前世の話2
1ヶ月が経った。
特にやりたいこともない。
行くべきところもない。
やるべきこともない。
やりたいことがない。
何がしたいのかわからない。
寝て起きてだけを繰り返していたある日。
パソコンのメールボックスに一通のメールが届いた。
相手はお父さんの親友だったゲーム会社の社長さん。
ボクのことが心配なんだそうだ。
そしてそのメールには新しいゲームのベータテスターにならないかとも書いてあった。
多分この時おじさんがゲームに誘ってくれなかったらボクは腐ったままだったろう。
その時のボクはなんとなくそれに了承した。
するとすぐにベータ版のゲームのデータが送られてきた。
よく考えてみると情報流出の危険があるのに、社長さんはよくそんなことをしたものだと思う。
ボクはそのゲームをプレイし始めた。
そのゲームの名前は『ダンジョン&シーカーズ』
後に『D&S』と呼ばれて人気を博すMMOの大作だ
プレイヤーはシーカーと呼ばれる探索者で広大なマップの中を動き回りその各地にあるダンジョンを攻略して行く、と言ったものだ。
ボクは正式版になってもやりこみ続けていた。
[クロノリア・スカーレット]
これがボクのキャラであり、もう一つのボクになっていた。
ちなみにボクはこのキャラを作るのに8時間かけた。
暇人とか言わないでほしい。
目とか鼻とか口とか身長やら骨格から全て自分で決めれるんだからやらないと損でしょ?
その8時間の結晶。
それが[クロノリア・スカーレット]
それは15歳くらいの少女だ
ショートの黒髪
ちょっと尖った耳
すらっとした鼻筋
色づきの良い唇
綺麗な黄色の目
身長は145くらいで引き締まった体。
出るところは出てくびれもあるけど歳相応って感じの膨らみ方にしておいた。
まぁキャラ作りだけでこんなに凝ることのできるゲームだからやれることも膨大でずっと楽しむことが出来た。
スキルを集めたり
レベル上げをしたり
時には知らない人とパーティを組んだり
色々やること9年やっとの事でボクはラスボス単独撃破をやり遂げた。
がここで終わらないのがこのゲーム。
なんと自分でダンジョンを作ることができるのだ!
いつしかボクはこのゲームにのめり込んでいた。
最初は現実から目を背け続けられるようにってつもりで始めたのがその時にはたくさんの人との交流を持つ場所になっていた。
でボクはラスボス単独撃破をしたんだけどその時にはキャラを限界まで育て上げていた。
キャラのレベルはもちろんMAX。
転生回数もMAX。
スキルは全部集めたしその全ての熟練度も最大。
装備にも抜かりがなく全てがラスボスを超えていた。
そんなボクのステータスは全てカンスト。
むしろ強化用のポイントが残っているくらいだった。
そんな頭のおかしい(褒め言葉)キャラがダンジョンマスターをしているとネット上ではこう呼ばれた。
裏ボスと。
じゃあやってやろうじゃないかとボクはダンジョン作成を本気でした。
結果として社長さんが
『もう、裏ボスでいいよ』
との衝撃発言。
裏ボス(自称)が裏ボス(公式)になったボクなんだが、ある日おかしいメールが届いた。
ーーーーー
ダンジョンマスターさんへ
あなたは女神様に選ばれました。
こちらの世界に来て勇者をしませんか?
いい返事を待っています。
はい/いいえ
天使より
ーーーーー
とかいうふざけたものだった。
こういうのはクリックすると詐欺被害に遭うとボクは知っている。
でもそれなりに面白いメールだったので洒落た返事をしてみることにした。
ーーーーー
天使さんへ
偉大なる女神様の使いならば、ボクのダンジョンの最奥の間まで来て、直接お願いしてもらいたいものです。
ダンジョンマスターより
ーーーーー
ボクとしては洒落てるんじゃないかと思ったんだけど……送信した後見てみるとちょーダサい。
するとすぐに返信が来た。
ーーーーー
ダンジョンマスターさんへ
あなたは女神様を愚弄なさるのですか!
すぐに迎えに行きますので首洗って待っておいてください。
天使より
ーーーーー
と書いてあった
すぐにゲーム画面をみると確かに天使のグラフィックのプレイヤーがボクのダンジョンに入って来ていた。
そうそう、ボクのダンジョンは
1階からラストダンジョン仕様になっております。
天使さんは即死トラップに引っかかり死んだ。
今回は串刺し。
またのご利用をお待ちしております。
それからも自称天使からのメールとダンジョンアタックは続いた。
落とし穴。
単に強いモンスター。
左右から迫る壁。
落ちてくる天井。
単に強いモンスターその2。
登る階段がそもそもトラップ。
だが毒と矢は効かなかった。
天使さんはことごとく失敗した。あとメールは受け付け拒否したのになぜか届く。不思議。
話は変わるが…天使さんや、せめて10層まではたどり着いてほしい。
ちなみに、このダンジョンは150層あるけど最高到達層が未だ17層という鬼畜っぷりを発揮している。
そのせいで火山ステージとか氷原ステージが日の目を見ない…
未だに遺跡ステージと平原ステージしかみんな知らないのは悲しい。
このダンジョンはラスボスを単独撃破出来るキャラが8人集まってなおかつ完璧なプレイヤースキルを持っていればギリギリ100層まで来れる難易度設定にしてある。
いつかクリアする人が現れるのだろうか…
ボクはそんなことを思いながらパソコンの前から離れる。
そして階段を降りて1階へ
「あれ?もう無くなってたか」
昼ごはん用にストックしてあったカップラーメンが全て消費されていた。
まだって空いてなかったと思うんだけど…
ま、いっか
今からヤマゾンで注文しても昼には間に合わないと思った俺は久し振りに外に出ることにした。
未だに生えてこないヒゲ。
女子にも見間違えるような童顔と白い肌。
しかも未だ身長161cm。
体つきは細い、あんなに不摂生な生活してるのに……華奢だなぁ。
笑顔の練習をしてみた。
顔がひきつるだけだった。
鏡に映るボクは弱々しく見えた。
久しぶりに外に出た。
門の扉を閉めて二、三歩歩いた時後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
そして背中になにかがぶつかるような衝撃。
そこに焼けるような痛みが走る。
ボクは前に倒れる
地面に水たまりができる。
赤い水たまり。
ボクは恐る恐る後ろを振り返ると柳包丁を片手に持った女がいた。
ボクはその顔に見覚えがある。
あのクズの娘だ。
「ハハッ…クズからはクズしか生まれないのか…救えないな」
路上には大きな血溜まりと男性の死体、そして折れた柳包丁が5本落ちていた
ーーーーーーー
『先日、路上で刺殺体が発見されました。
傷跡は背中に一箇所、胸部や腹部に数百箇所あり犯人は強い殺意を持って犯行に及んだものと………
…………被害者の自宅の窓ガラスは焼き切られており物取りの犯行の可能性もありますが…………
…………それらを鑑みるとこの凄惨な事件は容疑者の逆恨みによるものと思われます。当の容疑者は現在○○拘置所に…………』