(2)
(和鹿高校)
これから3年間、俺がかよう高校の名前だ。
昇降口のところにクラスの名簿が貼り出されているはずだ。
「えーっと、俺のクラスは……あった!1年1組か。どんな人がいるかな〜。」
同じ中学校の奴はいないようだ。
俺は少し緊張しながらクラスに向かっていた。
途中、いきなりカバンから、
「おい、潰れてしまう…。」
とか聞こえた。って
「おい!話しかけんな!」
急いで俺はトイレに駆け込んだ。個室に入って、
「おい、学校ではおとなしくしとけって言っただろ!」
チャックを開けながら言った。
「だってカバンのなかで押しつぶされそうになってたから。」
「しょうがないだろ。カバンのなかに生き物入れたことがないからどんな風にしていいかわからないんだから。」
「ならしょうがないか。ただできるだけ優しくしてくれ。」
「わかったよ。」
「あ、そうだ。あと何時間ぐらいかかるのだ?」
「ざっと3時間ぐらいかな〜。」
言った瞬間、こいつが青ざめた。
「あと3時間もこんな狭いところにいなきゃいけないのか…」
自分で入りたいって言ってたのに文句を言ってきやがったから少しいじわるをしてみた。
「文句があるなら出て行ってもらっていいぞ。」
「ごめんなさい、心の底からごめんなさい。」
なんかすっごく謝られた。本気かどうか知らないけど…
「で、ついて来るのか?」
「もちろんついていく。」
「なら静かにおとなしくしとけよ。」
やっとクラスに着いた。
黒板に席の場所が書いてある紙があった。
「俺の席は…1番後ろの窓側か。」
この教室は25人。
隣の奴は名前からして女子らしい。
「かわいい子ならいいな〜。」
と、ついつぶやいてしまった。
「そうならいいな。」
……カバンから聞こえた。
「あはは〜、ケータイ電話をマナーモードにするのを忘れてたわ〜。」
とわざと大声でクラスにいる奴らに聞こえるように言い、カバンの中の生き物を叩いておいた。
それで懲りたのか、それからは何も言わなくなった。
席に行こうとした時、
「俺は、宮北 龍亞。『龍』が付く同士よろしくな。」
と見た目はまあまあいい感じの人が声をかけてきた。かなりフレンドリーだ。
「おう、よろしくな。」
といったあと少し話をしてメアドを交換した。
するとクラスにいた男子が、
「俺とも交換しようぜ。」
「俺も俺も。」
とたくさん集まってきた。
人気者になったみたい。
中学生のときはこんなにたくさん友達ができると思ってなかったからびっくりしていた。
8時になりチャイムがなった。着席の時間だ。
集まっていた男子は自分の席に戻っていった。
しかし、まだ隣の子は来ない。
とりあえず俺は席についた。
しばらくして前の扉が開いて小学生ぐらいの女の子が入ってきた。
そして教卓の前に行き、
「さーて、これからあなたたちの担任となる水山 姫でーす。よろしくお願いしまーす。」
クラスの全員の目から鱗が落ちかけた。
だってまだランドセルを背負っていても違和感がないぐらいの子が入ってきたからだ。
「趣味はおさk……げほん!お花を育てることでーす。」
………今明らかにお酒って言おうとしてたような……
ってかあの見た目でお酒買えるのかな…
「年齢は……聞いたら即特別補習ねー♡」
顔は笑っていたが目が笑っていなかった。 こわ!
「1人いないですがー、これから1人ずつ自己紹介をしてもらいまーす。はーい、まず君からねー。」
そう言って廊下側の前の子から自己紹介を始めた。ってことは俺は最後か。
俺は半分聞きながら隣の奴のことを気にしていた。
気がついたら俺の番になっていた。
「俺は沼澤龍我。これからよろしく。」
と普通に挨拶をして終わった。
特に体質のことは言わなかった。特に言う必要がないし。
席に着いた時、いきなり後ろの扉が開いて女の子が入ってきた。
ポニーテールでかなりかわいい子だった。
よく見たらアマノジャクを描いた時の隣の席だった初恋の子に似ている。
どうやら一目惚れしたっぽい。
「初日から遅刻してすいません。道に迷ってしまって…」
どうやらこの子が僕の隣の奴にみたいだ。
「わかりましたー。では、自分の席へ行って自己紹介してくださーい。」
「はい。」
そう言って彼女は、自分の席に行く途中何もないところでこけた。
服の埃を払いながら、なんとか席の前に行き、
「私は、瀬織 美結。ドジでダメですがみなさんこれからよろしくお願いします。」
そして座りながら、
「よろしくね。」
と俺に言ってきた。なので俺も、
「俺は沼澤龍我、よろしく瀬織さん。」
とかえしたら、
「美結でいいよ。」
と言われたので
「わかったよ美結。」
少し恥ずかしかったがそう言った。
「俺は龍我でいいよ。」
「わかったよ龍我。」
などと話した後メアドを交換した。
そのあとは集会や配布物をもらったりした。
そしてホームルームになった。
カバンに寄りかかっていたらいきなり「むぎゅ。」っと聞こえた。
今の今まで忘れてた、この中にこいつを入れていたのを…
ホームルームが終わるとカバンを取り、すぐ俺は教室を出てトイレに行った。
カバンを開けて中を見たら、アマノジャクが潰れていた。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。水持ってるか?」
「うん、ほらよ。ってか、なんでずっとこんな狭いところにいるんだ?帰ればいいじゃん。」
「ぷはー、生き返るはー。それが、私はあの剣がないと帰れないんだ。」
「朝も言ってたが剣ってなんだよ。」
「私たちが魔王を倒しに行く話はしたよな?」
「うん。」
「私たちは魔王を倒したあとウォーターランドに帰れるよう剣に細工をしていたんだ。だから剣がないと帰れないんだ。」
「そうなんだ…」
この後どうしたらいいか考えていてふと疑問に思った。
「なんでお前は魔王を倒そうとしているんだ?」
「それは、私たちの国の姫が誘拐されて悪用されそうだからだ。」
「なんでさらわれたの?」
「姫には特別な能力があるからな。」
「特別な能力?」
ついおうむ返しに聞いてしまった。
「能力のない人に能力を与えられるんだ。」
「ってことは敵の戦力が増えるってこと?」
「ああ、だから魔王討伐を試みたんだ。」
「なるほど…」
これで1つ謎が解けた。
「どうやってお前は負けたんだ?」
「それが、思い出せないんだ。」
「なんで?」
「たぶん魔王の能力は記憶を消す力が得意なんだろう。」
「だから覚えていないと。」
「ああ、戦闘した時の記憶も思い出せないんだ。」
魔王すげー。
「で、これからお前はどうするんだ?」
「最初に言った通りお前にかくまってもらうつもりだ。」
「…しょうがないか。」
筆箱を机の中に忘れたことに気づいたのでとりあえず教室に取りに戻った。
教室に着くと誰かがいた。美結だ。
「……何してんの?」
緊張しながら聞いてみた。
「私、忘れ物しちゃって……龍我こそどうしたの?」
「俺も筆箱を忘れちゃって取りに来たんだ。」
「そうなんだ一緒だね。そうだ、せっかくだし仲良くなるために一緒に帰ろうよ。」
「え…うん…わ、わかったよ。」
俺はこれまでこのような経験をしたことがないのでとても動揺してしまった。
さすが高校生活。いきなりこんなことが起きるなんて。
ということで一緒に帰ることになった。
「私、男の人と帰るの初めてなの。」
「俺もそうなんだよ、彼女とかいなかったし…」
などと話しながら帰っていた。するといきなりカバンから小さな声で、
「魔物の気配がする、その子を遠ざけろ。」
「わかった。」
そうして、彼女をここから遠ざけようとしたら、
「私、家こっちだから。今日はありがとう。また明日〜。」
ちょうど彼女の家の近くまで来ていたみたいで良かった。
「また明日。」
と言ってすぐにそいつが言う方向に走った。
「おい、なんか武器になるものないか。」
「そんなもの普通の高校生が持ってるわけないじゃん。」
「剣みたいなやつでいいから。」
「……カッターはどうだ?」
「カッターとはどんなやつだ?」
「教室に取りに行った筆箱の中に入ってる。探してくれ。」
「どんな形だ?」
「刃がケースに入っている小刀みたいなのだ。」
「………あった。これか?」
「ああ、それだ。それでどうだ。」
「最高だ!これ、借りるぞ。」
「おう、絶対倒せよ。」
そう言ったらそいつはカバンから出て自分で走り始めた。
小柄だが足が速い。
「たぶん、この感じは相手の偵察係だろう。」
「相手って魔王か?」
「ああ、そうだ。」
「お前を偵察しにきたのか?」
「たぶんそうだ。」
「偵察係って言っても強いのか?」
「いや、雑魚だ。そもそも普通は戦わない。」
………きっぱり言った。
「なら俺でもたおせるのか?」
「訓練すればな。」
今の俺では倒せないようだ。
俺は雑魚の雑魚かよ。
「だからお前は後ろの方にいろ。」
さっきまでのこいつとは思えないほど真剣な目をしている。
やっぱりこいつは本当に戦士なのかもしれないと思った。
ほどなくして、魔物ところに着いた。
大きさは人間ぐらいだ。
ほかの人にバレたら通報されるレベルできもい……
アマノジャクは即座に飛び出し、相手の首を切り裂いた。しかも一撃で。
切られた相手は光になって消えた。
「おい、魔物はどこにいったんだ?」
「あいつは私達がいた世界へ強制的に帰らされた。私達は、自分の世界以外の所で死んでしまうと二度と他の世界へ行けなくなってしまうんだ。だから、俺は死ぬわけにはいかないんだ。」
「なるほど…。」
……なんかあっちの世界は大変そうだ。
「ところで、さっきの訓練ってのはどのぐらいかかるのか?」
「んー、1か月ぐらいかな〜。」
「……ならいいです。」
せっかく強くなれると思ったのに…
ってことは偵察係って言っても以外と強いってことか。
それ以上にこいつが強いけど…
「さて、はやくお前のすみかへ行って休みたいのだが。」
「わかったよ。ってかお前普段何を食べるんだ?」
「基本的には草だ。」
「じゃーそこらへんの草でいいか。」
雑草を抜こうとしたら、
「…違うんだ、こう言う草ではなく食べられる草だ。」
強い力で止めてきた。
「ならキャベツとかでいいのか?」
「よくわからないが食べられるのか?」
「ああ、俺らでもよく食べるが。」
「毒物ではないんだな?」
「たぶんな。」
「ならそれをいただこう。」
ということで俺たちはキャベツを買いにスーパーへ行った。
スーパーに着いたら、
「おい、どれがキャベツだ?」
「……あまり喋るな。不審者になるだろう。」
「わかった。見つけたら教えてくれ。」
「わかったよ。」
ほどなくしてお目当ての物が見つかった。
「おい、これだぞ。」
「……おい、本当にこれが食えるのか?」
「そうだが、嫌いだったか?わがままなら受け付けないぞ。」
「いや、あっちの世界ではこの食材は高級品のひとつだぞ。私はまだ実物を1回しか見たことがな……。本当に食べられるのか?」
「そうなんだ…じゃー庶民的なものに変えるか。どれだ?」
「いやこれがいいです。これにしてください。」
「しょうがないな〜」
キャベツをカゴに入れ自分の分の食べ物を探していると、
「あ、龍我だ!おーい。」
と聞こえたので振り返ると美結がいた。
「偶然だね。美結も買い物しに来たの?」
「うん!お母さんに頼まれたから。」
「へ〜、偉いね。」
「いやいや、龍我の方が自分で全部家事をしてて偉いよ。」
「まだまだ時間がかかってしまうからダメだよ。」
「私なんて家事なんて全然できないよ。」
などと話しながら一緒に買い物をしてお店を出て別れた。
「やっと飯が食えるのか!」
「ああ、もうしばらくの辛抱な。」
「おう。」
俺もお腹が空いていたので急いで帰った。
俺の家はアパートだ。築30年のかなりおんぼろ…もとい慎ましい物件だ。
ただ、一人で暮らすのには広くて快適だし家賃も安い。
昼食を食べ終え休憩していたら、
「やばい、また出た。たぶん同じ魔王軍の偵察係だ。」
「いってらっしゃーい。」
笑顔で送り出そうとした。
「いやいやお前も行くんだよ。」
鋭いツッコミがはいった。
「なんで!?」
「私一人で行くといろいろまずいだろ。」
「確かにそうだけど…」
見つかったら面倒だし…
「だから行くぞ!急げ!」
しぶしぶ俺は着替えてバックにこいつを入れた。
自転車に乗りバックをカゴにのせ指示通り向かっていると
「反応が消えた。ってことは倒したのか。ただ、違う反応が出たがな…だから急げ。」
「急いでるっつうの。」
俺はさらに力を入れてこいだ。
「どんどん離れていく急げ。そこを右!」
いきなり言われたが急カーブをして曲がった。
「……本当にこっちなのか?」
「ああ、私の感知能力はほとんど正確だ。」
「ならいいや、お前を信じて指示に従う。」
「助かる。もう少しで着くぞ。」
「了解。」
「……あれ?反応がいきなり消えた…」
「本当か?ってかなんでだ?」
急ブレーキをかけて止まった。
「わからない。気配を消したのかもしれない…」
「そんなことが出来るのか?」
「私たちならな。」
「仲間ってことか?」
「たぶんそうだ。魔王たちには無理だろう。」
「誰かわからないのか?」
「ああ、仲間の顔も思い出せないんだ。」
「魔王のせいか?」
「たぶんな。」
魔王の能力強い…
「ならしょうがない。疲れたから帰るぞ。」
「ああ、少し調べたい気もするがいいや。」
ということで俺たちは帰った。
その日はこれ以外魔物は出てこなかった。