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触れた指先  作者: 悠里
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第09話

 浅間は軽くため息をついて、携帯電話を閉じた。少し涙声だったが、大丈夫なのだろうか。


 いざとなれば明里にでも連絡するだろうと思い直し、自分のデスクに戻ろうとしたとき、部下の佐倉に話しかけられた。


「あの被害者の子ですか?」


 会話が聞こえていたのだろうか。浅間は一瞬戸惑ったが、うなずいた。


「個人の携帯にかけるのはあんまり良くないんじゃ」

「ほめられたことじゃないことは確かだな。真似するなよ」

「わかってます。先輩もこんな時期に下手しない方が良いですよ。せっかく本庁からお呼びがかかってるのに」

「公式的なもんじゃないだろ。あまり公言するな」


 佐倉は気のない返事をした後、思い出したように言う。


「そういえば、どうやら二課の方で動きがあったみたいですよ」

「それを早く言え」


 浅間は佐倉の頭をはたいた。


 そのあと、すぐに一課にも情報が回された。横領犯とみられる男が近くの警察署に自首し、逮捕されたらしい。証拠もすぐに見つかるだろう、というのが二課の見解だった。


 これで決着がついたと思われた。しかし、その男は殺しについては否認しているというのである。


「いったい……どうなってるんですか」


 浅間は頭を抱えながらつぶやいた。上司もため息をつきながら答える。


「わからん。それに、現在判明している横領の金額と、用途不明の金額が合わんらしい」


 それが原因で単純に殺人を隠すために自供したと決めつけられないでいる、と上司は続けた。


「もう一人、別の誰かが横領してるってことですか」

「その可能性もある」

「またふりだしですか……面倒っすね」


 佐倉は誰にともなく言ったが、上司に厳しい顔で見られ、すんません、と小さく謝った。それを見て浅間と上司は、そろってため息をついた。


 ただ単にふりだしに戻るならまだいい。手掛かりは残っているだろう。だが、浅間には期限がある。深雪と交わした期日までには捕まえたい。無用に傷つく必要はないのだから。


 期日を先延ばしにはできないのだろうか。


 ふと、深雪の顔が浅間の脳裏に浮かぶ。覚悟を決めた、あの表情が。


 ──きっと、勝手に見るだろうな。


 それだけは避けなければならない。下手に犯人を問い詰めると、逆に深雪の身が危なくなる。


 ──殺人の証拠さえ、見つかれば。しかしその男が犯人だとしたら、この状況で出頭したということは、そう簡単に証拠は見つからないだろう。


 そこまで考えたとき、上司が言う。


「被害者の手紙で、娘がサイコメタリーとかなんとかと書かれていたな」


 浅間はどきりとした。


「違います、サイコメトリーっすよ」


 佐倉が小声で訂正する。上司は空咳をしてから続ける。


「浅間、そのサイコメトリーとかいうやつ、本当なのか」


 動悸を抑えながら答える。


「わかりません……。常識的に考えたら、妄想の産物だと思いますが」


 嘘は言っていなかった。その能力を実際に確かめてはいない。

 個人的には、その能力を信じていたが。


「そうか。サイコメトリーって触った物の過去がわかるとかいうやつだろう。本当にあるのなら、捜査に使えるだろうにな」

「自分がその能力を持ってたら、テレビに出演しますけどね」

「それ、インチキ能力者として批判されるパターンだろ」

「ええーっ」


 彼女の能力を、世間に晒したくない。平穏に暮らしていてほしいと思う。

 あと三日。その間に手掛かりが見つかってほしい、と浅間は願った。


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