第06話
「急に深雪ちゃんの携帯番号教えてくれって言うから、何事かと思って心構えはしてたんだけど。案の定ね」
「すまん。焦りすぎた」
「私に謝ってどうすんのよ。あとで深雪ちゃんにブランド物のバッグねだられても知らないわよ」
「お前が入れ知恵でもしなかったら普通は言わないだろ、そんなこと。まあ、あとで何か差し入れはする」
「賢明ね。それにしても何で携帯にかけたの? 自宅の電話番号は知ってたんでしょ」
「居留守をしたんなら、自宅の電話も取らないと思った。だから心理的にハードルの低い携帯の方に電話をかけた」
「なるほどねー。そういうところには気付くのに、繊細だっていう忠告は忘れちゃうのねー」
浅間は、明里の毒舌に眉をしかめた。
「だが特殊能力の妄想をするほど重症なら言っておいて欲しかったな」
「はあ? ……ああ、そうね」
明里は一瞬驚いたが、浅間は深雪の能力を本人の妄想だと思っているのだ、と判断した。しかし、反応が少し遅かったようだ。浅間はより険しい顔をして言う。
「やっぱりサイコメトリーは本当だったのか。いろいろつじつまが合った」
「私相手にカマかけるんじゃない!」
「そうでもしなければ絶対に否定しただろ、お前」
喧嘩に発展しそうになったとき、ソファに寝かせられている深雪が身じろぎして、そちらに視線が移った。
明里は深雪の頭を撫でながら声をかける。
すると深雪はうっすらと眼を開けた
「せん、せい……」
「大丈夫? 起きられる?」
「はい……」
深雪はぼんやりした目でうなずいて起き上がり、ソファにもたれた。
「悪かったな、急に問い詰めるような真似をして」
「あ、いえ」
敬語がとれたのを意外に思ったのか、深雪は驚いた様子で首を振った。
浅間はどうやら、刑事として接することをやめ、本音で話すつもりらしい。
「私も、居留守してすみませんでした。直前に母から電話があったので、いろいろ驚いちゃって……」
「母親から? ああ、だから心労が重なって倒れちゃったのね。お葬式までは電話しないでほしいって言ってたんだけど」
明里は不満げに呟いた。
「母もそう言ってました。でも、私のことを心配して、一緒に暮らそうって。私の能力を知ってるから、大丈夫だって」
「お父さんに、母親に能力のことを伝えてほしいって、私から言ってたの。まあ母親は、ただの本人の妄想だって受け取ったらしいけど。無理に信じさせる必要もなかったし……」
「母親のメールもそんな内容だった。彼女に触れると過去がわかるという妄想癖があっても、正しい対処をすればまた一緒に暮らせるんじゃないか、ってな」
深雪は、思いつめた眼差しで浅間に訊く。
「浅間さんは、私のサイコメトリーを信じているんですか?」
「前日、明里に母親の愚痴が聞こえていたという話を聞いたんだ。だが、まともな母親なら、本人が聞こえるところでそうひどい言葉は吐くとは思えなかった。それに明里も被害妄想だって言わなかったしな。そんなときサイコメトリーを知って、お前はきっとこの能力のせいで母親が言ったことを知り傷ついたんだ、と思った。違うか?」
「いえ、あってます……」
「ほかの捜査員はその能力のことを、母親と同様に妄想癖によるものだっていうやつがほとんどだ。俺の上司は変な人で、そういう能力があったら面白いのにな、って半分本気で言っていたが、まあ、そんなところだ」
「そうですか……」
深雪は少し安堵したように微笑んだ。