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触れた指先  作者: 悠里
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第07話

「ところで、そのサイコメトリーに制限はあるのか? 手紙には物体に触れると物体付近の過去が見える、と書いてあったが」

「そんなこと、あなたが知る必要ないわ」


 明里は止めたが、深雪は構わず言う。


「いいですよ、明里さん。まず、生き物は見えません。あと無生物でも他人が直接持っているものは見えないので、着ている衣服に触れても見えません。それで私は手袋をしてるんです」

「そうなのか。しかし無生物でないとだめなのか? 死体とかは──」


 浅間は言ってから口をつぐんだ。深雪は悲しそうに口もとに笑みを浮かべて言う。


「父に触れて、死んでからの過去が見えました。死んでから、というよりも巻き戻しみたいに触れた時点からさかのぼるので、死んだ直後まで見えた、という方が正しいかもしれません」

「そうか。それじゃ犯人は見えたのか」

「いえ、それは……」


 父が死んだとき、周囲に人がいなかった。すでに逃げた後だったのだろう。

 浅間は犯人を知りたがっている。深雪が傷つくことを懸念してはいても、本質はそこなのだ。


 ……そのための答えを、私は用意できる。先に何があるか分からなくとも。


「でも、父が死んだときにあった近くのものに触れれば、犯人がわかるはずです。そうしてでも、私は犯人を捕まえたい。捕まえてほしいんです」


 浅間は考え込むように黙った。明里も苦しそうな顔で深雪を見つめている。


 ここで警察に協力してしまったら、これから依頼が来るようになるかもしれない。死体になった人、行方不明になった人物が身に着けていたモノ。きっと生臭いものしか見えない。明里がそのことを懸念していると知っていたが、そうなってもいいと深雪は思っていた。


 今まで憎んできたこの能力を生かせるなら。父の仇をとれるのなら。


 浅間は結論を出したようで、険しい顔で言う。


「あと一週間待ってほしい。その間に捕まえられなかったら、犯人を特定してくれ。だがこっちで絞った中に犯人がいなかったら、たぶん逮捕は難しいだろう」

「難しいって……」


 逮捕するために、犯人を名指さすのに。深雪の思いを感じ取ったのか、浅間は続ける。


「お前のことを伏せて、目星もついていない人物を逮捕するのは難しい。もちろん、そうならないように努力はする。無理だったときは俺を責めるなり、どこかの新聞社か出版社にタレこんでもいい」

「倒れさせたお詫びもしないといけないしね」


 明里が口をはさむと、浅間は苦笑した。


「わかりました。よろしくお願いします」


 深雪は頭を下げた。


「でもお詫びはいいですよ。ちょっとタイミングが悪かっただけなので」

「ま、それはいいとして、深雪ちゃんは明日からどうするつもり? 学校に行くのはしばらく控えた方が良いと思うけど」

「片付けがあるので、時間はつぶれると思います」


 遺品整理、とはまだ言えなかった。それでも明里はわかったのか、うなずいて「ゆっくりやればいいわ」と優しく言った。


「そういえば、三日後には遺体を返せそうだと聞いた」

「どうしてあんたはそういう殺伐としたことを……」


 浅間は失敗を隠すように頭を掻いた。


「すまん。母親には俺から連絡しておこう。葬式はさすがに母親か、父親の親族がやってくれるだろ」


 浅間が軽く言うと、深雪は複雑な気持ちでうなずいた。


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