はじめてのおつかい
9時。
鐘の音でこの町が夜から昼に変わる。人々が待ち望んだ昼という光の世界に。
市が開かれ、人々が行き交う。そして____
「何だい今日はずいぶん早いじゃないか。」
「旦那が帰ってくるのよ。『夜』に入らないうちにっていうから・・・」
「そうかい。きょうはサザメが安いよ。」
「じゃあそれ頂戴。」薄いオレンジ色のお札を出した。おつりが四角い貨幣を二つ。サザメという魚は二つだから、夫婦二人分。
「おばちゃん、これくださーい。」子供が手にとったのはお菓子の詰め合わせ。
「はいはい、37zgだよ。」
子供は四角い小銭を出す。店の女は四角の小銭をいくつか返す。
それをじっと見ていたラズは手元のお金を書いた宿のメモ用紙を出す。昨日、食べた昼代と夕食代、宿泊代を抜いた手元にある金額は。
100圓・・・3枚
50園・・・2枚
10圓・・・4枚
10zg・・・2枚
5zg・・・・3枚
これだけだ。
なんとなく、紙幣の金額が高いのだとすると、100圓が一番高いということになる。
それぞれ刻印が入っていて、100圓は金色、50圓は朱色、10圓は青色の印が入っていた。
zgというのはゼンガというらしい。
しばらく市の様子を観察していたラズは、意を決したように顔をあげ、子供たちがいた店の前へ行く。
「お嬢ちゃん、観光かい?」陽気な店主が声をかける。
「ええ、まぁ。・・・これと、これをください。」ラズは手近にあったクッキーの詰め合わせと、籠の中のサンドイッチを指差す。
「68zgだね。」そういって店主は紙袋にサンドイッチを入れる。
「は、はい。」声が震えた。zgということは小銭なはずなので、10zgを出したかったが足りないので、10圓を出す。
「はい、32zgの釣。」ラズはお釣と袋を受け取る。その手が震えそうになったので隠して。
「あんた、宮殿は行ったかい?今から行くならライオの刻に行くといいよ。演奏がある。」
「あ、ありがとうございます。」ラズはそう応えると、次の店を探す。
そこは時計売り場だった。
見たこともない記号が並んだそれは、多分、どう見ても時計なんだろう。でも、それと一緒に数字が並んでいる。それは見慣れた1から12までの数字だ。
「あの。。。。」こんなことを聞くのもどうかと思ったが。
「いらっしゃい。何にしますかね?」<BR>
「腕時計が欲しいんですけど・・・」<BR>
「はいはい、こちらですね、おすすめはこのゲジャの皮製のやつですよ、こっちは耐水、鉱石いらずのエーテル時計なんてのもありますぜ。」人のいいご主人はそう言って勧める。<BR>
「・・・じゃ、この黒いのを。」探せばもっと安いものも見つかるだろうが、何しろ昼の時間が短い。ラズは手近にあったものを指差した。<BR>
「はいはい、毎度、60圓80zgだよ。」100圓を出した。<BR>
「そのまましていくかい?はい、30圓20zgの釣。」<BR>
「ライオって何ですか。」<BR>
「・・・・・はぁ?」店の主人の手が止まった。<BR>
ラズは釣を素早くしまうと、時計をつかみ、にっこり笑う。<BR>
「ありがとうございました。」<BR>
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そこから、逃げるように走った。