症例3:肩コリ(瘀血タイプ)リコリス・グルキュスリザ
ちょっと遅くなってしまいましたが今週も投稿できました。
お花見のいい季節ですが、夜は冷えますので寒暖差に気を付けてくださいね。
よろしくお願いします。
「それじゃあ治療をはじめようか!
そうだなそこのソファに腰かけてもらえる?」
カウンター横のアンティークなソファに座ってもらう、
しかしこっちの調度品はセンス良くて目の保養になるなー
「ちょっとベーっと舌を出して見せてもらえるかな?」
俺のまねをして舌をだすイケメガネくん。
多少暗い紫っぽい舌だ、気虚や浮腫みを表す歯痕舌ではないのは若さゆえか…
一時的な疲れなのだろう。
「そうそう、舌の裏側もこうやってみせて」
舌の先端を上の前歯の裏につけるようにして舌の裏側もみせてもらう。
やはり舌下静脈が怒張している、典型的な瘀血の時にみられる状態だ。
「最近運動を怠ってない?
まぁ、というよりも仕事で忙しくてそれどころではないって感じかな?
肩が痛いの最近でしょ??」
「わ、わかりますか?
アカデミーを卒業してから半年ぐらいは師匠について見習いだったんですけど、
店を任される様になってからは連日管理が忙しくて、ここ3か月ぐらい食事と睡眠以外はすべて仕事に追われていて運動する余裕がないんです。
学生のころはよく走ってたんですが…」
ストレスや緊張から来る肩凝り
瘀血タイプの肩こり、
冷えによる肩凝り、
長時間のPCやスマホ使用からくる物理的な肩凝り、
消化器疾患から来るもの、原因はさまざまだし、大抵の場合は複合的なものなのだけど、
「リコリス君の場合メインは瘀血由来の肩コリだ、
もう少し正確に言えばストレスからくる肩凝りが少し慢性化して血が滞っている、
これ以上不摂生を続けると、耗気して完全に慢性化すると頭痛や吐き気などの症状も出てくる恐れがあるから早急に手を打った方がいい。」
アイリスがダンボーのような顔をしている。
ふたりとも頭の上にはてなマークが浮かんでいるみたいだ。
「ねぇねぇ、オケツ?カタコリ!?ってなぁに?」
ん?瘀血はともかく肩凝りが翻訳されてないのはなんでだ?
もしかしてこの世界、肩凝りの概念がないのか?
「そうだな、長時間読書に熱中していたりすると肩や首が固まって痛くならない?それが肩凝りだ」
「あー、わかるかも、異世界の言葉でカタコリっていうんだね!」
「そうなんですね!カタコリ!
僕も覚えました、
こちらの言葉だと「首が痛い」とか「背中が痛い」としか言いませんからね。」
なるほど!ほぼ英語と同じ表現ってことか?
英語だと「stiff neck(凝った首)」「stiff back(凝った背中)」とか、具体的な場所を表すからな。
「stiff」の他にも「tension(緊張、張り)」という表現もする。
つまり「tension on my neck and shoulders(首から肩にかけてのハリ)」、
とか「tension on my neck and upper back(首から背中にかけてのハリ)」になる
最近だとスマホの影響からか「neck pain(首痛ぇ)」が多いきがするが…
ちなみに中国語でも
「肩頸酸痛」とか「肩膀僵硬」のように具体的な表現をする。
うん、わかりやすい。
たぶん日本語の「肩凝り」が上、中部僧帽筋を指して「肩」と表しているのはちょっと珍しい例だと思う。
さすが、察する文化!肩こりも具体的にどこがどう固まってるか空気読めよ!というのが極めて日本的だ。
おっと話がずれてしまったが…
「瘀血っていうのは血の流れが悪くて血流が淀んでいる状態のことだね」
「血の流れが悪いとなんでいけないの??どうなるの??」
「血液は主に酸素と栄養と熱を運んでるからね、血流が滞ると、組織が酸素や栄養不足になるから刺すような痛みがでたり、冷え性になったり、免疫が落ちたりする。
通常赤血球はシアル酸の外膜に覆われていてマイナスの電子を帯びているから、互いに癒合することなく、組織を栄養してるんだけど 、瘀血がある場合、マイナスの電子を帯びていた赤血球が、酸化によってプラスの電荷を帯び、つまり癒合して血流が悪くなる。また癒合により白血球が赤血球にとりかこまれるような形になって活動が阻害され。全身への組織への酸素供給も悪くなり、その結果新陳代謝も低下し、身体も冷え、免疫も低下する、この酸化を進めるのは血中の余分な糖質であるため、糖分や炭水化物に偏った飲食は瘀血の状態を悪化させる原因となる…」
「うわぁ、クマさんが難しいこと言ってるぅ…」
「異世界の単語が多すぎてわかりませんね…」
あ、ダンボーがもう一人増えた
「わかった、わかった、ということで吸い玉をやろう!」
脈をとる限り
睡眠が若干足りてないので脈が弱く感じるが、基本的には若くて元気な体質のようだ。
東洋医学では治療法をザックリと大きく分けると補法と瀉法という2つの治療法に分かれる。
「補法」とは漢方、お灸、食養生などで気血水熱など足りないものを補うことで治療する方法で
「瀉法」とは逆に漢方、鍼、刺絡、吸玉などで過剰なものや外邪を取り去る方法である。
テストでは100点が一番良いが、人体は50点が一番良い。
多すぎても少なすぎても問題を起こすのだ。
健康とはバランスがとれているということである。
吸玉療法は本来瀉法であり、瘀血体質なら誰にでもするというわけではないが、瀉血を伴わないものであれば数さえ考慮すればそんなに神経質になるものでもない。
「仕事が忙しいようだけど今度の休みはいつ?」
「ちょうど明日で10連勤が終わります、店主が王都から帰ってきますので、」
「ふむ、それはちょうど良かった、
丸く出た痣を直すのに体力が持ってかれるからね、
今日明日は疲れると思うから、明日は泥のように眠ってくれ。」
シルバーリーフの街に着くまで湯沸かし器になっていたガラスの吸い玉は隙間時間で綺麗に拭いておいたので早速アル綿を鉗子で挟んで火をつけ、ビンの中を真空にして上部僧帽筋からならべていった。
そうそう、最近はシリコン製のもあってね、ついでに腰にも貼っておこう!
「はい、じゃあそのまんま15分放置ね!おやすみ!」
「え!?そ、それでは…これも接客の内ということで、遠慮なく…」
リコリスくんはカウンター脇の長いソファーに突っ伏したまんましばしの眠りについた。
ゲームなら宿屋の音楽が流れていただろう。
ほどなくして、肩も首も肩甲骨の上も下も間も大小さまざまな紫色の丸がたくさん出た。
ちなみに瘀血の少ない人は吸い玉で引っ張っても色が出ないか、出たとしてもすぐにピンク色になって消えていく。
また瘀血があるからと言ってどこでも色が出るわけではなく、皮膚が薄くて筋層が近い場所ほど色が出やすい。
脂肪層が厚いところほど瘀血があったとしても色が出にくくなるので、その辺は工夫して配穴する。
漢方の駆瘀血剤で内側から瘀血を取り去るアプローチも重要だが、はたして同じ植物がこの世界に存在するのか疑問だ。
「それから、肩凝りにいいツボはこの辺だから指で刺激すると楽になるよ」
「ツボってなんでしょう?」
「気血水の…まぁエネルギーの集まる場所かな」
「エネルギーの?……人体にある龍頭のような場所ということでしょうか?」
「うーん、龍頭行ったことないけどたぶんそんな感じ??」
「場所はこの辺なんだけど、他と感覚違うのわかるかな?」
「痛てて!あ、でもなんか気持ちいいですね!もっとやってください、アーッ!」
ニ、ニーチャンまさかあっち系か??
「はわわっ、なんかズーンとかツーンとか、キーンとくる感じなんだね」
この娘は長嶋監督よろしく感覚でやる系みたいだし…
2人にレクチャーしたのはこんなところだ。↓
日本語の肩凝りの肩のあたりから
肩井
(後頸部、第7頸椎棘突起と肩峰外縁を結ぶ線上の中点)
風門
(上背部、第2胸椎棘突起下縁と同じ高さ、後正中線の外方1.5寸)
首の方に行って
天柱
(後頸部、第2頸椎棘突起上縁と同じ高さ、僧帽筋外縁の陥凹部、頭半棘筋膨隆部の外縁)
風池
(前頸部、後頭骨の下方、胸鎖乳突筋と僧帽筋の起始部の間の陥凹部)
首のほうは筋肉で言えば
ほぼ後頭下筋群(大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋)を狙っていけばよい。
NHKの某番組で最新の研究で~とか大げさにやっていたが、東洋医学的にはとりたてて新しくもなんともないんだよね。
「まぁあんまり教えても覚えきれないからこんなところかな?」
「うーんとね、このツーンとするのが天柱でー、こっちのズーンとするのが肩井、こっちのグッっていうのが風池でー………」
あってる!
たった1回で全部的確に覚えやがった、このぶんだとWHOの認定してる361か所の経穴(ツボ)も一日で覚えてしまいそうだ。
奇穴も入れると600か所ぐらいになるけどね。
天才おそるべし!
「それと運動する余裕がないなら、最低でも1時間半に1回ぐらいは首肩をよく回して動かすように心がけよう!飲み物とりにいったり、トイレに行ったときとかにね、
最初はよく忘れるけど、あきらめずに続ければ習慣になるから。」
あとはいつもなら食養生についてもレクチャーする。
瘀血に良い食べ物としては、長ネギ、玉ねぎ、ニンニク、ショウガ、ラッキョウ、黒酢など、科学的にも血流を促すことが証明されている食べ物であるが、漢方同様この世界に似たような植物があるのかどうかは不明だ。
現世では、植物から取り出した精油を使った療法、今ではすっかりポピュラーになったアロマテラピーも併せて使っていたけど、同じ理由から目下アロマオイルが入手できない。
肩凝りを含めストレス由来の疾病には結構重宝していたけどしかたあるまい。
植物の情報収集と研究も今後の課題だ!
成分の分析はできないけど蒸留すれば精油はとれるだろう。
アイリスへの借りを返したら開業して治療室のほかに、錬金術師のような研究室もつくって治療と研究に邁進したい!
うーん、夢が膨らむぜ!
なんて妄想で一人トリップをしていたら
突然騒がしい女の子が入ってきた。
「わぁぁぁぁ!!
お兄ちゃん!?
なにやってるんですかっ!?
黒魔術ですか!?
悪魔的な儀式ですか!?」
キターーーーー!!!!
魔女っ娘キターーーーー!!!
本、ゲーム、アニメ問わずテンプレファンタジーな魔女っ娘がついに登場しましたよ!
「やぁ、リチンじゃないか?もう帰って来たのか?中等科の春休みはまだ先だろ?
それにしてもまた変な帽子かぶって!」
「いいの!!異世界の文献でみたんだから!異世界の人はみんなこの帽子かぶって杖持ってるんだから!」
そういえばこっちの魔法使いみんな普通の格好なんだよな、というか町の人みんなが
大なり小なりあたりまえのように魔法が使えるみたいだから魔法使いっていう職業自体がないのかもしれない。
うおっ!なんかこっちに詰め寄って来た。
「ってか!この人は何なんですか!お兄ちゃんと悪魔契約して連れ去るつもりですかっ!?」
「こらこら、お客さんに失礼のないようにね!それにその人、リチンの憧れてる異世界人だよ」
「うそ!なんでなんで?、トンガリ帽子じゃないの?魔法の杖は!?」
「あ、いやぁその、こっちの世界に来た時に服がボロボロになってしまってね、着替えたんだよ。」
物語の中の住人しかコスプレイヤーさんしかその格好してないけど、子供の夢をわざわざ壊すのも心苦しい、
うむ、全力で黙っておこう!
「この黒い魔法陣?ん?痣?なんなの??」
「あぁ、それは吸玉療法っていって、お兄ちゃんを元気にするための治療の一環だよ、
人によって3日から10日ぐらいかかるけど、消えるから心配しなくていい。」
あ、そういえば魔力測定眼鏡かけっぱなしだったわ
魔女っ娘の横にステータス画面が浮いて表示される。
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名称:リチン・グルキュスリザ
種族:人族
年齢:13歳
魔力値:123265
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うむ、この子は見た目ロリコンの中身だいぶおねいさんな才女と違って正真正銘の中学生のようだ、
しかもなかなかの中二病患者だ!
すばらしい!
おかげで今日も楽しい異世界ライフだった!
ありがとう!
「あー!クマさん!いまなんか良くないことを考えてたよね!?
そうだよね?」
「いや、アイリスさん、気のせいです、なんでもございませんよ」
「敬語やめー!」
非常に図がほしいところですね、画像とかは貼っちゃダメなんですよね?
とりあえずツボの位置はコピペでググっていただければ具体的な位置がわかると思います。
便利な時代になりました。
コツをつかめばご自身でもツボの位置がわかるようになりますのでセルフケアしてみてください。