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触れた指先  作者: 悠里
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第08話

 三日後、父の葬儀は近しい身内だけで執り行われた。未だ容疑が晴れておらず、死因が悪目立ちするだけに、遠い親戚が興味本位で葬式に参加するのを防ぐためだった。


 ひっそりとおこなわれた葬式で、深雪は父方の祖父母と母、それぞれから同居の申し出を受けたが、深雪はそれを断った。見ないようにするための方法を知ったから、あの時のように見たくないものも見てしまうようなことは避けられる。どちらとも問題なく暮らせるだろう。


 だが、父の死の真相の見つけ方によっては、迷惑をかけることにかもしれない。せめて父を殺した犯人を捕まえるまでは一緒に暮らせない、と深雪は考えていた。


 祖父母も母も最後まで心配していたが、父と暮らしている間も家事をこなしていた、と深雪が言うとしぶしぶ折れた。明里の口添えがあったのもよかったのだろう。


 そうして無事、葬儀が終わった。


 マンションに帰り、高校の制服を脱いだ。もうそろそろ、学校にも行かなければならないだろう。


 ベッドにもぐりこむと、すぐにあたりは静かになった。隣からも何も聞こえない。つい最近まであった、存在の証である音が。ふいになにかが込み上げてきた。


 深雪は暗闇の中でまぶたを閉じた。目から流れ出そうになったとき、携帯電話が鳴った。電話帳に登録されていないが、一度見たことがある番号だった。


「浅間さん?」

「すまん、夜遅くに。夜中だと思いだしたのは掛けてからだった」

「大丈夫です、まだ起きてましたから」


 目じりに浮かんだ涙をぬぐいながら、深雪は答えた。


「今日は葬式だったと聞いたが。疲れてるだろう。手短に済ます。実は、高橋さんの横領の容疑が晴れた」

「よかった……。それで、犯人は?」

「それはまだだ。だがずいぶん絞り込めるだろう。横領犯と殺人犯が別でなければ」


 深雪は息を吐き出した。安堵と落胆が半分だった。

 それから少しためらったように間が開いてから、浅間はたずねた。


「今、気づいたんだが──父親が横領犯でないこと、知っていたのか?」

「……はい」

「最初、父親の寝室に行ったときだな」


 この人は警察官なんだ、と深雪はあらためて感じた。悪いことはしていなくても問い詰められる感覚になる。

 確かに、深雪は寝室に行ったときに父の本を手に取り、横領をしていないことを知っていた。

 横領を発見し一人苦悩している父の姿が、今一度、深雪の脳裏に映った。


「そうです。言っても身内の意見だし聞いてもらえないと思って……。言った方がよかったですか?」

「いや、係も違うし、こう言うのはなんだが、知っていても仕様がなかった」

「そうですか……」

「それと、この番号、明里に教えてもらってそのままだった。今更だが、都合が悪いならこれからは自宅に電話するようにするが」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。この番号は俺個人の物だから、何かあったら連絡してくれ。じゃあおやすみ」

「おやすみなさい」


 深雪は電話を切って、浅間の番号を携帯に登録した。携帯電話を閉じて、もう一度ベッドに寝転んだ。涙はもう、でなかった。


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