表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触れた指先  作者: 悠里
5/13

第05話

 翌日から深雪は忙しくなった。午前中は弁護士と面会し今後のことを取り決め、午後からは警察の事情聴取に応じるという大変な一日だった。おかげで別のことを考える余裕がなかったことは、唯一の救いかもしれない。


 夜、自宅に帰り、深雪はソファに寝転がった。


 横領、そして父を殺した容疑者は何人かに絞られたものの、決定的な証拠はまだあげられていない。このまま捜査が難航したら犯人の顔を見たことを言おうか、深雪は悩んでいた。


 明里には止められているが、犯人を知っていながら捕まえられないのも苦しい。能力が知られるのがネックなら、父との会話にその人物が出てきたことにして──でも事情聴取のときに言わなかったのが怪しまれるかもしれない。


 深雪が考えていると、家の電話が鳴った。今日はかなりの頻度で電話がかかってくる。


 面倒なことでなければいいけど、と深雪は受話器を取った。すぐに懐かしい声が聞こえる。


「深雪? お母さんよ」

「おかあ、さん……」

 数年ぶりの母の声に、深雪は呆然とした。


「ごめんね、お医者様には止められてたんだけど、どうしても言いたいことがあって」


 聞きたくない。そう思うが、身体が全く動かない。


「今回の件が落ち着いたら、一緒に暮らさない? 一人じゃ不便だし、さみしいでしょう? 母さんの悪いところ、全部直すから、一緒にやり直そう?」

「違う、違うの。全部私が悪いの。お願い、一緒に暮らそうなんて言わないで」


 深雪は悲痛な声で、精一杯に自分の思いを告げた。


「あなたのその……能力のことを心配してるの? 大丈夫よ、ちゃんと理解してるから。一緒になくしていきましょうよ──」


 深雪は乱暴に受話器を置いて、しゃがみこんだ。


 母はサイコメトリーのことを知っていた……? いつから、誰に聞いて……? 


 母にだけは絶対に知られたくなかった。傷ついていたことを知られたくなかった。きっと母も傷つくから。


 一緒に暮らしたいのは深雪も同じだった。好きだからこそ、ひどく言われることに傷ついて、離れることを選んだ。母はその決意をいとも簡単に揺らがせる。そこまで頼むからには、今度は傷つくことはないのだろうと──。


 家のインターホンが鳴って、深雪はびくりと体を震わせた。母が迎えに来たのかもしれないという考えが頭をかすめた。


 しかし母ではなかったとしても、他人に泣いた顔を見せられない。鳴り続けるインターホンを無視し居留守を決め込むと、しばらくして止んだ。


 すると、今度は携帯が鳴り始めた。知らない相手からに戸惑いつつとると、男の人が出た。


「浅間です。今、家の前にいるんですが、開けてくれませんか」


 その焦った声音に、泣き顔だということも忘れてすぐに鍵を開けに行く。

 携帯を片手に持った浅間が立っていた。


「どう、されたんですか」

「近所の方に聞かれたくない話なので、中に入ってもいいですか?」

「はい……」


 中に入る、といっても玄関にだけで、浅間は部屋に上がろうとしなかった。


「高橋さんの携帯を調べていたら、奥さん宛てメールにサイコメトリーという単語が出てきました。あなたに関しての記述のようなのですが、どういうものか、話していただけますか?」


 一瞬、頭が真っ白になった。


「な、なんで……っ」


 なぜ父は母に能力のことを伝えたのだろう。そして、この人にまで知られたということは、ほかの大勢の人にも知られた──。

 深雪の頭の中に、様々な思いが浮かんだ。だんだんと呼吸が浅く、速くなる。


「お、おいっ」


 薄れて行く意識の中で、浅間の困惑した声が聞こえた。

手直しする前はメールではなく手紙でした。なんで手紙にしたんだろうか…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ