一夜
夜までに残された時間はあとわずか。その間に自分の職務である『買い出し』を終わらせ、屋敷に帰還しなくてはならない。それなのに___
「何をなさっておいででしょうか。ラズライト様。」ルチルは自らの前で熱心にショーウィンドウを見る一応のこれから彼女が仕えるべき人物を目にしてため息と共にそう吐き出した。先ほどから不動産のショーウィンドウにはり付いたまま、動かないのである。
「ルチルさん、すみません、相場っておいくらくらいなんでしょう?」ラズはショーウィンドウの中にある間取りと値段の数字を見比べながら自らの後ろにいる人物に声をかける。
「屋敷に滞在する費用のことですか?それでしたら、主にも言いつかっておりますが、お気になさらなくて結構です。そもそも、ラズライト様は支払えるだけのものをお持ちでしょうか。」
「・・・・・す、少しの間くらいなら・・・たぶん。」ラズはルチルを振り返った。
「ですから、結構ですと申し上げました。我が主はそれほど金に困っているように見えますか?」
「いや、全然。でもこういうのは気持ちの問題だと思うわけです。なので、私に仕事をください。」ルチルは大真面目な顔をして聞くラズににっこり笑いかけ、
「私を無職にするおつもりですか。」そうして、ルチルはラズをひっぱって行くことに成功したのだ。
「遺跡を夜に見たい、ですか。」その頃、カーネリアンはきょとんとした後トパーズとアレクに向き合った。
「緑官補佐殿に許可をいただければ可能です。でもその際は、お二人には騎士団の誰かがつきますよ。」
「ああ、それでかまわない。それと、シンナバーさんに会いたいのですが、彼はどこに?」トパーズが聞く。
「あの方でしたら、工房にいますわよ。この時間でしたら、まずそうでしょう。工房は・・地図に登録してありますので、そちらをご覧になってくださいまし。わたくしは、許可を頂いて参ります。」カーネリアンはそう言うと部屋を出て行った。
トパーズとアレクは時計にみたてた見取り図の丸い石をなでた。そうすると、空間に屋敷の見取り図が浮き上がるからだ。
「2Fの端か。」地図を確認すると、もう一度石をなでる。そうすると見取り図は消え、普通の時計になる。便利だったが、ふとした瞬間に触ってしまうので、やっかいでもあった。
「ロック機能とかついてればいいのにな。」アレクがぼやく。そして、彼等はシンナバーの工房へ向かった。
ラズは不思議と高揚感を覚えていた。
目の前を歩く使用人は、ラズとそう変わらない年頃だった。なのに、とても冷静で姉妹であればラズは妹のようだ。
そもそも、ラズは自分と同じ年頃の女の子に会ったことがない。アダマスはお仕えする主であるし、あの方は女性ではない。_男性でもないが。クルセドニーでは紅一点のガーネットがいたが、彼女はラズよりずいぶん年上だ。それを思うと、自分の他にも巫女はいたが、彼女らと会うことはなく、また女官の多くもアダマスの神殿に仕えていたため、ラズライトが彼女らと話す機会はほとんど無かった。
時折、廊下で会えば挨拶もしたが、それだけだ。
ラズは、それまでの生活に何ら不満を持ってはいなかったし、これからもそうだろうが、ひどい孤独感をはじめて自覚した。
足りなかったものを見つけた時の安堵感と、不安、そして歓喜、これが入り交じった状態であるから、当然うわの空になる。
「聞いてらっしゃいますか?」気づいた時には、こちらを睨んでいるルチルの瞳が目の前にあった。
「あの。様つけは、やめませんか?」そこで思い出したように話す。
「却下です。ラズライト様はわたくしの職務の妨げになるようなことはおっしゃいませんよね?」また、極上の笑顔につられ、ラズは流された。
「ええと・・・はい。」
「結構です。それでは、ここから屋敷まで5分ほどですから、お戻りください。わたくしはもう一カ所寄る場所がございます。」
「え?・・・つきあいますよ?」ラズは思ってもみなかった言葉に驚く。確かに、ここからなら土地勘のない自分でも帰れるだろう。けれど、両手いっぱいに荷物を持ったルチルを放ってはおけない。
「わたくし、二度同じことを申し上げるのは嫌いです。もうすぐ『夜』に入ります。そうなれば主とて屋敷から出ることもめったにありませんので、ラズライト様がお話するにはちょうど良いかと。クロラストリティスはこの後予定が入っておりませんでしたので、ラズライト様は屋敷に戻られることがよろしいでしょう。」
「・・・そう、ですね。では、荷物だけでも持っていきます。」そう言ってルチルの手に持っている荷物を取ろうとしたら意外にもその素早さでかわされた。
「三度、同じことを申しましょうか?」かすかにその顔に走った怒気を感じ取ると、ラズは硬直し、姿勢をただした。
「戻ります。」
「結構。それではラズライト様、お送りできずに申し訳ございません。どうぞ、お気をつけてお帰りくださいませ。」ルチルは美しい姿勢で礼をとると、そのままきびすを返し人ごみに消えて行った。それを見送ったラズはなんだか心が涼しくなり、自分ものろのろと屋敷へ歩き出した。
(何を考えているんだ私は)自分の中に芽生えた感情に失笑した。この異なる世界では完全に自分は異質。その上、彼等から奪ったものが多いのだ。例えそれが自分の所為でなくとも。その自分が、どうして今更彼女に優しくしてもらえるなどと思い上がりも甚だしい。
(情など、無い方が良いのだ。私がすべきことは一つなのだから。)そうしてラズは顔を上げると虚空を睨んだ。
「お嬢さん、お嬢さん。」
「・・・・」
「・・・・・・」ラズは近くから聞こえてきた声に振り返る。
そこにいたのは灰色の髪と薄い黒の瞳を持つ男だった。頭にはターバンを巻いていて、あきらかにタイラス以外の異国の服を着ていた。
「・・・・何か。」
「遺跡まで行きたいのですが、ツアーの皆とはぐれてしまったのです。道を教えてくださいませんか。」
「それでしたら、私も途中までは同じ道を行きますので、よろしければ一緒にどうぞ。」ラズはそういって館へと歩みはじめる。
「そうですか!それは良かった。是非ご一緒させてください。・・・私は、アンハイドと申します。」隣に並んだ男はそういって笑う。
「ラズです。」名乗ることも無いと思ったが、相手が名乗ったので仕方なくそう言う。
「こちらには観光で?」
「ええ、まぁ。」
「そうですか。私もです。綺麗な街ですね、ここは。メルトとは大違いだ。」男が感慨深く言うのでラズは気になり、
「メルトに行ったことがあるのですか?」
「ええ、あそこは何もない。文字通りの砂漠です。緑の楽園と呼ばれるツァイニングなどとは全く違いますね。」そう言うとまたにっこり笑う。このへんでは珍しい黒い瞳がいやに綺麗だった。ラズは門が見えて来たので、アンハイドを見上げ、
「あそこが正門ですが、もうすぐ夜ですから、早めに帰られた方がよろしいですよ。」そう言い別れようとした。
「どうもありがとう。しかし夜は何故怖いのだと思う?」そこからアンハイドの口調が変わった。ラズはそれに気づかないまま門に向かう。
「『影』が出るからですか?」
「そうだね。それもある。けれど、人は古来から光を愛し闇を恐れるのだよ。闇を恐れるのは人間だけだ。愚かなことにね。」
ラズはそこでいったん立ち止まると門番に鍵を見せ通用門を開けてもらう。そこでアンハイドを振り返る。
「私は愚かだとは思いません。人はただ___知らないだけなのです。」そう告げると門に入っていく。それを興味深そうに見ていたアンハイドは門番に愛想笑いをすると来た道を引き返し、つぶやいた。
「なるほど、では『何』を知らないのだろうね?」それはぞっとするほど冷たい声だったが、幸い周りにいた人間が気づくことはなかった。本来なら30メートルほど先まで一本道の大通りなので門番の目の前にいる人物が極端に遠ざかることはまずない。けれども、その男はいつの間にか消えていた。そして、門番がそれに気づくことはなかった。
ボーン・ボーン・ボーン・ボーン・・・
夜が来た。
ラズはトパーズとアレクのいる躑躅の間を訪ねたが、留守だった。仕方なく引き返すと階段を上がりかけた所で後ろから声をかけられた。
「客人。」振り返るとクロラストリティスが上がってきた所だった。
「ラズライトです。」どうも客人と呼ばれるのには抵抗があったので、ラズはそう答えた。
「話があると聞いているが、今大丈夫か?」クロラストリティスはそのままラズの隣へ来ると上へ促した。
「はい。お願いします。」ラズはそう言うとクロラストリティスに続いて階段を上がった。
通されたのは4階の一室だ。
いっそ質素と言ってもいいほど下の階とは全く違う内装にラズは驚いて見回す。
「ああ、ここは私の部屋の一つでね。下は客間だが、あんなものは趣味じゃなくてね。」どちらかというとロココ調のような調度品が多かった下の階に比べ、ここはラズにとってなじみのあるシンプルな飾りの無い家具が多かった。
(ああでも、彼はバロックとかも合いそうだ。)しみじみそんなことを思いつつ、勧められたソファーへ腰掛けた。
「で、話は聞いている。部屋代を払うという件はルチルからも聞いたように、無用だ。うちはそれほど金に困っているわけではないからね。それで、色々と聞きたいことがあるから君を呼んだんだが、答えられるか?」クロラストリティスはそういってラズの前にソーサーを置く。中にはほのかに花の香りがするお茶が入っていた。ラズは礼を言うと、
「答えられる範囲ならば。」そう言って窓辺のクロラストリティスを見る。
「君の仕える方は、本当にあの壁の主なのか?」思ったよりもひどく優しい声音にラズは緊張をほぐし、息を吐く。
「はい。アダマス様はわたくしのお仕えする唯一にして無二の方です。」
「その方は、神なのか?」
「こちらでいう、神という概念がわかりません。かの方は、一国を治める方であると言えばお分かりになりますか。」
「国か。なるほど。君はこのタイラスへ来る前エレクの街にいたらしいね。そこで騎士団に助けられた。」
「はい。」
「その時いたオルト・クレーと会う前はどこに?」クロラストリティスはラズの前に座ると自分のソーサーをテーブルに置く。
「森に。気づいたら森にいました。オルトさんと出会ったのはその後、エレクへ行く道で。」
「影は逃げたというけれど、何故だかわかるかい。」
「いいえ。」
「本当に?」
「ええ。」
ラズはそこでお茶を飲んだ。クロラストリティスはラズから視線を外さず、指であごをなぞった。
「あの神殿の文字がわかるかい?」
「ずいぶん昔の言葉ですが、おそらく我々の世界の言葉でしょう。時間がかかりますが、解読はできると思います。」
そこでクロラストリティスは一息つくと、ラズから視線を外した。
「__この腕輪、ずいぶん美しいな。」突然クロラストリティスがラズの腕を取った。ラズは驚いて目を見開く。
「はい。」ラズはつかまれた腕をさりげなく失礼にならない程度に外す。
「誰かにもらったもの?」
「ええ。」
「君には青い石の方が似合うと思うけれど。それで、君は巫女なのかい?」ラズは即答ができなかった。
「答えられない?」
「はい。」ラズは正直に答えた。
「あのトパーズという彼は、君が巫女だと答えた。なのに、君は違うと言うのかい。まぁそんなこと私には関係ないけれどね。」たんたんと語るクロラストリティスの言葉にラズは両手を膝の上でにぎった。
「___そうそう、君、さっき正門近くにいたろう。一緒にいた男は誰?」質問が変わってラズはほっとした。
「観光に来た人のようです。遺跡に行くというので案内しました。」
「へぇ、あんな時間に来る客がいるとはね。で、何か言っていたかい?」ラズはクロラストリティスの真意がわからずきょとんとする。
「ええと、旅人さんのようでした。メルトに行ったことがあって、こちらは豊かだと。ツァイニングが緑の楽園だなんて私知りませんでした。名前は確か___アンハイドさん。そう言っていました。黒い瞳って珍しいですね。」ラズはほっとした所為で饒舌になっていた。その間に変わったクロラストリティスの瞳の鋭さにも気づかず。
「黒は不吉なんだ。」ラズは「綺麗だ」と続けようとしていたのでその言葉に言葉を失った。
「何故ですか?」
「アラヴィスタには女神の伝説がある。女神の名は後世にねつ造されすぎているから、数多くあるが、その中でも一般的に二人の女神のうち一人を「アラヴィス」もう一人を「アシェイド」と言って、「アラヴィス」が光を「アシェイド」が闇を表している。だから、一般的に光より闇の神の方が恐れられているし、今回の影も神の復活間近などと噂をする組織もあって、まぁ押さえるのが大変だ。」
「あの方は愚かだと言いました。闇を恐れる人間を愚かだと。あなたは、どう思われるのですか。」ラズはアンハイドを思い出す。
「私かい?」クロラストリティスは楽しそうに笑うと、お茶を飲み干す。
「私は黒い色は好きだね。赤獅子と呼ばれた父が好んで着る色でもあったしね。だから、何故人が黒を嫌悪するのかよくわからんし、闇と黒は全く別だろう。それに、影も。_あの方というのは?」
「アンハイドさんです。」とたん、クロラストリティスの顔が変わる。
「通りすがりに深い会話だな。」
「不思議な方でした。私も黒は嫌いじゃないです。お方様も好きだとおっしゃってくださいましたし。」
「通りすがりにさん付けはしなくていいし、もし不逞な輩であったら危ないのだから、これからは常にルチルと行動するように。ルチルにも言っておかねばね。」
「あ、すみません、私がいけないんです。ルチルさんは悪くありません。」ラズは自分が間取りを見ていた所為で遅れたのだということを思い出して言う。
「使用人にもさん付けはしなくていい。」
「_失礼いたします。」そこでコーディが入ってくる。
「もう時間か?」クロラストリティスはそう言うと立ち上がる。
「ええ、彼等のこともありますし、今日は早めに行うのがよろしいかと。」コーディは入ってきてラズライトに気づくと、
「お二人はこれから遺跡へ向かうそうですが、あなたはどうされますか。」
「行きます。」ラズはそう言うと立ち上がり、クロラストリティスを見る。
「お茶、ごちそうさまでした。」ラズは思い出してソーサーを手渡す。
「ああ、そのままで。私も行こう。コーディ、スーツを。」そう言ってラズを促し部屋を閉めた。
クロラストリティスが歩きながら手渡されたものはサークレットだった。
「?」ラズが歩きながら様子を伺っていると、クロラストリティスはそれを額にはめ、瞬間そのサークレットから透明な膜のようなものが光と共に彼を包み、気づいたら、彼は鎧を装着していた。
「・・・・黒、なんですね。」ラズはその鈍く光る漆黒の鎧をまとったクロラストリティスを見ながらつぶやく。
「ああ。家宝みたいなものでね。先代から譲り受けた。」
「闇を、恐れてはいないのですね。」
「・・・そうだな。光も闇も、我等には必要なものだから。」ラズはそっとクロラストリティスを伺うと、腕輪にそっと触れた。そして顔を上げ、遅れないように歩き始めた。
その様子を伺っていたクロラストリティスはラズに気づかれないようにコーディを伺った。
(やはりあの腕輪、何かあるな。)コーディに意識のみで話しかける。これが彼がレイヤーと呼ばれる所以でもある。
(彼女も連れていくおつもりで?)コーディから返事が来る。彼もクロラストリティスほどではないが、意識のみで会話ができる。二人は歩調もそのまま、視線もそのままである。
(お前が誘ったのだよ。まぁそれで何か起これば起こったことにこしたことはないが。)
(とはいえ、この娘に何があるのでしょう。あの二人の男は少し異常にこの娘を意識しています。)
(オルト・クレーはどうだ。)
(今日はコスへ行っていますね。しばらくあちらで動けないようです。)
(コスか・・・あちらにも影が?)
(ええ、ここ数日頻繁に現れているようです。ですが、不思議なことに死人は数えるほどだとか。)
(・・・頻繁に現れてか?まぁいい、とりあえず引き続きオルト・クレーの監視を。)
(はい。)
それぞれ想いを抱えながら、歩いていく。
遺跡につながる回廊の閉じられた扉の前。
「物々しいですね。」アレクは目の前に現れた騎士団約10数名を見て、つぶやく。カーネリアンも簡易的だが鎧を身にまとっている。それに気づいたトパーズが声をかける。
「もうしばらくお待ちください。」
「こんなにつくのかい?」アレクはカーネリアンに言う。彼女のまとっているそれは、簡易的で華麗ではあったが、かなりの強度を持つものだった。印は紅だ。
「ああ、違います。お二人につくのは私です。」
「君が?」
「ええ、西騎士団副官を勤めさせていただいております。」そう言って揃えて立つ足は驚くほどか細い。
「驚いた。」トパーズがこぼす。それを聞いた何人かの騎士が影で笑う。
「お二人にもスーツを、と思ったのですが・・・」
「スーツ?その鎧のこと?」
「はい。必要でしょうか。」
「・・・そうだな、いや、私たちは必要ないよ。」トパーズが答える。
「とりあえず、このままでいいんじゃない。今日は様子見だし。」アレクがそれに続く。そこで、騎士たちが廊下の左右に分かれた。
「お待たせ。」クロラストリティスが現れた。そしてその隣にラズがいる。
「ラズ。」トパーズたちはラズのそばに駆け寄る。
「これから我等は通常の行事に入るが、君たちはどうする?」
「我等は、カーネリアン殿と一緒に遺跡の一部を調べさせていただきたいのですが。」トパーズがそれに答える。
「私も行きます。」ラズが言う。
「だめです。」アレクが言う。
「何故?」
「現時点で、あなたの覚悟が決まっていないから。」アレクの率直すぎる答えに、ラズが目を見張る。
「行きます。私に、関係のあることでしょう?」ラズは視界に鎧をまとったカーネリアンを目に留め、頷く。
「では、わたくしをお連れくださいませ。」そう言って後ろから現れたのはルチルだった。彼女も鎧をまとっている。華麗な文様の隅に彩られたのは青色。
「ルチルさん。」ラズは驚いてその姿を見る。ルチルが手に持っているのは槍だ。普通の槍ではない。どこがどう違うのかはわからないが、壮麗な美しさとは別に、鋭さを感じさせた。
「東騎士団に所属しております。」ラズの視線に答え、クロラストリティスを見る。クロラストリティスは頷くと、声をあげた。
「はじめる。」それは静かだが、廊下の隅々まで響き渡った。
騎士の一人が扉を開け、二人がその左右で構える。クロラストリティスたちが入ってきた後ろの扉も閉まっているから、廊下ではあるが、ひとつの部屋のようになっていた。そして、その扉の鍵は常に領主と限られた者しか使うことはできない。
闇が、目に飛び込んできた。
ビリビリとする空気にラズは目眩がしそうだった。思わず前を進む彼等を見たが、何の変化もない。きゅっと唇を噛むと、トパーズとアレクを見上げ、
「場合によっては封印を解除します。私の___は持ってきてくださいましたか。」静かに告げられた声に二人の緊張が増す。
「ラズは俺が守る。」
「かの方からの言葉では、あなたの中にあると。」アレクが一度ラズを振り返り言う。
ラズはまた静かにだがしっかりと頷くと、目の前の闇を睨みつけた。