ダンジョンマスターさんはダンジョンを復旧させる
「マスター…起きてください」
爽やか系イケメンデュラハン、ディラードは困ったような、それでも少し嬉しそうな声色で彼の腰にコアラの如くしがみついている少女を起こそうとする。
「まぁいいですけど…よだれたらさないでくださいね?」
そう言ってディラードは自身の目の前に集中し始める。
彼の手をチカチカと不安定な緑色の光が包む。
「むう…本格的な魔法は苦手なんだが…これもマスターのため…」
しばらく経つと緑色の光は点滅を早め霧散していった。
「…くっ。大丈夫。最初から上手くできるわけがない…治癒魔法はやっぱり難しいな。そう考えるとやっぱあいつはすごかったんだなぁ…」
ディラードは魔法戦士だ。
彼は元々剣しか使えなかった
しかし、たゆまぬ努力により槍や双剣、ナイフや体術を覚えた。
そして近接戦闘があらかたできるようになると今度は魔法の練習を始めた。
武器に属性を付与する魔法剣、自分の身体能力を一時的に強化する魔法などを覚え自身の近接戦闘能力をより伸ばすように鍛錬していた。
彼が遠距離の敵を倒す術を持たないのは、遠距離の敵を倒すのは彼の仲間の仕事だったからだ。
彼が治癒魔法を使えないのは、傷ついた仲間を回復させるのは彼の仲間の仕事だったからだ。
彼が大量の敵を一度に屠る術を持たないのは、息を吐くだけでそれができてしまう仲間がいたからだ。
彼が高速で長距離を移動できないのは、翼を持った強き仲間がいたからだ。
そして彼は…いや彼らはお互いの足りないところを補い合っていた。
「悔しいなぁ…やっておけばよかったなんて思う日が来るなんて」
ちなみに移動に関して言えばデュラハンである彼には愛馬がいるのでどうにかなる話ではあるのだが………それは138層にあった獣舎に入っているため呼び出すことはできない。
その愛馬に名前はない。
種族はスレイバル。6本足の黒馬である。
もちろん空は飛べない。
スレイプニルもいたのだが
『働きたくないでござる』
の一点張りで獣舎から出ようとしなかったために断念していた。
そんな情報はどうでもいいとしてディラードは治癒魔法の練習を続ける。
元々動く死体だった彼には治癒魔法の聖属性は死ぬほど相性が悪い…比喩表現ではなく消滅してもおかしくないくらいのウィークポイントのはずなのだが……
「なかなか上手くならないなぁ……」
このような感じでこれといったダメージもない。
それは彼がすでに動く死体を辞めているからなのだがそれは誰も知らない話であった。
彼は腰に抱きついているマスター、クロノリア・スカーレットを見て微笑む。
彼女はよだれを垂らしながらも満面の笑みを浮かべていた。
「マスター、俺頑張りますね」
そういって彼はまた治癒魔法の鍛錬に励むのだった。
ーーーーーーーー
ふと目がさめる。
相変わらずの石の天井。
暖かくて少し固めのいい匂いのする抱き枕。
ん?抱き枕なんてなかったような…
まぁ気持ちいいからどうでもいいよね。
ボクは寝起きに弱い。
ちょっと抱き枕のポジションが悪いな…
ボクは抱き枕のポジションを変えようと手を伸ばす……
「……マスター。お目覚めですか?」
……誰だろ。この声……あぁ、ディラードか。
「ぇ?ん〜…ふあわぁ…………おはよう」
ボクはよだれを左手で拭きながら応える。
「おはようございます。今は大体夜の10時26分です」
「大体じゃないよね?」
「大体です、それと俺の股の間から手を引いてください」
「え?……あっ」
ボクの右手は知らぬうちにディラードの股間に……
「あっ……じゃないんですよ」
「うん」
いや、誰が男のブツに興味あるかっていう話なんだよ。
ボクはホモォじゃないし。
ボクは男だからね。
女の人の胸の方が好きなんですよ。
……モミモミ。
「マスター?何やってるんですか?」
「いや…小さいなぁって思ってね」
15歳相当の膨らみ方だから大体Bカップくらいかな?と思った製作当時のボクを叱りたい!
そこはDにしておくべきだった!
「成長しないのかな?」
ボクがこの発言をした後とんでもないことをディラードは言った。
「忘れちゃったんですか?吸血鬼は成長しないんですよ。マスターはエルフ系の吸血鬼…しかも真祖なんて他にはいないでしょう。」
そう淡々とした口調でディラードは言った。
なん…だと…
D&Sには種族設定なんてものはなかった。
プレイヤーは皆、探索者として……
おいちょっと待て。
勝手に探索者は皆、人間だと思ってたけど違うのか⁈
まさ…か…
確かにおふざけでちょっと犬歯を鋭くしてみたりしたけど…それだけで吸血鬼判定?!
耳がちょっと尖ってるってだけでエルフ判定か…
「翼なんてないし霧にもなれないのになぁ」
「え?何言ってるんですか?吸血鬼は翼は魔法で作ってますし、霧になんかなれませんよ」
「それ、どこ情報?」
「100層辺りの吸血鬼エリアです」
「あぁ、あそこね」
「……なるほど、マスターは吸血鬼ではなく今でもエルフのつもりであるっと、メモメモ」
ディラードは何やら分厚いメモ用紙を持っている。
「何それ?」
「メモです」
「見せて?」
ボクはちょっとおねだりポーズを取ってみる。
なるべくあざとい感じで、両手を胸の前で組んで首を少し傾げる!
……できてるかな?
「ブフォッ」
「…………」
ディラード…貴様ロリコンだったのか…
15歳が好きな人はロリコンに入りますか?と666chに書き込んであったんだけど…
大体13までならセーフ
そんな回答ばかりだから驚きだよ。
つまりディラードは変態ロリコン紳士なんだな。
ボク基準ならば20以上でないとアウトだ。
18までならギリギリ許せるけど。
「マスター、決して俺には卑しい気持ちがあったわけではなくてですね…」
「黙れロリコン」
「えぇ!?俺はロリコンなんかじゃ」
「黙れ、変態ロリコン紳士野郎」
「はい…すみませんでした」
ボクは落ちているメモを拾って読む
『マスターはたまに一種類のモンスターを狩り続けることがある…注意』
『マスターは稀に鉱山で採掘ポイントを永遠と回り続けることがある。
追記:これはダンジョン内に鉱山エリアを作った方がいいのではないだろうか?』
『ダンジョン内の食料事情がよくないことにマスターが頭を悩ませている…
追記:農場エリアや牧場エリアの建設を申請した』
『マスターは釣りを永遠と始めた…
まさか俺たちまで巻き込まれるとは思わなかった…
追記:ダンジョンに釣りができるようなエリアを建設するべきだと進言した』
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『マスターに召喚された。
どうやら別の世界に来てしまったようだ。
マスターが『街に行きたい』と言っていたので、それに冗談で『攻め込みますか?』と聞いたところとても焦って否定していた。こんなマスターを見るのは初めてだ。それからもマスターは可愛い行動を繰り返している。俺はあいつ一本だったつもりだったんだが…いや、それだけは守り抜こう』
どうやらこのメモ用紙もといメモ帳はディラードの日記のような何かであることが判明した。
ディラードの変態性を暴こうと思っていたのだけど、思いがけずボクの行動を振り返ることにもなった。
あとディラードは好きな人がいるらしい。
まぁ頑張れ。
そういえば街に行こうと思ってたね。
設定を開く。
そこにはダンジョンの現状が表示されている。
現在ダンジョンコアの置かれている最深層しか復旧できていない。
街に行くにしても引きこもるにしてもとりあえず完全に直して置かないとおちおち夜も寝れないよなぁ。
そんなわけでボクは何回も気絶する道を選んだ。
ポーションをあらかじめ出したけど気絶したら飲めないことに気づいた。
ディラードが口移しで飲ませようか?と聞いて来たときにポーションを使うのを諦めた。
野郎に口づけされるなど言語道断!
体は少女でも精神は20代のチェリーボーイなのさ、
ディラードがいくらイケメンだとしてもダメなものはダメなのだよ。
それでポーション以外に策など何もなく、何回も気絶した結果…というか最後の方は気絶しなくなったけど
…なんとかダンジョンはゲーム時代そのものの姿を取り戻した。
ピロロン♪[★1魔力枯渇耐性]を習得しました!
ピロロン♪[★2魔力枯渇耐性]を習得しました!
ピロロン♪[★3魔力枯渇耐性]を習得しました!
ピロロン♪[★4魔力枯渇耐性]を習得しました!
ピロロン♪[★5魔力枯渇克服]を習得しました!
「マスター、これからどうしますか?」
……この問題がある。
前世と同じように引きこもるか…いや、それはもうやめよう。
「とりあえずどこかの街に行こう」
「了解です」
設定を開く。
そこにはダンジョン階層
150/250
の文字がはっきりと表示されていた。
ボクは150層もあるダンジョンの復旧を終えたことでどこかスッキリした気持ちに……
150/250
目をこする。
150/250
間違いなく最大建設層数が増えている…
「ディラード」
旅の準備をしていたディラードがふりかえる。
「モンスター捕まえる準備もよろしく」
未知のモンスターでできた階層!
胸が踊りますなぁ!踊る胸無いけど。
「はぁ…これ以上は必要ないと思いますが…了解」
ディラードが鳥居をくぐってダンジョン内に消えて言ったあとボクは暇になった。
そうだ、チャット見よう。
ディラード君の進言によってダンジョンの中は木々が生い茂る密林から砂漠、火山、海などと環境豊かになって行くのであった。