晴彦の平穏でない日常 4
鬱血した痕は、うなじの辺りに小さく、その存在を主張していた。
それがどういう意味を持つのか、そんなことはわかりきっている。
だがおれにはどうすることもできない。目を背けて、気づかぬふりをするしか、裕希にしてやれることはない。
相手は誰だと、問いただすような野暮はしないし、それをしたところで意味のないことくらいわかっている。
年頃の若い男が“そういうこと”に興味があるのは仕方がない。
それをどうこう言って、この可愛い甥っ子と気まずくなる方が辛かった。
おれができることは、その欲の痕を人目につかないように、羽織で隠すことくらいだ。
久しぶりの晴れ間、宿泊客用の布団を干しているときだ。少し思い詰めた様子で、裕希は知らないはずのことを聞いてきた。
ずいぶん前の話だ。娘が生まれて少したった頃、宿の象徴とも言える花を全て刈って、その名前だけが残った。
特段誰もその事について、怒ったり恨んだりなどはしていない。
花に興味もないおれなんかは、とくに執着することもなかった。
むしろそれを気に入っていたお客の方が気にして、毎年泊まりに来るくらいだ。
裕希がどうやってその話を知ったかは、容易に想像できた。
それを考えると、もやもやとした曖昧な感情が迫ってくる。
裕希の細い首には、暑さのせいで汗がにじんでいる。
あの常連客はどう言う思いで、この白い肌に欲望をぶつけたのだろう。
おれは脱線した考えを、これ以上進めてはならないと、足早に部屋を出る。
自分を伯父さんと慕ってくる甥っ子が、その後を追ってくる。
信頼されているのが伝わってくるのに、おれの隠れた気持ちを知らない裕希を見ると、複雑な気分だった。




