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異世界治療院  作者: 森野熊惨
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異世界サバイバル2日目

異世界サバイバル2日目


鳥のさえずり、薪のはぜる音、澄んだ空気、さわやかな朝!のはずなのだが...


「うーん、さむい、ねむい、んー!」


やはり夜は気温が落ちて寒かった。薪を絶やさないために、2~3時間に一回は起きて薪をくべる作業をしなければならなかったので体力全回とはいかないが、モンスターにも襲われず無事に一夜をあかせたので良しとしよう。

もし斧があれば、太い倒木の真ん中を半分くらい削ったものを2本上下に重ねて、その削った空間で焚火をしておけば朝まで徐々に横方向に燃えていってくれるから暖かいんだけどね、寒い地方の人はこのように横にくべるやり方をして、並列型という。

ちなみに一般的な放射型は少ない薪でも長く燃えてくれる省エネ型だ。

まぁナイフすら持っていないから到底無理なんだけどね。

いつも当たり前のように持って行っていたキャンプ道具が改めて高度な文明の集合体だったことに気が付く。

特にナイフがないだけでこんなに不便になるとは思っていなかった。

あぁ、製鉄技術!素晴らしき金属!


とはいえないものは仕方がない、今日は石器ができそうな石を探しながら歩こうか?


「うー寒っ!」


寝ぼけまなこで腕組みして肩をすくませながら屈伸運動をする。


「まぁ寒いけど、まだ蒸し暑い熱帯雨林で蚊や大量の虫に悩ませられるよりはいいかな。」


「さーて、メシメシ!」


さっそく缶コーヒーを熾火の上に置いて温めつつ、チョコレートの箱とラムネの袋をとりだした。


「ふむふむ、チョコが9個とラムネが15個か」


「朝の糖分補給にチョコ1個とラムネ1個、昼メシぬき!3時のおやつにラムネ1個、夜はおにぎり1個にすると...」


今日の分を除いて、おにぎりは明日まで、チョコはあと8日、ラムネはあと6日あまり1である。


今日入れてあと1週間以内に集落にたどりつけないとかなり危険だな。足りない分は食べれそうな動植物を探したいところだが、ここは異世界、健康を害するリスクを考えると異世界サバイバル料理は最後の手段にすべきだろうか?


「いただきまーす!」


貴重な朝ご飯、9等分されたこぎれいな箱にはいった一番シンプルなデザインのものを半分に割って、半個をぱくっと口の中にほうりこむ。

おぉ!さすがチョコ!寝ぼけたあたまに糖分が染みわたるぜ!

そしていいぐあいにあったまってそうな缶コーヒーをプシュッとあけてチョコが口の中にあるうちにひとくち、ごくりと喉を鳴らした。


「くぅー!あうね!」


考えてみりゃチョコも缶コーヒーもすごいよな!こんな贅沢なひと時を味合わせてくれる液体と保存がきく甘未を携帯できるなんて、今まで当たり前だったが、異世界の森でサバイバルするまで気が付かなかった。

よし!なんか今日一日なんとかなりそうな気がしてきたぞ!

たんにカロリーだけじゃなくて、メンタルにも効くなコレ!

飲み終わった缶コーヒーの缶は大事に鞄に戻して、ざっと基地を現状復帰させて出発した。

しかし、登山用の服装にバックパックなら様になってるんだが、ロングコートに片手に下げるタイプの四角い鞄で山ン中ほっつき歩いてんのも変な気分だ。

下げっぱなしも疲れるのでたまに片手で肩に担いだり、前で抱きかかえてみたりしてみたが、、やはり長距離の行軍には不向きだったので、歩きながら目についたツタを採取して3つ編みにし、2本紐を作ってリュックのように背中に背負った。


よし!これなら長距離歩いても大丈夫そうだ。


その後2時間は歩いただろうか、ただならぬものを発見してしまった。


「うわぁ、クマかね?」


デカい足跡がある、まだくっきりしてて新しそうだな。


「てことは近くにいるかも?」


これは本格的に武器が欲しいな、いや、あっても意味ないことはわかってるんだけど、気分的にほら、少しは安心する...かも?


「あ!」


足跡のおかげで地面をつぶさに観察していたらいいことがあった。

コレは?ドングリ?拾ってまじまじとみてもどうみてもドングリだ!

もしドングリなら味はともかく食料にならなくはないぞ!

うん、とりあえずポケットいっぱいに確保しておこう!


「ラッキー!」


運がいい、というのはとどのつまり目に入っては消えていく膨大な、一見無意味に思える情報の中から、自分にとって有益な意味のある情報を無意識に拾い上げる能力のことであろう。

しかもこの能力、自分って運がいいよねって思いこんでる人ほど強く働いたりする。


ところで異世界のドングリって毒ないよね?


毒といえば、その昔中国に神農さんって人がいてね、『神農本草経』っていう書物を残してるんだけど、この人なんとそこらへんに生えてる植物やら虫やら、はては土や石までも手あたり次第口に入れたらしい、そして何度も死にかけながら、365種の薬物を上品・中品・下品の三品に分類して記述した。

上品じょうほんは無毒で長期服用が可能な養命薬、

中品ちゅうほんは毒にもなり得る養性薬、

下品げほんは毒が強く長期服用が不可能な治病薬

だそうで、漢方薬の礎をつくった人だ!

なんか俺もちょっと真似してみようかな?

さっそくドングリをポケットから1個取り出し、においを嗅ぐ。


「異状なし!」


神農さんに触発されたのと、みためが本当にドングリそのものなのでパクっと一つ口の中に入れて噛んで見た。


「ぶえっ!、シブっ!!」


念のためドングリはすぐさま地面に吐き出しておいた。

そしてあふれ出るつばを手首の内側になめてつけておく。

舌にピリピリした刺激は感じられない、たぶん毒はないと思う。

この渋さはタンニンの渋さだろう、このまま問題なければ、水が確保できたらドングリ茶が飲めそうだ。

昨日半分残しておいたペットボトルのお茶は、ちびちび飲んでいたのだけど、この時で全部飲んでしまった。

水がなくなると途端に不安がじわじわと湧き出てきて広がってきた。

果たして無事に池にたどり着けるのか?方角は間違っていないか、もう一度高台に上って確認したほうが良いのではないか?、そんな体力が残っているか?確認せずに歩いたら永遠につかないのではないか?

今日中にたどり着けなければ死ぬかもしれない...

まさに疑心、暗鬼を生ずである。


だがそれも、幸いにも杞憂で終わった。

出発から6時間ぐらいになるのだろうか?

太陽が真上をこえたあたりで、昨日高台から見た、一番近くの池に到着した。


「やった!水!、あった!」


さっきまでの不安や恐怖感はなんだったのだろう、一瞬にしてどこかへ消えてしまった。

日本では水道の蛇口をひねれば出てくる飲める水、どこででも手に入るあの水が、

水があるというだけで、とにかくうれしかった!

とくに動物の死骸や虫の死骸が浮いているわけでもなく、淀んだいやな匂いがするわけでもない。

むしろ水は綺麗に澄んでいて、透明度も高く、魚も泳いでいる。


「うーむ、見た感じ飲めそうじゃん?とても飲めそうじゃん!」


飲めそうなんだけれどもー、

まだ来たばかりで異世界の細菌やウイルスに抗体をもっていないはずだからいちおう煮沸しておきたい。

長時間歩いて喉はカラカラで池の水を直接がぶ飲みしたい衝動にかられつつも、そこはなんとか冷静さを保っていた。

荷物を降ろすと、池のほとりでさっそく焚火の準備をする。

焚火は段取り9割、火口から小枝、枝、細い薪、とどんどん太くして安定させるために、薪集めはとても重要で、今回の場合は職業柄ライターを持っていたので、薪さえ集めてしまえば火がつかない心配はない。

ほどなくして無事本日の火は確保された。

ライターホントすごい!

とりあえず早く喉をうるおしたいので、コーヒーの空き缶に池の水を汲んできて、焚火の上に置く。


ちょうど、吸い玉というガラスでできた球体のビンも持っているので、これも煮沸ように使おうと考えた。

吸い玉というのは、カッピングともいう治療器具で、とくに資格は必要ないから最近ではエステさんとかでもやってるところがある。

有名な水泳の金メダリストの背中に丸い痣が並んでて、一時期有名になったのでみたことある人も多いはず!

ガラスの丸いビンの口からアルコールで火をつけた脱脂綿をつっこんで、ビンの中の空気を燃やして陰圧にし皮膚を引っ張り上げることによって、淀んだ悪い血である瘀血(オケツ)を体表に引っ張り上げて痣にするために用いる。

一度痣になれば体が治そうと働き出すので、周囲の血流が改善する、という治療のための道具だ。


熾火に直接おくと割れるかな?


「うーん、貴重だからなぁ、やめておこう」


念のために焚火から離して沸かすことにした。

ちょっと手間だが、思ったより順調に到着できてまだ時間があるので、吸い玉を使った煮沸器をクラフトすることにした。

コートを脱いで木の枝に引っ掛けて腕まくりをする。


はい、まずよくしなる木の棒を2本とつる植物をとってきます。


吸い玉8個あるうちの6個を煮沸ようにして、1個はコップ、もう1個は調理用にしよう!


次に吸い玉を縦1列に並べ、ビンの口のくびれの部分に平行に2本の棒をあててはさみ、両端をつるでしばります。このままだと真ん中のビンからはずれて落っこちてしまうので、ビンとビンの間を両側の棒につるを

まきつけていくようにしめていきます。


「できた!はは、なんだこれ枝豆みてー」


ちょっとツタ巻きすぎたかな?とりあえず「エダマメ」と呼ぶことにしよう。

だいぶ不格好ではあるが、水分を含んだやわらかいツタだったし、これだけ巻いておけばたぶん燃え落ちないと思う。

最後にY字のかたちに二股に分かれた木の棒を折り取ってきて、焚火の両脇にぶっさし「エダマメ」をひっかける。


「よし!いい高さだ」


ペットボトルで汲んできた池の水を吸い玉の中に投入してあとは待つばかりだ。

そうこうしているうちに缶の中の水が沸騰したらしく吹きあがってシューシュー言い出したので、火からおろす、今の気温だと飲める温度まですぐに下がるだろう。


「ふんふふ〜ん」


水が確保されただけでこんなにうれしいなんて!思わず鼻歌が出た。

しばらくして、缶がなんとか持てるぐらいの温度になったのでフーフーしてみる。

というかもう喉がカラカラでもうまてない。いただきます!


「あー!うめー!」


猫舌だからまだかなり熱いんだけど夢中で飲んだ。


「こりゃ、あったまるわー!」


乾いたスポンジに染みていくように、全身に水分と熱がどんどん浸透してあったまっていくのがわかる。

最高に幸せだ!


ふと、昼間ドングリ汁をなめつけておいた手首をみてみると、特にかぶれなどの変化はなかったので、

昼間採取しておいたドングリ的なものをコートのポケットから取り出して、いくつかお湯にいれてみた。

お茶として飲んだあとは、殻をむいて中身はたべてみよう。


あはは、なんか縄文人になった気分だな。


当時はまだ主食は米ではなくどんぐりだったらしいもんね。


しかし、食べるにしてもどうせ火を通すからな、炒ってドングリコーヒーでも飲んでみようか?


え?炒るためのフライパンがないって?


大丈夫、膿盆というものがあるのさ!


膿盆とは、誰もが病院でみたことがあるのではないだろうか?大抵は血液がついた汚れたものを入れたりおいたりしておく、デカイ空豆のような形をした銀色のトレーである。

鍼灸の鍼はとても細いからほとんど血は出ないのだけど、たまに1滴2滴出るので、アルコール綿花で止血したものを一時的に膿盆に入れながら治療しているのだ。


物が物だから一応アルコール綿花、通称アル綿を1個あけて消毒はしておいた。

もちろんふいたふいたアル綿は火種になるから取っておく。

ちょうど熾火ができてきたので、上に適度な大きさの石を3つのせ、その上に膿盆をのせて、よくあったまったころあいでドングリをひとつかみ。


「投入よーい、投入!」


しばしコロンコロンとした音をさせながら、木の棒でしばらくつっついていると香ばしい香りがしてきた、

いい感じに表面が焙煎されてきたので、少し濃いめのローストに仕上げて火からあげ、沸騰している吸い玉のビンの中に投入するとみるみる色が茶色くなってきた。


ほどなくしてホントに見た目がコーヒーみたいになった、今回のラムネは砂糖のかわりに溶かし入れよう。

なんか思ったよりうまくいったのでは?さっそく啜ってみる。


「あっ、うまいコレ!」


濃厚でコクがあり、思ったよりうまかった、まぁ昼飯抜きで腹減ってたからってのもあるかもだけども。

昔ボーイスカウトのキャンプでドングリクッキーつくって食べたことあるけど、うまいとは思わなかったんだけどね。異世界のドングリは特別なのかもしれない。


やはり頭に糖分が染みわたるとやる気がわいてくる。

休憩のあとはすぐにシェルターの設営にあたった、もうすぐ日が暮れようとしている。

今日は大きな池のほとりでひさしになるような崖はなかったので、トライポット型のシェルターを設営した。

3本のまっすぐめな枝を三角錐上に組み、頂点をツタで巻き留め、葉っぱの面積の広い適当な広葉樹を葉が付いたまま枝ごとおりとってきて三角錐を覆い雨をしのぐ外壁をつくる。

しかしこの広葉樹、気温のわりにみな一様につややかな緑色をしている、この世界の季節はわからないけど、芽吹くのが早いのだろうか?あるいは落葉せずに冬を越したということか?

不思議な世界だ。


なんだかんだで休憩から3時間ぐらいたったか?あたりはすっかり暗くなっていた。

さぁ一日のお楽しみおにぎりの時間だ!

炒ってないドングリでお茶を煮出して、アルミホイルごと熾火であたためたおにぎりをいただく。


「うんめー!!」


朝からチョコ1個とラムネ2個のみで一日中歩いたり作業したりで、腹が減りすぎていたのも拍車をかけ、

米のひとつぶひとつぶが全身にしみわたり涙がでそうなほどうまかった!

というか涙ぐんでいた。

ちなみに今日のおにぎりの具は塩昆布、ミネラルもバッチリだ!

ありがとうばあちゃん!!


しかし、我ながら今日はよく歩いた!

とくにこういう足場が不安定な森の中ではつまずかないためにつま先を無意識にいつもよりも上げて歩くから、前脛骨筋というすねのすぐ外側の筋肉が非常に張ってくる。

重だるく硬くなってきているから、筋腹にそってマッサージをする。

明日も長距離歩くだろうからね、足が痛くなって動けなくなったら大変だ、メンテナンスは怠ってはいけない。

前脛骨筋にある「足三里」というツボにお灸もしておこう!

ゴソゴソと往診鞄から線香ともぐさをとりだす。

「もぐさ」とはヨモギの葉っぱの裏にうっすらと白っぽく生えている毛茸という毛を集めたもので、お灸はこのもぐさをコメ粒ほどの大きさに指先で捻って、その小さな円錐形状の先端に線香で点火して、人体に無害な程度のほんの小さな火傷をおわせることで治療効果を出すものだ。

東洋医学的には、冷えがついて悪さをしている時や、慢性的な疾患に対してツボに温熱刺激をあたえることで全身の治療効果を出すものとして昔から使われてきたし、

西洋医学的にも、お灸でできたほんの小さな火傷を体が治そうとすることによって免疫機能が活性化することが確認されている。


「松尾芭蕉も三里の灸ってね!」


線香に火をつけておき、もぐさを捻って膝のお皿の下から3寸(指幅4本分)下の高さで、脛の骨のすぐわきの筋肉の筋腹の上にちょこんと乗せて、先端に線香の火を移す。

(下腿前面、犢鼻と解谿を結ぶ線上で犢鼻の下方3寸、前脛骨筋中。合土穴、四総穴、胃の下合穴)


「あちっ!あー」


これは体験した人にしかわからない。

ちくっと刺さるような熱刺激なのだが、すぐにじわーっと奥のほうに温かさがしみわたっていく感じだ。

そしてこのチクッ!ジワ~、チクッ!ジワ~を7回ぐらい両足の足三里に繰り返したところで線香の火をけした。

うーん、このにおい、たぶん日本人には懐かしい、田舎のじいちゃん家を思い出すような香りだ。

わるくない、あーなんか落ち着くっていう意見が大半だと思う。

あるいみアロマだと思うし、事実ローズマリーにも含まれているシネオールという物質を含んでおり、呼吸器疾患にも良い。


「ふぃ~、あー」


温まってきた、足だけじゃなく全身に影響するのが面白いところだ、

今日は疲労も相まっていい感じに眠気が差してきた。眠気がする?

そういえば最近の若い子たちは「眠みがある」って表現するなぁ、ちょっと違和感があるけど、それはそれでかわいいなぁ、と思いながら眠りに落ちた。

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