後ろの方は?」
「うふふ、こんにちは。お邪魔しています。凪といいます」
「では、あなたが服を……?」
「いえ、私だけじゃなくて、ここにいるグラさんにも協力していただきました」
「そうなんですか。二人ともありがとうございます」
「別にいいよ! 楽しめたし。いろいろ勉強になったからな!」
「私も久しぶりに洋服をたくさん作れて楽しかったですから。残念なのはその洋服を着た姿を見ることができないことですね」
「あー、それは」
「しょうがないのは分かってるんです。でも、それでも、かなでちゃんが可愛いって絶賛する女の子を見てみたかったんです」
「かなで……」
呆れた顔でかなでのほうを見る静人だったが、視線を合わせないように必死に顔をそらしているかなでしか見えなかった。
「いや、まぁ、あんなに可愛い女の子だったからつい……」
かなでは目をそらしながら小さい声で言い訳していたが、静人はため息をつきながらも笑みを浮かべてグラ達に目を向ける。
「ふふ、会えるようになったら教えてくださいね?」
「お、その時は俺もよろしくな!」
「もちろんです。その時は紹介しますね」
「最近は忙しくてその話ししてなかったですし、洋服持っていくときに聞いてみますね」
逸らしていた視線を戻して話に入ってくるかなでに、凪は笑みを浮かべながら嬉しそうに携帯を見せる。
「そうですか? それなら、聞いてみて会ってもいいよって言ってくれたら連絡してください。すぐに飛んできますから」
「俺もその時は来るからな。店があるからすぐには無理だけどよ」
「お店をしてるんですか?」
「ああ。洋服の店をやってるんだ。オーダーメイドも受け付けてるから静人さんもよろしく。凪も店員だし」
「ええ、その時はよろしくお願いします」
「よろしく。それじゃあ俺はお店あるから帰るわ。もみじちゃん達によろしく」
「今日はありがとうございました。今度お店に伺いますね」
「店の場所はここな。それじゃあまたな」
グラは静人にお店までの地図を渡すとウインクをして去っていく。男のような口調で見た目も男のようだったが不思議とウインクの似合うグラを見送りつつ、凪も自分の腕時計で時間を確認すると席を立つ。
「それじゃあ私も帰ろうかな。かなでちゃんまたねー!」
「はい、今日はありがとうございました」
「いいよ。楽しかったし。あ、会えるようになったらちゃんと連絡してね。静人さんもまた今度」
凪は携帯電話をかなでに見えるように取り出し、かなでが頷いたのを確認してからスキップして帰っていった。
「なんというか嵐のような人たちだったな」
「楽しい人達でしょ?」
「まぁ、そうだね」
否定できない静人は苦笑いしながら頷き頬をかく。かなでは自慢げに笑みを見せると、預かった洋服を大事そうに抱えて、自分の部屋に持っていった。
「よし、時間までどうする?」
「僕は調べ物でもしとこうかな。他にも作れるものがあるなら作ってあげたいし」
「それなら私は料理のレシピでも漁ろうかしら。簡単レシピを調べればいろいろ出てくるし」
「便利だよね。あ、朝ご飯どうする? もう食べた?」
「凪さんたちが来たからまだ食べてないわ。いきなり電話が来たと思ったら、「今あなたの家の前にいるの」だもの、びっくりしたわ」
「それは確かにびっくりだね。というか悪戯が子供……」
「まぁ、私もこの前同じことしたからその仕返しだと思うけど、何か言った? しず君」
「ううん。何でもないよ。それじゃあ朝ご飯作るね」
「今日は頼んじゃおうかしら」
「いいよ、フレンチトーストでいいかい?」
「ええ、もみじちゃん達にも作ってもらいたいわね。卵……、鶏はさすがに厳しいかしら」
卵を見ながら悩むかなでに、静人は静かに首を横に振った。
「人数が沢山いれば何とかなるかもしれないけど、今の人数じゃ無理かな」
「二人だものね。さすがに無理よね……。増えると揉め事も増えそうだし、でも、二人きりは寂しいわよね」
「お師匠もいるらしいから三人だね。どういう人かは見たことないから何とも言えないけど」
「そうね。でもお師匠はほとんど家に帰ってきてないみたいだし、数に入れるのもね……」
「それもそうか。せめて、大人の妖怪ならいいんだけど」
「見た目は子供らしいわよ? もみじちゃんが自分と同じくらいって言ってたし」
思い出すように明後日のほうを見ながら答えるかなでに、電子レンジから耐熱ボウルを取りだしてフライパンで焼きながら質問する静人。
「そうか。知識はどうなんだい?」
「そこまでは会ってみないと分からないわ。でも、悪い人ではない気がする。もみじちゃんにあの家を紹介したのもお師匠らしいし。なんでも、ここにいれば少なくとも飢える心配はないって言って、あの家を紹介したらしいわ」
「確かにその話を聞くと悪い人じゃない気がするね。あとは会ってから聞けばいいか。はい、朝食できたよ」
「わ、おいしそうね。結構作るの大変じゃなかった?」
「慣れれば楽だよ。レンジで少し時短してるし」
「そうなの?」
「そうそう、あ、ご飯食べた後調べものする予定なんだけどパソコン使う?」
二人でフレンチトーストを食べながら話し合う。
「スマホで調べるからいいわ。メモ帳もスマホに入ってるし」
「そう? それならパソコン借りるね。ポンプとかつくれたらいいんだけどね」
「私たちがいなくなった後も、もみじちゃんたちがメンテナンスできる物じゃないとダメよ?」
「そうか、僕たちがいつまでも一緒なわけじゃないからね。用水路も簡単な整備の仕方教えないとね」
「そういうのは青藍ちゃんのほうが覚えそうね。他にも仲間が増えたらいいのにね」
「そしたら、あそこは妖怪の村になりそうだね。他にはないのかな。そういう集落のような場所は」
「お師匠と呼ばれる存在がいるんだし、他にもいるかもしれないわ」
「まぁ、でも。僕たちが口をはさんでいいようなことじゃないし。そこはまた追々……だね」
話し合いを一旦終わらせて二人は別々に調べ物を始める。静人は調べたものをノートに書き写し、かなでは調べたものをコピーしてはスマホのメモ帳に写す行為を繰り返していた。
「もうそろそろ買い物に行こうか」
「あら、もうそんな時間?」
「結構夢中で調べてたね。僕もタイマー付けてなかったら気付かずにまだ調べてたかも」
「買い物してお昼ご飯を食べて、調べ物の続きをして、お風呂入ったらもみじちゃんの所に行かないとね」
「洋服忘れないでね?」
「もちろん! もみじちゃんに着てもらって脳内に焼き付けないといけないし、グラさんたちに会ってもらえるか聞かなきゃいけないから」
「そうだね。嵐のような人たちだけど悪い人ではないと思うし、大丈夫だと思うけどね」
「そうね、というかこれで会いたくないって、もみじちゃん達に言われたら今後グラさんたちに会うときに気まずいわ。嘘つきってことになるわけでしょ?」
「そうだね。そうならないように祈るしかないけど。大丈夫だよ、話してて嫌な感じはしなかったし」
「ええ、そうね。よし、買い物行きましょうか」
大丈夫だと思っていても、少し不安だったかなでだったが、静人の言葉を聞いて安心できたのか元気な声を出して静人を引っぱり外に連れていく。その様子からは先ほどまでの不安さは感じられない。そんなかなでを見て引っ張られている静人はどこか安心した様子だった。




