序章という名の独り言
ここが、小説や漫画に出てくる世界なのだとしたら、もし主人公として漫遊することができたなら。
誰しも、そんな想像を抱いたことはないだろうか。
私は、ある。
それはたとえば、魔法なんかが普通に存在している世界にトリップしちゃって、男性に生まれ変わって最強の力を手に入れて、世界を救ってみたりだとか。
それはたとえば、めちゃくちゃ可愛い女の子になっていろんな男性に求愛されちゃったりして、でも結局最後には一番好きになった人と結ばれてみたりだとか。
それはたとえば、この目の前に座る忌々しい男と入れ替わって、仮想現実を支配しちゃったりだとか…。
そう、私にだって口に出しさえしなければ、実際に行動したりしなければ、頭の中で考えるだけならば、べつに誰に迷惑をかけているわけでもないし、好きに自分の世界を生み出すことができるのだ。主人公にだって、なれるのだ。
仮にもし、ここが、小説や漫画に出てくる世界なのだとしたら、私の妄想でもなく、ただの現実として具現化したならば、私は間違いなく、主人公の器ではないだろう。
主人公になれるのは、たった一人なのだ。そして、それは、この目の前に座る男――瀬名 数馬であると、妙な確信が私にはあった。
セナは私の唯一の男友達だ。
私はもともと友達がそういないから、唯一の友達、といっても差し支えないと思う。とにかく、私と彼の関係を一言で表すならば、まさにそれである。それ以上のことなどない。
ではなぜ、私が彼を前述でも話した通り、忌々しいと思っているのかというと…いや、これは割愛させていただこう。長くなりそうとかではなく、単に面倒なだけなのだけれども。
世の中には知らなくても困らないものも困るものも複雑な事情も奇跡もまるっとあるのだ。問題なのは、彼がどんな人物なのか、ということ。
セナの容姿は、まあ悪くないとは思う。美醜について私があれこれ言える立場ではないので、これ以上はとくにない。しいて言えば、初めて彼とお近づきになったとき、なんだか底意地の悪そうな人だなあという感想を持ったくらいか。
しかし、実際彼と友人関係になってからというもの、初見の私の評価などとても甘かったのだと実感することとなる。
端的に言うならば、彼は、恐ろしくマイペースな人間であった。ゴーイングマイウエイ。
よりわかりやすく表現すると、他者のことなどお構いなし、フルスイングで振り回しにかかる回転木馬の支柱のような男だ。ちなみに私が馬である。彼によって働かされる馬車馬である。
遠心力でそのまま遠くに投げ出されやしないかと気が気でない。いや、いっそ彼から離されるのであれば幸せなのかもしれないけれど、そうできないのが、そうさせられないのが、彼がセナたる所以なのかもしれなかった。まあ、当たり前だが回転木馬は遠心力で動いているわけではない。話がそれた。
ストーリー物のゲームには大抵プレイヤーが主人公になるという設定が多く使われているだろう。
乙女ゲーやギャルゲーのようなシミュレーションしかり、モンスター退治や武器、魔法の世界が舞台のロールプレイングしかり、ホラーやアドベンチャーしかり。
そうして、プレイヤーの視点を定め、感情移入させることによって、緊張感や臨場感を演出しやすくしているのだ。
しかも、主人公は万人受けするようなキャラでなくてはいけない。そのためには、余計なキャラ付けはあまり好ましくない。ゲーム内ではしゃべらない主人公というのもいるだろう。それはそうだ。
主人公を自分に置き換え、あたかも己がゲーム内で行動しているかのように、あるいは主人公の中に己の存在を植え付けると意識させることこそが目的だというのに。自分と全くキャラ設定の違う主人公を登場させられても感情移入などしようもない。まあ、逆に全く違う主人公だからこそ、その主人公を好んでプレイする場合もあるとは思うが。
それはともかく。
その所論から基づくと、彼は決してゲームの主人公にはなれないだろう。
むしろ、それは、私の役目であるように感ずる。
彼は、小説や漫画の主人公にはなれても、決してプレイヤーにはなれないのだ。
一つ述べておくことがあるとするならば、こうだ。
これは、主人公になれなかった、プレイヤーの物語である、と。




