HALOって知ってる?
HALOをご存知だろうか?
またの名を高高度降下低高度開傘。
簡単に言えば上空10000Mあたりからのスカイダイビングのことだ。
ただ今のボクの場合に限っては一つ、ふつうのスカイダイビングと全く違うところがある。
ボクは今、パラシュートを装備してない。
『装備しないと効果はないよ』とあれほど口すっぱく言われたではないか…まぁ、武器屋のNPCの固定文だからなんだけど。
そして現在……
「きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
絶賛、落下中。
だが下からの風圧を全く感じない。
なんで?スカイダイビングってもっとこう……風圧で顔がひしゃげるんじゃ?
知りたい。鑑定先生よ!今こそ仕事を!
「……」
無理か。確かに状況の原因を暴くなんて推察とかそのあたりだもんなぁ…
その時ボクの脳裏に『風圧無効』の文字が浮んだ。
装備の特殊効果とかではなく自前で確かそんなのを持ってたような気がする。
どちらかというと『風属性極限耐性』だった気もするけどまぁそんな違いはどうでもいい。
そもそも装備に付けてる効果は色物ばかりだからなぁ。
そして当然のように足装備には『落下ダメージ2倍』効果も付与されている。
2割ではないし2分の1でもない、2倍だ。
まぁその代わりに落下ダメージという点以外を見るなら高性能だからな。
他の装備も大体そんな感じだ。
空気抵抗がないために減速することなく加速していくボクの体。
こんな時なのに、なんとなく高一の物理の問題を思い出す。
重力加速度……的な。
でも結局教科書にお世話になることはなかったけど。
その教科書達はボクが一度予習のために読んだきりでそのあとはクローゼットの奥深くに眠っていた。
どうしてか捨てられなかったんだよね。
多分ボクはどこか執着してたんだなぁと今になって思う。
いろんな思い出が蘇る。
これが走馬灯ってやつなのかな?
走馬灯もゲームの内容がほとんどだけど、思い出したくない記憶まで思い出してしまって気分が悪い。
……あぁ、詰んだ。
ボクはぼんやりとそう思った。
ああ、神様。約束を果たせず申し訳ございません。
死亡原因が不注意による落下死なんて顔向けできないよ…
特に信心深いわけでもなかったボクはとりあえず両手を胸の前で組んで目を瞑った。
目を瞑ったのは何より落下してる風景を見ているのが怖かったからだ。
だが目を瞑っている時にふとゲームをしていた頃の光景を思い出す。
(結界とか使えばダメージ食らわないんじゃない?)
ボクは思いつきのままに結界を張るようなイメージをする。
それと同時に何かに当たったような揺れを感じた。
ようやく地面にたどり着いたかと思い薄眼を開けると
絶賛落下中だった。
「わぁぁあああああああああああ」
(なんでもいい!なんでもいいからとりあえず減速!減速しないと!えぇっと、確か飛行魔法とかあったような……とにかく浮かべ!ボクの体!)
するとなぜか急に体が少し重くなったような気がした。
(何が起きたんだろう?)
だけどボクは怖いので目を瞑ったままに任せる。
するとまた何かに当たったような感覚。
薄眼を開けると……
「マスター」
あぁ幻聴が聞こえる。
足はすくんでるし、腕は震えてるし、腰も抜けてるし
「マスター」
あぁダメダメなマスターでごめんね。
「「マスター…」」
「ぐるるぅ…」
幻聴だと思っていても目を開かずにはいられなかった。
確かめたかった。
意を決して目を開くと、先ほど見た2人と一頭の姿がそこにあった。
「ディラード…なんかマスターが可愛くなってない?」
「これは…どう返すのが正解なのかな?」
「その答えは不正解ね、それにしても本当にモルモットみたいで可愛い」
モモモモモ、モルモット⁈
生きていたという感動が一瞬で吹き飛んだ。
今度は別の意味で体が震えだす。
やばい、さっきこの人怒らせちゃったかもしれない…
「大丈夫とって食べたらなんかしないわ、ただ……ちょっと愛でるだけよ?」
きっとボクは色々と人体実験に付き合わされた挙句死ぬんだ……
「マーリン……そんなにマスターを怯えさせたらダメだろう?」
「だって…マスターが思ってたよりも可愛いし、何よりからかってて面白いし」
「全く…ハムちゃんとか言って自宅でモルモットを飼ってることぐらいしってるからな」
「な、なぜハムちゃんのことを…」
「同棲しようって言った時にチラッと見かけてね」
「そ、そう」
爆発してください。
ふぅ、と一息ついて気持ちを整える。
まだなんか身体がふわふわしてる感じがして気持ち悪い。
まだちょっと体の震えは治らない。
それはなぜか?
簡単なことだよ。
だって今現在いる場所、成層圏だし。
もうここまでくると現実離れしすぎてて若干心が無になりつつもあるけど。
慣れないとはいえ飛べる?ようになったので結界を外す
すると突然柔らかな感触がボクを包んだ。
「マスター!可愛くなっちゃって!はぁ〜可愛いぃ〜!」
マーリンがボクに抱きついてきた。
何というか薬品っぽい匂いがするけど落ち着く。
意外とその身体は女性らしかった。
アンデットのはずなのに温かみを感じた。
もうちょっとこのままでいたい。
ただ、ウルトラデリケートな温室育ちの竜帝バルムンクの上に人が三人も乗ってることに対してボクは一抹の不安を覚えるわけですよ。
「ほれ〜?マスターはここがいいのかなぁ〜?」
ボクがバルムンクを心配心配しているのをよそにマーリンがボクの耳をプニプニと触ってくる。
別に耳を触られたところで邪魔だなー、程度にしか思わないのだけど、ただ…すごく、なんというか、くすぐったいんだよ。
というわけで必死に両手両足をばたつかせることによって抗議を試みたのだが…
「ちょっ…やめて!耳はくすぐったい!」
「まだ、くすぐったい…か。開発の余地がありそうですなぁ」
と言って、にやけるばかりなんです!
ボクのダンジョンの子なのに…
「うぅ…ディーラード〜!マーリンがいじめるよぉ〜!」
の○太よろしく、こういう時は頼れる味方が一人いるだけで違うのだ!
「くっ……騎士としてここは忠義を貫くべきか……しかし男として愛する女性を裏切るなど……俺はどうすればっ!」
…………マスターと恋人の間で揺れ動く騎士、ディーラードの気持ちは一体どちらに傾くのだろうか?!
こっちに傾け!
というか君がいなくなったらボクはどう過ごしていけばいいんだ!
「マスター…すいません。俺は誘惑に負けてしまったようです…」
「ひゃっ!?にゃ、にゃにを!?」
ディラード、お前もか!
そんなに耳プニプニするのがいいのかなぁ?
ボクとしては急にされるとビックリするけど普通に触られてるだけならちょっとくすぐられてるくらいだから問題ないけど。
「あーきもちぃぃ〜、このプニプニ感がたまらないわっ!」
「俺としてはほんとはマーリンの方が良かったんだけどな?」
「ちょっと〜」
人の耳触りながら惚け話なんてするんじゃねぇ。耳が腐る!
リッチって実は触れてるものを腐食させる能力があるんですよ……あ、うちのリッチが特別性なのか、普通はそんなことなかったわ。
耳がマジで腐りそう…といっても全然そんな兆候はないけど
それにいちゃついて夜しっぽりしていこうたって、テントだってそんなにでかいのは……
まぁ、あるんだけど。
これ用意したのディラードだし。
まぁ、勝手にやってくれればいいけどね。
色々と話しがずれたようなきもするけど
まぁなんにせよ今のこの状況はよろしくない。
今ボクたちは成層圏付近を漂っているのだ。
そろそろ酸素が心配…ってバルムンク以外はみんな死んでるか。
バルムンクも平気そうだし…問題ないな。
「バルムンク……とりあえずボクたちをゆっくり…ゆっくり、地上まで運んでください」
「グルゥ♪グルゥ♪」
心なしか温室育ちの竜がダンジョン内にいるよりも体調が良さそうだ。
やっぱり野生の本能ってのが環境に適応させるのかな?
どこか上機嫌なバルムンクはゆっくりと高度を下げていきやっとの事で地表にたどり着いた。
ボクは今日地面のありがたみを知った。




