首輪を外すには
キィンっ
甲高い音がボクの耳に響く。
もうちょっと眠らせて。そんなに急ぐこともなかったような気がするし。
キィン!キィン!
あーもう。うるさいなぁ。
知らないふりをして寝てよう。
キィンキィンキィンキィン
「うるさい、一体なんなのだ」
……なんだ?この口調?あっ、まだ貴族っぽい口調が残ってるのか!
どうしよう、これ……すごく恥ずかしいぞ。
ボクが内心オロオロしていてもボクの表情は全く変わっていない。これもスキルのおかげなのだけど、こっちの機能だけでよかった気がする。
キィンキィン
なんの音なんだろ?ボクが周りを見渡そうとすると首に少し重みを感じた。
どうやら昨日の獣人の少女がボクに抱きついていたらしい。
やっぱり不安だったんだね。
だけど首元にバターナイフを突き刺そうとするのはやめてほしいかな。
結界がなかったら多分ボクに刺さってるし。
「やめなさい、私にそのようなことをしても無駄だ」
「チッ……寝込みを襲えば死ぬかと思ったのに」
怖っ……なにこの子。やっぱり育った環境が劣悪だとこうなるのかな……この世界の人間はひどいな…いや、向こうの世界の人も大概だったけど。
お人好しを善と勘違いしていると悪に付け込まれる。悪を糾弾するのが善かと言われればそれも違う。無償の奉仕をやめた途端に奉仕をやめるのは悪だと叫ぶのもおかしい。
善はないのに悪はあまりにもありふれていた。
ネットにはそれがより顕著に出ていたと思う。
多分ボクもそんな奴らと変わらないクズなんだろうな。
でも彼女をなんとか救えないかと考えてしまう。
この世界は命が軽すぎる。
魔物に知性があることくらい簡単にわかるだろう。
獣人やエルフだって人間となんら変わらないことを考えているのになぜこんなにも差別が酷いんだ?
「人間は嫌いか?」
そんなことを考えているうちに口からそんな問いかけが出た。
すると彼女は驚いたような反応を見せた。
それはそうだろう。だって今のボクは茶色のショートヘアに青色の瞳で色白な人族の男装の麗人の見た目に化けている。
人間が『人間は嫌いか』と聞けば哲学やってるのかそれとも中二病かのどちらかだろう。
そりゃ驚くよ。
でも今のボクはエルフ……もとい吸血鬼だからね
「人間は嫌いだ。でも帝国の奴らだけだ。王国の人たちは優しかった。奴隷の解放を求めてたけど殺されちゃった……私は帝国の人間を全部殺したい。あなたは王国の人間でしょ?私を助けて」
え?……王国にもう喧嘩売ってるの?
もしかしてこの国って破滅まで秒読みなんじゃないか?
あと獣人の少女よ。助けてという割にはさっき私を殺そうとしてたじゃないか。
おそらくこの方法で今までも同じように殺していたんだろう。
ここでボクの中に、ある仮説が浮かんだ。
人間の見た目だからおそらく信用を得ることができないのではないか?
ボクは変装を解くことにした。
黒髪のショートヘア、黄色の瞳、エルフの特徴を表す尖った耳。少し尖った犬歯。
ちなみにエルフの髪の色は金髪か茶色か緑系統だ。
黒色のエルフなんて存在し得ない。
それこそ特別なエルフくらいしかいない。
「え……エルフ……」
彼女は少し呆然としていたがすぐに見事な土下座を披露した。
「お願いします。私はどうなってもいいので妹達を助けてください」
今回の彼女の頼み方には今までにない気迫があった。
「言われなくてもそのつもりです。安心なさい」
……ボクが全部ぶっ壊すのは簡単かもしれない。
けどそれじゃほんとに首輪から彼女達が解き放たれることはないのかもしれない。
現にもう首輪がないのに彼女は朝、ボクを殺そうとした。
そういえば今の帝国に耐えれなくなった人たちが外に集落を作っていたな……
「私は奴隷と外の集落に住まう人々でクーデターを起こそうと思う。奴隷のたくさん集まる場所を教えてくれ」
「……なに言ってるんですか。そんなの無理に決まってます」
「いや、できる。私が旗印になろう」
集団をまとめるためのスキルが結構あるからそれに頼ることにしよう。
最悪全部マーリンとバルムンクにぶち壊して貰えばいい。
ディラード?ディラードは大量に破壊するよりも護衛向きだから……
さて、まずは奴隷の位置を確認しよう。
ボクはまた人間に化けた




