症例1歯の痛み(乗り物酔いも)
説明へたすぎてすいません!
みなさんの想像力を貸してください。
王都で開業するまでにまだまだかかりそうですね…
毎週更新予定ですので、とりあえず頭の中にあるものを吐き出していきたいと思います。
症例1歯の痛み(乗り物酔いも)
知らない土地で孤軍奮闘、一人きりから二人になった。
誰かが一緒にいるってだけでこんなに気持ちが楽になるなんて思わなかった。
しかもかわいい女の子である。
このルックスで年の近い女性だったらドキドキしてしまう状況だが、中学生か高校生ぐらいの子供である。
今日もオッサンと少女は二人平和に歩く。
昨日はそりゃもうよく眠れた。
おいしく食事をいただいた後、アイリスがリュック型の鞄から大きめの本を取り出して開いて地面におくとやはり魔法陣が描いてあり、水の精霊ラルーカが魔力を込めると、本のまわりの土が盛り上がっていって土の家ができた。
そりゃまぁぶったまげたけど、そのあともすごかったね!
例の水を操る魔法で、寝袋型に水塊を作り、温度を操る魔法で体温よりも少し暖かい程度の温度を維持する。
超高級ウォーターベッドの完成だ!
異世界に来て以来俺が苦労した水も火もシェルターも食べ物も、魔法で一瞬で解決しちまうんだからな、
なんだかね…
朝は俺が炒っておいたどんぐりコーヒーを飲んだ。
あれはトログの実といって魔力を含んでいるらしく、アイリスは喜んで飲んでくれた。砂糖をいっぱい入れていた気もするが…
食べ物は、例のカバンからサンドイッチを出してもらって食べた。
どらえもんかな??
お礼に俺のほうも大事に少しづつ食べていたチョコをここで開放したら
「とってもおいひぃれすぅー」
といってうっとりした笑顔でもぐもぐしながら食べてくれた。
チョコはこの世界にないらしく、とても興奮していた。
で、そのあと魔法の本を閉じると石の家がなにごともなかったかのように地面にもどり、出発したわけだが…
しばらく歩くと石畳の街道にぶつかった。
転生後はじめてみる大規模な人工物、文明の産物に心が躍った。
石畳の街道沿いの綺麗な緑の林と透きとおった青い空を眺めながら歩いていると…
馬車が来た。
どうみても乗合馬車で、木製の客車部分の小窓から人が乗っているのがみてとれるんだけど、馬だけがいない。
御者のおじさんが手綱のかわりに握っているのはバイクのハンドルのようなもので、ヘッドライトに当たる部分に大きな水晶玉?がついて魔法陣が光っているのがみえる、動力はやはり魔法のようだ。
「こ、これってもしかして…」
「ましゃですよー」
うん、魔車ね、ちょっとそうだろうと思ったよ
「はぁーい、のりますぅ、はぁーい!」
アイリスが右手をめいっぱい伸ばして、ぴょんぴょんはねると、耳の遠そうな御者の初老のおじさんもさすがに気が付いて馬車を止めてくれた。
「しるばーりーふまでおねがいしまぁす。」
そういうと例のはがきサイズの、ルビーのような赤い石板を腰のホルダーから取り出し、おじさんの持っているエメラルドグリーン色の石板(こちらはタブレット端末ぐらいの大きさがある)にかざすと、俺の手を引いて、馬車に乗り込んだ。
電子マネー魔法かな?
ちょうどシルバーリーフという大きな町がここから一番近いのだそうで、アイリスの家もそこにあるのだそうだ。
森で会えたのも何かのご縁だから家にきて準備をするといい、あなたをこのままこの世界に放置するわけにはいかない、家族に紹介したい。といったことを言ってくれた。
とりあえず生活のために仕事を見つけなければいけないが、たしかにこの世界の知識がなさすぎてやっていける自信がない、大の大人が情けないがここは甘えさせてもらおう。
魔車にのりこんでからは、いくつかこちらの世界の話を聞かせてもらった。
こっちではだいたい、大きな街道は龍脈と呼ばれる魔素の流れる川のような大きな流れの上に作られており、その上では個人の魔法力も大幅に底上げされるため、乗合馬車や現世のトラックのような重量物も運ぶことができるという。
龍脈は、古くは魔石が取れたルートなので、魔石の道とも呼ばれていたのだが。
後に、魔石があるために魔力使用が強化されるのではなく、もともと魔素の大きな流れがあって、その流れの上にある、魔素を吸収しやすい石が魔石になったことがわかったため改名されたらしい。
「龍脈、があつまるばしょが龍頭になるの、だいたい龍頭にはおおきなくにの首都があってそこでは魔力がちいさいひとでも生活魔法ぐらいならじゆうにつかえるの」
おぉ、アイリスが長文をしゃべった!
これがまさに龍脈の上にいる影響力なのか?、翻訳魔法がかなり正確に機能しているっぽい。
「へー、じゃあ俺も習えば魔法が使えるってことだよね?どうやって習得するんだい?むずかしい?」
「むずかしくないよ、まほうじんにまりょくをとおすだけなの。まほうじんをかくのはすこしむずかしいけど、魔石をつかえばべんりでかんたんなの」
アイリスの説明を要約すると、この魔石(魔法石とも)にはいくつか特徴がある。
第1に魔力を貯められる。
つまりは電池のような使い方ができる。
第2に魔素を非常によく通す。
魔石を原料にすれば魔素が通過する回路を描くことができる、多くは岩絵の具の要領で粉にしたものを接着剤のようなものに混ぜて描き、魔法陣を定着させる。
魔素とは、あらゆる物質に変換がきくトンデモ物質で、膨大な魔素の量さえあれば現世のアルケミストが夢見た金を錬成することも可能だという。
第3に魔石は属性をもっている。
例えば属性は色によって違い、原子の運動量を大きくする力のあるものは赤、逆に小さくさせる力のある石は青、原子間の力を強めるものは黄色、物質を元の状態に戻そうとする力のあるものは緑なのだという。
つまり火属性は赤、水属性は青、強化属性は黄色、回復属性は緑といった具合だ。
それで昨晩の調理には赤いプレートを使っていたのかな?。
ただしクリスタルのように透明な無属性の魔石もあり、色付きの魔石よりも効果は落ちるが、どの属性にも変化させることができるという、
染色して自分の好きな色にするのがここ最近のブームなので、見た目の色だけで属性を判断することはできないそうだ。
アイリスの住んでいる国は、北東を伝統的魔法技術を研鑽するエルフの国、
南東を冶金技術に端を発する魔法工学が盛んなドワーフの国に挟まれているため、
仲の悪い2者の両方の技術を輸入して発達した、情報系魔法技術が盛んに研究されている国らしく、魔石をスマホのように活用する技術が開発されていた。
この「魔石版」と翻訳されたスマホのようなものは、カラフルな薄いアクリル板のような見た目なのだが、魔車の人々がいじっているのを見る限りでは、大きさはタブレット端末ぐらいのサイズが標準のようだ。
しかし、しばらく魔石版でをあれこれ見せてもらっていたら酔ってきた。
この世界の馬車を動かす動力は超エコでトンデモ技術なのだが、
石畳や車輪、サスペンションなどはほぼ中世に準じるレベルなのかだいぶ揺れる。
現世の車、つまりはタイヤ、舗装された道路、に慣れきっている俺はだいぶ酔ってきてしまった。
それにいつもは運転する側だから前向いてるけど、ずっと横向いていたからなのかなおさらひどい。
車酔いしたのは中学生ぶりくらいな気がする。
止まってくれともいうわけにもいかないので自分で何とかするしかない、大丈夫、こういう時は酔い止めのツボというものがあるのさ!
早速鞄から鍼を取り出して手首の内側のシワから肘側に指幅3本分のところにある内関というツボに鍼をさす。
(前腕前面、長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間、手関節掌側横紋上方2寸)
「わわっ、なにしてるの?」
アイリスは目をまんまるにして腕に刺さっている鍼をみている。
「ん?、まぁこっちの世界には鍼はないわな…」
「うーん、そうだなぁ、アイリスがさっき言ってた龍頭と龍脈の関係と一緒で人体にもツボと経絡っていうのがあるんだ、龍頭から発信した情報や物資が龍脈を通って遠くの村を発展させたり、影響を及ぼすようなもんかな…?」
現世では患者さんに説明する時に、ツボと経絡は駅と線路の関係に例えて、たくさんの路線が交わっている大きな駅を刺激するほど全身に効果を波及できると説明している。
鍼灸治療、ツボと経絡の概念の発見は一説によると、怪我をしたりトゲが刺さったりした人の持病である、頭痛や胃の痛みなどが消えてしまったことに由来するという。
逆に故意にその場所に鍼を刺してみたら同じように痛みがなくなったことから研究されるようになり、何千年も皇帝のための宮廷医学を筆頭に研鑽されてきたものだ。
昔ながらの東洋医学の概念は古代中国の歴史文化を背景にした言葉で記述されているために、どこか占いみたいな雰囲気を持っているので説明が抽象的になってわかりずらいのだが、近年では西洋医学的な研究も盛んで、西洋医学の言葉だと体性内蔵反射と内蔵体性反射やデルマトームで説明されることが多い。
念のため円皮鍼も張っておこう!
円皮鍼とはエレキバンのマグネットの部分が小さな鍼になっているようなもので、皮膚または表層の筋層に刺しっぱなしにできるので、効果は鍼よりは多少マイルドだが、貼っている間中効かせられるようにした鍼道具の一つだ。
ふー、これでしばらくしたらましになるだろう。
「へー、それで酔いが止まるなんて、あんたかわったマジックアイテムを持ってるんだね!?、
あぁ、ちょっと会話が聞こえちまったもんで…」
商人風のおじさんが話しかけてきた。
見るからに右の下顎の奥歯あたりが、顔の形が変わるほどぼっこりと腫れあがっている。
これはもう見てるだけで痛そうだ。
「見ての通りで、虫歯がひどくてね、うちの村じゃそんな高度な回復魔法が使える魔術師もいないし、
シルバーリーフの街に歯の治療にいくんでさ」
なんと、こちらの世界は魔法が中心の世界だから、回復魔法で一瞬でよくなると思っていたのだが、
歯の痛みは止められないそうだ。
でも治療方法はあって、あろうことか麻酔なしで一度歯をペンチのような物で引っこ抜き「外傷」を故意につくってから回復魔法をかけると新しい歯が復元されるという。
おいおい、ずいぶんと荒療治だな。
これは後からわかったことなのだが、回復魔法はざっくり言うと神レベルな外科手術に相当する。
つまり、手足が飛んだり、腹を掻っ捌かれたり、果ては頭が胴体とさようならしても、全身バラバラにされても回復魔法で治せる。
ブラックジャック先生も真っ青だぜ!
また、外界由来の毒や細菌、ウイルス感染等の疾患に対しては状態異常回復魔法がある。
だが解剖学的な構造に問題ないものに対しては、回復魔法はほぼ効果がないのだ。
現世でもよくある、症状がつらいから病院に行ったのに、「うーんどこも異常ありませんねー、よかったですねー、お大事にどうぞー」っていうアレである。
つまり、肩こりや頭痛、めまい、吐き気、動悸、息切れ、胃痛、下痢、冷え性、不眠、自律神経失調症等の不定愁訴に関してこの世界では絶望的に治療方法がなかったのだ。
「あー、いてぇ、ズキズキする」
「おやっさん、よかったらその痛み止めましょうかい?
虫歯自体が治るわけじゃないんですがね、さしあたっての痛みだけならたぶんだいぶ軽くできますよ。」
この世界の人間にも鍼治療効くよな?
「ほ、ほんとか!そりゃたすかる、あんた医療魔法師さんかい?
すごいマジックアイテムも持ってるみたいだし、さっそくたのむよ!」
「あー魔法ではないですがね…ちょっと手をお借りしますよ。」
早速アルコール綿花で消毒し、ディスポーサブルの鍼を取り出し「合谷」というツボに刺す、
場所は人差し指と親指の骨が合流するところから、人差し指の骨に沿って少し指の先端方向にいったところだ。
(手背、第2中手骨中点撓側)
「ちょっと響かせますんで我慢してくださいよ」
そういって鍼の柄の部分を持って手技をくわえる、旋撚術といって、鍼を左右に半回転ずつ交互にひねりながら行う方法だ。
180°捻ったらきっちり180°もどさないと徐々にずれていって筋繊維を絡めていってしまうので、学生時代にお子様ランチの旗のように鍼にシールをつけて目印にした鍼で何度も練習させられた。
「あー、手が勝手に、ナニコレ?」
おじさんは自分の意思とは関係なくピクッと筋肉が動いて、指でぎゅっと押された時のようなズーンと響く感覚に驚いている。
「得気って言いましてね、苦手な方もいますが…もう少し我慢してくださいね」
得気は必ず出さないといけないものではないのだが、
これだけ痛そうな歯の痛みに対してはある程度しっかりと響かせておきたいところだ。
厳密にいうと下の歯が痛いときは大腸経、上の歯が痛いときは胃経のツボを使うのだが、「合谷」は首から上の疾患ならなんでも効果を発揮する万能穴なので、上の歯が痛む時でも押してみてほしい。
西洋医学的にも合谷に鍼をすると顔の血流が上がることが論文になっている。
おじさんの歯の痛みは下顎なので、同じく大腸経の「温溜」と「手三里」にも鍼をし、「合谷」には円皮鍼を貼っておいた。
「なんてこった!全く痛まない、これはすごい!
しかしこれは…?魔法を発動した様子はないし…あんた不思議な術をつかうんだね!」
「いやまぁうちらの世界では珍しくはないんですがね」
「世界??」
「あ、いや…
そうそう、何度も言いますけどね、今は一時的に痛みを止めてるだけで、治ったわけではないんで、しっかり歯の回復魔法してもらってくださいね」
「あぁ、わかった。明日の昼すぎにはシルバーリーフの街に着く、今夜は痛みで眠れないと覚悟していたもんで、本当に助かったよ!ありがとう!
して… お代はいくらなんだい?」
「いえ、旅の道中ですし、これくらい別にかまいませんよ。」
「馬鹿言っちゃいけない、回復魔法は五芒星だろ?それ相応の対価をとってもらわにゃ、」
「五芒星??」
「まほうじんにはいろんな図形があるの。△形から面ができるから、魔素を閉じ込めることができるの…」
アイリス先生の説明によると、この世界の魔法陣は円の大きさと中の図形の画数で必要魔力量が決まるらしい、つまり角数の一番小さな三角形は日常生活に使う程度の簡単な魔法でよくつかわれており、魔素の消費が少ないぶん大きな円を描くことができる、単純な動きで威力も小さいが、広範囲に効果を発揮させたい時も△を使うらしい。
四角形になると、出現範囲はが狭いが威力が格段に上がるため、戦闘にに使われることが多い。
複雑な命令式を与えるときも使用するので、魔石版にも小さな□の魔法陣がいっぱい並んでいる。
五角形になると、よほどの天才でない限り人ひとり分の魔力では発動することができず、円の大きさも小さな範囲に限られてしまう。
特に人体を構成するフィフスエレメント(木火土金水)と人体そのものを表した五芒星を使う、
それも全身を覆うような大きさの魔法陣を発動させる回復魔法は、
よほど魔力値の高いエリートが、魔素の集まる龍頭のそれも魔石で造られた教会の中でないと扱えないという。
今の俺のスキルでも、そんな大変な回復魔法でも治せない疾患で困って泣いている人々を助けることができるのだ。
多くの異世界転生物語で転生時に神様からあたえられるチート能力を、与えられずして俺はすでに持っていたことになる。
あるいは現世で習得したスキルが活用できる世界に転生させてくれたかのどちらかだ。
現世の世界では憧れでしかなかった、魔法という存在があたりまえすぎるこの世界で、
正直やっていけるかどうか不安だったが、
この世界の人の役に立てるかもしれない、自分の居場所ができるかもしれないという希望が湧いてきた良い一日になったのだった。
あとがき
ストーリー展開させつつ、
具体的な日常使える養生法を盛り込みつつ
学生さんの勉強にもなるようなストレスにならない程度の専門知識も盛り込みつつ、
キャラクターの掛け合いを考えつつ
異世界の世界観を描きつつで、てんやわんやになってしまいましたが、そのうちブラッシュアップしていきたいです。