症例2:弾発指(ばね指)ーシルバーリーフの街ー
最近花粉がヤバイですね!
恐ろしいことです。
鍼灸漢方でも花粉症の緩和は可能ですが、眼洗い鼻うがい等で、原因物質を取り除いてしまうのが一番ですね!
ちなみに、ネイルされてる方はできませんが、手足の爪が伸びっぱなしの方は綺麗に切り揃えるだけでも症状が少し緩和されますよ。
マジです!
それでは、今週もよろしくお願いします!
昨晩は街道沿いの両脇に並ぶ小さな宿場町の宿屋で一泊した。
宿泊費については、歯痛のおじさんが昼間の治療代だといって二人分おごってくれて、夕食と酒までつけてくれた。
ありがたい、ごちになりました!
魔法のウォーターベッドも最高だったけど、やっぱり慣れた布地のマットレスと布団が落ち着くね!
とてもよく眠れた。
よく眠れたんだけど、親子と思われたのかアイリスと一緒の部屋で一瞬ドキッとしたが、当の本人がまったく気にしていない様子だったのでまぁよしとしよう。
ええ、わたくしめもロリコン属性ございませんからね。
朝食は宿屋の簡単なバイキングだった。
こちらの世界の食べ物は生命力があふれていておいしい気がする。
なんというか、素材の味がしっかりしているのだ。
例えば昔ジイちゃんちでとれたニンジンにはニンジン臭さがあった。
子供ながらには食べづらさもあったものの、カレーライスにすると素材のうまみが抽出されて絶品になる。
対して現在都内のスーパーで売られているニンジンは形こそ良いが、昔のものに比べると少し水っぽく感じるのだ。
朝食後はすぐに全員魔車に乗り込んで出発した。
馬糞も排気ガスもでないしクリーンで便利な乗り物だ。
今日の昼過ぎにはシルバーリーフという街につくらしい…
異世界初の街!
ワクワクがとまらない。
車内では乗り合わせた人たちと世間話をして過ごす。
歯痛のおじさんの話によると、
シルバーリーフは比較的寒い地方なのだけれど、植物の生命力が強い土地柄で、冬でも草木が枯れ落ちず、緑の葉っぱに霜がついてキラキラと照らされて銀色に光輝いてとても綺麗なため、観光地にもなっている風光明媚な街らしい。
うむ、実に楽しみだ!!
「「「うわっ!!」」」
突然ガクンと魔車が急停車したと思ったら御者のおじさんが落ち着いた様子で荷台に入ってきた。
「すいませんが、この中に冒険者の方はいらっしゃいませんか?ゴーレムがでました!
それか、水属性の魔法が得意な方、おられませんか?」
え、なに?モンスター出たの!?ヤバくない?
「はい!わたしぼうけんしゃですぅ!」
アイリスが小学生が知ってる問題を聞かれて勢いよく手をあげる時のように、元気よく返事をした。
うそ!?この子冒険者だったの!?
っていうかこの世界冒険者あるんだ!
胸が熱くなるな!!
「アイリスサマ、ボクガヤリマス、オヤスミクダサイ」
水の精霊ラルーカが出てきた。
あいかわらずもふもふして、ぬいぐるみみたいでかわいいヤツだ。
「だいじょうぶだよ、龍脈にいるおかげですこし魔力がもどってるから、
わたしがいくよ!」
よぉーし、がんばるぞー!といった顔で魔車を降りる。
これは俺もついて行くしかあるまい、魔車に乗ってる12人のうち、戦えそうな男性は俺しかいない、
老夫婦2組と、子づれのお母さん2組に歯痛のおじさんである。
役に立つかどうかは別として、女の子一人行かせるわけには行かない。
「ラルーカ、くまさんをおねがいね。」
あれ?むしろ俺お荷物なの?
こうみえても剣道2段、空手2段なんだけどこっちの世界ではダメっぽいの?
アイリスは太もものホルダーから文庫本サイズぐらいの本を引き抜くとパラパラとページをめくり、何枚か切り割いた。
目の前には体調3メートルはあろうかというゴーレムが地響きをともなって集まってくる。
あ!あいつは、見たことがある、よくゲームに出てくる土塊のモンスターだ!
おいおい、全部で6体も沸いてきやがった!
アイリスはとくにあせった様子もなく魔法書の切れ端を敵にかざす。
〇の中に◇が描かれている直径10㎝ぐらいの魔法陣に魔力が込められて、発光したと思ったら…
!!!ッドーーーーーーーーーン!!!
という轟音とともにゴーレムの胴体に風穴があいた。
水を超高圧で一瞬で打ち出した!??
6体のゴーレムは次々に胴体に風穴を開けられていくと同時に活動を停止した。
なにこの子、めっちゃ強い!!
感心した次の瞬間、脳裏に嫌な記憶が蘇った。
ゴーレム…
水の魔法…
ドラゴン!!!
ドラゴンの大口の映像、一緒に落ちていくゴーレム、
背筋が凍り付く
まさか、俺、ゴーレムと一緒にドラゴンに食われた!?
まさか!?アイリスが、ドラゴンから助けてくれたのか??
ずっと崖から落ちて頭を打って気絶していたと思っていたが、思い出した!
この記憶は真実だという直感がある。
「ただいまー、おわったよ!」
アイリスはニコニコして戻ってきて俺の手を取って魔車に乗り込んだ。
「おぉ!冒険者様ありがとうございます。助かりました!少しですがこれをどうぞ」
御者のおじさんが魔力回復薬と思われる小瓶をわたす。
「お嬢ちゃん、すごい水魔法の使い手だねぇ、若いのにすごいねぇ、魔法キャンディーぐらいしかないけど食べとくれ」
「おねーちゃんすごーい!」
「すげぇ!ドーンて、カッケー!」
子供たちも大喜びだ!
「えへへ、ありがとー!」
えっへん!という感じでドヤ顔している。かわいいカンジで…
「くまさん、どうかしたの?」
あれ?アイリスがまた幼くなってる。
魔素を消費しすぎたからか?
「実は、さっきのゴーレムをみて思い出したんだけど…
俺ってドラゴンに食べられて…
助けてくれたのってもしかしてアイリス?」
「はい、くまさんはどらごんにたべられてしんでたんだよ。」
小瓶に入った回復ポーションをおいしそうに飲みながらしれっとそういった。
「え、死んでた!?」
今、死んでたって言ったよな!?
今生きてるってことはこの世界では死者も生き返らせることができるのか?
「ソウダヨ、アイリスサマガ、スベテノマリョクヲシヨウシテ、キミヲソセイサセタンダヨ、カンシャシ!カンシャ!」
マジか!?
しかし蘇生魔法ってことは当然回復魔法よりも上位レベルだよな?
「でも昨日上位の回復魔法は一部の天才にしか使えないって??…」
「アイリスサマハ、オウコクサイキョウノ11ニンノマホウツカイノウチノヒトリダヨ」
「こぉーら、ラルーカ!」
「スイマセン、シャベリスギマシタ」
ニコニコとほっぺを膨らませながら飴玉をもぐもぐしているこの子が、王国最強の11人の魔法使いのうちの一人??
「まじか!?そいつはビックリだ!
でもなんにせよ俺の命の恩人なんだ。
助けてくれて本当にありがとう!
本当に…
俺にできることは、今のところあまりなさそうだけど、この借りはいつか必ず返させてくれ。」
そういって頭を深々と下げると、どういうわけか頭を撫でられた。
ホント、出会ってからずっと世話になりっぱなしだな。
まずはアイリスに恩返しすることを目標にがんばろう!!
「みなさーん、そろそろ到着しますので、身分証明書の準備をお願いしますよー。」
城門がみえてきた、城門の前には川が流れており橋がかかっている。
わぁお!本格的に冒険者になったみたいで心がおどる!
リアルファンタジーワールド!
石造の橋を渡ると大きな城門があり、隣の通用口で衛兵が身分証明書の確認をしている。
俺らも魔車を下りて検問の列に並んだ。
あれ?俺身分証なんて持ってないけど…ヤバくね?
アイリスに視線を送るも、相変わらず純真無垢なかわいらしい笑顔で返された。
やべぇ、絶対こっちの意図わかってないよね…
傭兵一同はアイリスをみた瞬間、深々とお辞儀をすると、慌てた様子で仲間になにか伝令を伝えていた。
アイリスは例の異世界スマホ、魔石版でなにやら身分証を提示していたが、衛兵はまじまじと確認することもなく深々と頭を下げ、隣にいた俺も何も言われずに先へ促された。
マジか!?この子マジで検問顔パスなほど有名なのか!?天才児なのか!?
城門を抜けるとそこはまさにファンタジー世界の街なみが広がっていた。
「おぉ!こりゃすごい!綺麗だなー」
城壁から一本縦にまっすぐのびる石畳、
かわいらしいおとぎ話に出てくるような木組の家、城壁の街、煌めく湖、つややかな緑、紺碧の空、ありがとう異世界!!
ホント感動した!
しかし城壁の中の街なのにやたら水が多い街だ、
しかし、イタリアの水の都ベニスのような水路の街を、さらに城壁で囲ったような形態ではなく。
城壁で囲われたデカい湖の中に小さい島が密集しており、その小さな島の上に建物が建っているといったほうが正しいだろうか?
だいたいは小島の上に建物が一つと庭があり、各島を木製の小さな橋がつないでいる。
遠くのほうに小さな古城らしき建物がみえた。
街に入ってからは先ず、魔車で話していた通りに洋服屋に連れてってもらった。
そりゃまぁこんなボロボロの格好で少女と歩いてたら圧倒的不審者だもんね?
はじまりの街でいきなり牢屋行はたまったもんじゃない。
俺らはメイン通りの一角にある、裁縫の針と糸と洋服のデザインされた鉄製の看板がさげられた、立派な木組の家の重そうな扉を開けて入店した。
「まぁ!アイリス様、無事お戻りになられたのですか、よかったですわ!心配していたのですよ。」
迎えたのは丸渕眼鏡をかけたおばさんで、刺繍仕事を中断してすぐさまこちらにとんできた。
どうもアイリスはこの街では非常に有名なようで、さっきから街の人々にやたらと声をかけられているのだ、さすが王国に11人しかいない実力者のうちの一人である。
「ありがとう、リンデンさん、きょうはこの人の服をみつくろってほしくてきたの。」
「やぁ、どうも!」
俺、おばちゃんにやたら奇異の目でみられる、半分はアイリスとどういう関係なのか、
もう半分はプロとして、この男どういう服装をしているのか?アイリス様と一緒にいるのだからただの不審者ではあるまい?
新しいファッションなのか?といったことを考えているように思える。
「はいはい、かしこまりましたよ、えーと、そうねぇ…
あなたの背丈だと、こちらなんていかがでしょうね?」
おぉ!かっこいい!英国紳士のような格好にファンタジー要素を加えたような服をあてがわれた。
「いやぁ、こいつは素敵な服ですね!」
だが俺にこんな舞踏会に行くような立派な服着こなせるのか?
「あら、ありがとう!私刺繍が得意なのよ、気に入っていただけたら嬉しいわ、どうぞこちらで合わせてみたください」
フィッティングルームに案内されてカーテンが閉まる。
一見するとシンプルに黒のズボン、白いYシャツの上に黒いベストという格好なのだが、ズボンもベストも淵に嫌味にならない程度のシンプルな金の刺繍が施されていたり、白のワイシャツもいたるところに飾りがついていて恐ろしくオシャレである。
ちょっとまて、これそうとう高級なんじゃないか?
アイリスもこちらが一文無しという事情は知っているはずなのだが。
「どうかしら?なにか不具合があったら言ってくださいね。」
「あ、はい今出ますんで」
シャッとカーテンを開けると、二人の女性がオッサンの劇的ビフォーアフターに目を丸くした。
この高級フィッティングルーム洗面所や化粧台まで完備されてたから、サバイバル生活で伸びた無精ひげも剃らせてもらったからね…
「わぁ、くまさん、とってもカッコいいー!」
「ええ、これはよくお似合いです!」
といって姿見の前に立たされた、
あんなにみすぼらしかったオッサンが、なんということでしょう!
馬子にも衣裳とはよく言ったものだ、ちょっとしたご貴族さんといってもバレない程度には格好がついたのではないか?
なんか照れるけどもー。
めちゃめちゃ恥ずかしいんだけどもー。
結局購入することになった。
料金についてはアイリスが払うと言い張ったが、子供から金を借りるわけにはいかない。
先ほどから気になっていたことを交渉材料に取引を試みよう。
リンデンさんまだ素人目にはわからない程度の変形だが、おそらく弾発指、通称バネ指と言われる疾患がある。
指先をよく使う職業の人に多い。
「リンデンさん、手を握りこんだ時に痛みがあるんじゃないですかね?
それも指を無理に開こうとするとカクンと跳ね上がったりする。
症状は朝起きた時が一番辛くて、作業し始めるとわりかし気にならなくなる…」
リンデンさんの目はみるみるまるくなってきた。
「まぁ!そのとおりよ、なんでわかるのかしら?そうなの、ここのところさらにひどくてね、
回復魔法じゃ治らないし、こまってるの」
やっぱりか!
「それ、直せますよ、しかも今すぐに改善が見られると思います。」
「まぁまぁ、あなた凄腕の治癒魔法師さんなの?」
「いえ、魔法とはちがうんですがね…治せる方法はありますよ。」
「どんな方法でも、治ったら嬉しいわ、冬は特に酷くて困ってたの…」
結局、治癒魔法代に比べれば洋服1セット分はだいぶ安いらしく、交渉は成立した。
バネ指は更年期の女性に多く、妊娠出産期の女性にも多く見られる。
仕事やスポーツなどで手を使いすぎて腱鞘炎になったものが長引くと、動かすたびに摩擦のため炎症が進み、腱鞘が肥厚し、中を通る指を曲げる腱が通過障害をおこした状態になったものである。
糖尿病、リウマチ、透析患者さんにも多い。
腱鞘とは腱を関節に固定するトンネル状のバンドのようなもので、腱がその中を何度も繰り返し通過する際に擦れて炎症を起こすことがある。
その際患部が腫れて腱が腱鞘をスムーズに通過できなくなってしまったのもがバネ指である。
「それではちょっと手をお借りしますね、多少熱いですがよろしいですかね?」
バッグから線香ともぐさを取り出し、線香にライターで火をつけた。
「ええ、良くなるんなら多少のことは我慢するわ、
あら、あなた変わった魔道具を持ってるのね?」
お店の商談スペースにある机を挟んでに向かい合って座ってもらい、腕をおいて安定させる。
一番症状がでていた中指の付け根の部分に米粒大の捻ったもぐさを乗せる。
「ええ、魔力を使わなくても火がつくっていうシロモンでして、」
世間話をしながら線香でもぐさに点火した。
「まぁ!魔力を使わなくても火が生み出せるなんて!そんなことでき
アッツ!!いのね…」
「あと9回ほどやりますが大丈夫ですか?」
「ええ、少し驚いたけど、嫌な熱さじゃないわ…
むしろ浸透してくるようで心地よいわ」
「それじゃ、遠慮なく…」
結局中指の付け根に10壮(回)と、人差し指の付け根に8壮、透熱灸をした。
白くて冷たかったリンデンさんの手のひら全体がピンク色になってきて、傍目にも血色が良くなったのがわかる。
「ちょっと動かしてもらってもいいですかね?」
リンデンさんは何回かグーパーグーパーして驚いた様子だ。
「まぁまぁ!これはいったいどういうことでしょう!?
指が引っかからないわ!
すごくスムーズになったわ!
これは新しい魔法なの?それとも魔道具なのかしら?」
「そいつはよかった!これはまぁ、魔法というより、お灸という治療の一手法でして…
なんにせよ楽になって喜んでもらえれば何よりです!」
こうして、リンデンさんは得意な刺繍仕事にもよりいっそう実力を発揮できるようになり、
その後もちょくちょくバネ指の定期メンテナンスに行っては世話を焼いてくれるので、
現世ではあり得なかったほどのオシャレな仕事着で治療させてもらっている。
本当にありがたいことだ。
最近少しづつ文章書くのが楽しくなってきました!
がんばります!