襲撃
ボクが馬車もどきへと戻るとその周りで男達が暴れているのを見つけた。
どうやら馬車を壊そうとしているらしい。
その男達の足元には元々は生きていた人であったであろう焦げ付いた何かが転がっていた。
馬車の自動迎撃装置は5段階に分かれている。
第1フェーズ
許可なく手を触れようとすると静電気が発生する。地味に痛い。
第2フェーズ
静電気を無視して馬車に触れ続けると触れる場所が異常に発熱する。温度は90度。
第3フェーズ
馬車にかなり強い衝撃を加えそうな場合発動する。魔法の障壁で周りのものを2メートル近く吹き飛ばす。
第4フェーズ
明らかに敵意を持った軽〜中の威力を持つ攻撃に対して発動する。
高速回転しつつ圧縮された風の塊をぶつけ炸裂させる。
常人で無くとも骨折は免れない。
第5フェーズ
明らかに馬車の破壊を目的とした重程度の威力を持つ攻撃に対して発動する。
馬車に対して放たれた物理攻撃の衝撃をそのまま相手に向かい跳ね返す。
魔法攻撃の場合も同じ。
それと同時に馬車に向かい攻撃してきたものへデバフの魔法を三重に放ち、なおかつディスペルを放つ。
デバフの内容は
『VIT減少大』『AGI減少大』『MID減少大』だ。
VITは物理的な攻撃に対する耐性のこと。
AGIは回避能力などに直結する。
MIDは魔法的な攻撃に対する耐性のこと。
つまり第5フェーズでは馬車を壊すような自分の攻撃をもろくなった状態の生身で確実に受けるということだ。
焦げ付いた人を見るに彼?彼女?焼けてしまっているので見分けはつかないがその人は馬車に火属性の魔法でも打ったのだろう。
まぁ自業自得ってことで許してください。
中にいるうさぎさんも心配だし。
「うぉぉぉぉおおおお!『ブーストショックハンマー』!」
…その技は…使い道が無さすぎた技
タメの時間の割に速度も範囲も今ひとつだ。
でも攻撃力だけは★2までのスキルの持つ技の間では群を抜いて強かったなぁ。
男のハンマーの先から魔力が一気に溢れハンマーを加速させ馬車に当たる瞬間ハンマーの先が爆発をする。
そして男だったぐちゃぐちゃに潰れた何かが道路に向かってはじき出された。
……グロい。
「マスター。いい感じの宿を見つけました」
ディラードが話しかけてきた。
おい、両手に握りしめた焼き鳥はどこで買ってきたんだ。ボクも欲しい。
「マスター。部屋は二つ借りましょう」
マーリンが話しかけてきた。
なぜディラードの方を見ながらボクに話しかけるんだ。
というか二人ともこの国の偵察を任せたはずなんだけどちゃんとやってくれたのかな?
「マスター。こちらです」
「うん、わかった」
さて…馬車をサクッと動かしたいんだけど騒ぎになってるからなぁ…
……?騒ぎが収まった?
集まっていた人が急に興味を失ったかのように散って行く
「マスター。早く行きましょう。ディラードと私は色々とやらないといけないことがあるのですから。……愛の確認とか」
お前の仕業か。マーリン。
でも助かった。
「ありがとう、マーリン」
「べ、別に私のためですから、礼を言われるようなことでは…でも礼は受け取っておきますマスター」
……マーリンが顔を赤らめもじもじしながら礼を受け取った。
どうしたのかと思ったらディラードの手を握ってるのか。
しかも恋人繋ぎだと?!
爆発しろっ!……してもらったら困るけど。
というかマーリンって意外と純情?
「なぁマーリン。そろそろ一緒のベッドで寝ても…」
「そっ!そんなの不潔ですよ!」
「せめてキスぐらいは…」
「不潔です!」
「ハグだけってさちょっとつらいんだよ?」
「それ以上はダメなんです!」
……思った以上に純情…というか拗らせてる?
「マスターからもなんか言ってください。もう男としては限界を超えてるんですよ。今持っているのは騎士としての矜持のおかげですから。
マーリンがこれ以上誘惑してきたらちょっと我慢しきれないかもしれません」
「ゆ、誘惑なんてしてないわよ!」
「……じゃあなんでいつも胸が見えるようなブカブカのローブを着て寝るの?しかも寝るときいつも下着、上も下もつけてないよね?俺に襲われたいの?」
マーリン、まさかの裸族疑惑。
よし、今のうちに馬車を動かす準備を…しました。
全然時間かからなかった。
もういつでも出発できるよ。
「お、襲うだなんて!…別に襲われてもいいけど。私…初めてだから、さ……そういうのは優しくして?ね?」
「……マスター。行きましょう。宿についてしばらくは私とマーリンは任務から外れたいのですが」
……イチャイチャしやがって。
別にいいけどね!
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。マスター」
ディラードがお礼を言った。
と同時にボクたちは馬車に乗せられていた。
今のは一体?!
「マスター。ちょっと飛ばしますよ!ちょっと俺色々と限界なんで!」
ディラードの一人称が俺になっていた。
というか早い早い。
街中でそんなに飛ばしちゃダメでしょ!
……なんとかついた。
人は轢いてないみたい。
というか大きい宿だなぁ。
とりあえずフロントで受付しよう。
部屋は一番いい部屋の方がいいよね。
「ここは宿であっているかしら?」
……貴族口調がまだ残ってたぁ!
「はい、合ってます」
「一番いい部屋を二つ頼むわ」
「かしこまりました。何泊をご予定ですか?」
……何泊?とりあえず10泊ぐらいでいいかな?
「10日ほど泊まる予定よ」
「では先払いですので支払っていただけますか?」
そうして代金が請求される……がボクの商人スキルが少しぼったくっていると叫んでいる。
でもまぁここでケチケチするのはらしくないよね。
でも気になる。
「次からはちゃんと適正な価格で泊まらせてもらいたいものですわ」
「…………なんのことでしょうか?」
「心当たりがあるようですね。今回は見逃してあげますから次回には直しておいてもらいたいものですわ」
「かしこまりました。こちら部屋の鍵です。紛失しますと弁償していただくことになるのでご注意ください」
私はフロントの人に手を挙げて感謝の意を示しながら部屋に向かう。
「…ちょっと!ディラード!……こ、こんな格好恥ずかしいです…」
「マスター。部屋はどこです?」
「鍵渡すから……はい。」
ディラードはマーリンをお姫様抱っこしていた。
マーリンの顔が真っ赤になっている。
トマトも驚きの赤さだ。
しかももじもじして可愛い。
そしてディラードの息遣いがいつもよりほんの少しだけ荒い。
「では少しの間、護衛として働けませんがよろしくお願いします。」
「はいはい勝手にやってください」
ボクにはバルムンクがいるもんね。
「はぁ…眠い…ぐるぅ」
「あれ?今誰か喋った?」
やっぱりちょっと寂しいかもしれない。
うさぎさんも連れてきたけど一向に起きる気配がない。
まぁいいや。とりあえずダンジョンの様子でも久しぶりに見ることにしよう。
ボクは自分の部屋に入りベッドに寝転がった。
……おぉ。ふかふか。でもちょっと物足りない…
いつも使ってる布団はもっとふかふかのふわふわだから……贅沢が身についてしまったのか。
とりあえずダンジョンの様子だ。
(ディラード……キャッ!……どこ触ってるのっ!…というか裸同士なんて……不潔よ…)
(大丈夫。怖がることはないよ。後輩のチャラ男に一応色々教わってるからね)
……あぁなんか念話で伝わってくるんだけど。
というかディラードの後輩にチャラ男がいるのか。
(え?そんなところ…ひゃんっ!…ふぇぇ…)
(可愛いよ…マーリン)
(そ、そそそ…そんなことない…よ)
珍しくマーリンが弱ってる。
いいぞディラード!もっとやれ。
…ただマーリンの声がすごく艶やかなんだけど
(ねぇ、キスしてもいいかな?)
(そ、そんなことしたら赤ちゃんが…)
純情!むしろそこまでいくと無知な乙女か?!
(大丈夫だよ、これからもっとすごいことするから)
(すごいことって…?むぐぅ………ぷはぁっ!…キ、キスしちゃった…腰も抜けちゃった…)
なんか30秒くらいキスしてなかったか?
えっと…ディープな方?
ディラードやるねぇ。
……ところでダンジョンの範囲が一部宇宙空間にあるのはなんでかな?
(そ、そんなところ舐めちゃダメ!洗ってないから汚いよ!)
なんか妄想を掻き立てられるね…
興奮……しない……ボクにはそういう感情がなくなってしまったのか?
まぁ今のボクは永遠に生きれる究極の生命体だからね。
(別に耳ぐらい舐めてもいいじゃないか)
耳かよ!
もっとすごいところ…というか舐めるという行為が凄いな。
……これ以上はプライバシーの侵害だからやめておこう。
(ひゃんっ!あっ!ふぁっ!)
〈念話の通信をオフにしました〉
どうやらギリギリ間に合ったようだ。
明日ツヤツヤした表情で出てくるのはどっちだろうか。
さて今確認すべきはダンジョンのことだね。
……バルムンクどうしたの?
なんかすごく嫌そうな顔をしてる。
バルムンクにも念話が聞こえてるのかな?
それにしても人工衛星なんていつ打ち上げたの?
コンコンっ
「なんでしょうか」
「…ルームサービスです」
「頼んでいないのでお引き取りください」
「…お願いします入れてください」
しつこいなぁ。
それにしても何というか若い声だ。
「お引き取りください」
「お願いします!入れてください!」
何だか必死そうなので入れることにする。
透視して見た感じ一応武器とかはナイフを3本くらいしか持ってないみたいだし毒も持ってないから安全だろう。
「あ、ありがとうございます……妹達のためなんです、ごめんなさい、ごめんなさい」
ドアを開けると小さな15歳ほどのボロボロの獣人の子がいた。こんな季節なのにマフラーを巻いている。
そしてお辞儀をしたかと思うと私の首を素早くナイフで斬りつけようとした。
まぁ一歩下がって躱したけど。
あんなに必死なのはおかしい。
泣きながらナイフを振るなんてどうかしているし、『妹のため』…この言葉の意味も気になる。
これはちゃんと話を聞く必要がありそうだ。
手慣れた手つきで少女はナイフを投げてきた。
狙いは足だ。
私は屈んで飛んできたナイフを手で取る。
少女の右足の蹴りがボクの顔面に放たれる
ボクは足を受け流し後ろに下がる。
少女が左手に持ったナイフで裏拳もどきのことをしてきたので、ボクは少女の肘に手を当ててナイフを止め、手首を持って少女の腕を背中に回させて関節を決めながら、少女の左足を払い床に押し付ける。
そして左手のナイフを素早く遠くに投げ……あ、バルムンク!そんなものを食べちゃいけません!
「ゲフゥ」
…ま、いっか。
えーまだ暴れる?
右手に握ったナイフでボクを刺そうとする。
ボクは足で腕を踏みつけそれを許さない。
少女の右手に握られていたナイフが手から離れバルムンクの元へ滑っていく。
「ゲフゥ」
お腹壊さないよね?
まぁでも…これで問題ないね。
そして少女にどうして襲うのか聞こうと思ったその時、マフラーの下に隷属の首輪があるのが見えた。




