第11話
父親が死んだという場所に着き、浅間をゆすると、彼は飛び起きたあとにすまん、と謝った。
「お疲れだったんですね」
「これぐらい平気だったと思うんだが……」
「歳じゃない? あとは自分でも気づかないうちに無理してたとか」
「歳って……俺まだ二十代半ばだぞ」
「不摂生のせいで体の年齢が落ちてるのかもね。圭吾の体はともかく、深雪ちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。浅間さん、どこで落とされたか、わかりますか?」
長い橋の方を向いて深雪は訊いた。少し場所がずれても見えるが、これだけ長いと見当をつけておいた方が、効率がいい。
「それが、全く分からなくてな。東側であることは間違いないんだが」
それを聞いて、深雪は右手の手袋をはずした。近くの欄干に右手で触れ、脳裏にある映像が浮かんだ。
自分たちが来た風景から、何気ない景色に変わり、しばらくすると一か所に警察が集まってきた。
一度手を離し、警察が集まっていたところに移動する。そして、今度は目を閉じて欄干に触れた。
途中までは、先ほどの映像とそう変わらなかった。ただ角度が違うだけだ。警察が集まってきてしばらくたった場面から、深雪の表情がこわばった。
川からあがった遺体、水の中で身動きせずうつ伏せに浮かんでいる姿、橋から落とされたときの水しぶき、口論している最中の父とその相手の顔──。
そこまで見て、深雪はすぐに手を放した。深雪がその場にしゃがみ込みそうになると、明里がそれを支えた。
「見え……ました。四十代くらいの男性、メガネをかけていて……」
だんだん深雪の声がかすれて、ついには消えた。かわりにぽろぽろと涙がこぼれた。
「この男か?」
「圭吾っ」
明里の咎める声を無視し、浅間は内ポケットから一枚の写真を取り出して深雪に見えせた。深雪は涙を拭きながら答える。
「そうです。車で来てて、ナンバーは──」
浅間はメモ帳を取り出し、その番号を記録した。
「凶器は普通の、大きな石でした。お父さんを殴った後、持ってきていた黒いバッグの中に入れて、ました」
「そうか……ありがとう」
そう言って浅間は携帯を取り出し、どこかに電話をかけた。少々乱暴な口調で車体ナンバーを検索にかけろと告げて、切った。
浅間はしゃくりあげる深雪の頭をなで、もう一度、ありがとう、と言った。
「絶対に、捕まえてくださいね」
深雪は無理やり笑顔を作って、浅間に笑って見せた。