第10話
「すまん、その力に頼らせてくれ」
そう言った浅間の顔色はだいぶ悪く、一目見て疲れているのだとわかった。
「無理を言ったのは、私ですから……」
申し訳なく思いながら深雪が言うと、浅間は首を振った。
「遺族が早く犯人を捕まえたいと思うのは当然だ」
「約束守れなかったの、圭吾だしね」
深雪が心配だからと、明里もその日、深雪のマンションに来ていた。明里は、車を持っているのは自分だけで、足代わりになるからと告げ、嫌がる浅間を説得したのだ。
「横領犯は捕まったけど、殺人犯は捕まってない。しかも、どこに行ったか分からないお金がある……ってとこまではワイドショーでやってたけど」
その後の展開はどうなのよ、と明里が浅間に訊いた。
「用途不明の金がどこに行ったのか、ある程度の目星はついているらしい」
「らしいって、どういうこと?」
「課が違うから、大まかなことしかわからないんだ。とにかくそっちはどうにかなるんだが、殺人の証拠がな……」
「それを、私が見つければいいんですね」
深雪の言葉に、浅間は複雑そうな顔でうなずいた。
「出来れば、警察を信用してやめてもらいたいんだが」
「信用はしています。でも、ずっと待っているのは耐えられないんです。……浅間さんが気に病むことはありませんよ」
「私もやめてほしいけど、強制できないしね」
深雪は困ったように微笑んだ。
「それで? どこに行けばいいの? 遺留品を持ち出してるわけじゃないんでしょ」
「さすがにそれは無理だ。殺害現場に行くのが一番なんだが……」
「私なら大丈夫です。行きましょう」
駐車場に降り、運転席は明里で、助手席に深雪、後ろに浅間が乗った。
出発してしばらくたって、深雪が口を開いた。
「その……父が死んだ場所は近いんですか?」
「遠かったと思うけど……。どちらかといえば会社の方に近かったはずよ。ねぇ、この先右折だっけ?」
明里が浅間に訊いたが、後ろからの返事はない。深雪が不審に思って振り向くと、浅間はドアにもたれて眠っていた。
「熟睡、してます。疲れてたんですね」
「道順教えてもらおうと思ってたのに。カーナビ設定しなくちゃいけないじゃない」
明里の軽口にも、深雪は笑えなかった。
「私が期限を決めたから、浅間さん、無理をしてたんじゃ……」
「そんなの、気を使う必要ないって。それより早く事件解決して、深雪ちゃんが笑ってくれる方が絶対嬉しいんだから。それまではこき使ってやるくらいで十分なのよ」
明里はバックミラー越しに微笑んだあと、車を横に寄せて停車した。
カーナビを操作し再度出発すると、はっきりとわかるぐらい緩やかな運転に変わっていた。
さりげなく優しいんだ、と深雪は明里の横顔を見て、からかいたくなった。




