二人の召使い
「どういうことだい。」オルト・クレーは怒っていた。
突然、呼び出されたと思ったら詰問されることになるとは。
「だーかーら。あんたのとこの使用人が不法侵入で、捕まってんの。で、使用人はどういう人物なわけ?」男は非常にめんどくさそうに言う。オルトはこの閉鎖的な部屋に連れてこられ、先ほどから同じ質問と返答を繰り返していた。
「だから、あれはこの前会ったばかりだが、気に入ったんでね。雇ったのさ。この数日は休日ということだがね。だからあれが何をしようが私が知ったことではない。_あんたじゃ話にならないよ。ラズが何をしたかは知らないが、それはうちの社とは関係ないね。」
そこに一人の男が現れる。
「お疲れさまです。」先ほどまで怠惰な態度を示していた男が敬礼する。
「うん。オルト・クレーさん。もういいですよ。帰っても。」にこやかに微笑んで言った男は、明るいブラウンの髪と黄緑色の瞳をもっていた。服は騎士団のものだが、文官用の丈の長いものだった。
「ちょっとまってよ、ラズはどうなるんだい?」
「はい。彼女にはこちらで遺跡のアシストとしてしばらく逗留していただきます。了解も得ましたので。」
「わかった。だが、帰る前にラズに会わせてくれるんだろう?それくらいの権利はあるはずだ。」オルトは男に言う。
「わかりました。申し送れました。私、緑官補佐、コーディと申します。」男はそう言って晴れやかに笑った。
「オルトさん!」ラズは部屋に入ってきたオルトの姿を見るなり、立ち上がりかけよった。
「ラズ!無事かい。」ラズの姿を確認するとオルトは笑みを浮かべた。
「何だいこの部屋は。まるで監獄だね。」
「ええと、でも、窓以外に不思議な所は・・・」
「何言ってるんだ。あれも、あそこも、あの窓枠の端も、そこも、すべて鉱石だよ。うまく隠されてはいるが、あれがカメラで、盗聴、それから封じ込めの作用__なんて所にいるんだい。」
「それについては、我々も納得した上でいますので、ご心配には及びません。」そうトパーズが答える。
「あ、オルトさん、紹介しますね。左がトパーズと右がアレク_アレキサンドライトです。トパーズ、アレク、オルトさんです。」ラズは怪訝な顔をしたオルトに二人を紹介する。
「ああ、ラズが世話になりました。」トパーズが挨拶をする。
「世話ってほどのこともしていないが、トパーズさんとやら、あんたラズの雇い先の人かい?」
「ええと、雇い先の人というのは合ってますが、とりあえず今はラズの護衛兼、家族です。」
「護衛?ラズは狙われでもしてるのかい?」
「それより、どうしてここへ?」アレクが話を変える。
「仕事が早く退けたから、ラズの宿泊先のレジナ(宿の名前)に寄ったのさ。そうしたら、帰ってきてないって言うじゃないか。観光すると言っていたから、このへんで真っ先に行くのはここだろうし、門番を問いつめたらラズが入っていることはわかったんだよ。それで、心配になってね。そうこうしていたら、ここへ連れてこられたってわけだ。」
「オルトさん・・・ご心配と迷惑をおかけしてすみませんでした。」ラズはオルトに頭を下げる。
「そんなことは良いんだよ。それより、良い年した女がこんな部屋に閉じ込められるのは気の毒だ。それにいくら家族とはいえ、男二人と一緒ってのは・・・いかがなもんかねぇ。」オルトの言うことは最もだった。ラズは確かにトパーズやアレクとは家族のようなものだったが、セレスティスにいる時も一緒に暮らしていたわけではない。むしろ、なかなか会う機会が無かった。お互いの職務の所為で。
「それは考慮するつもりだ。」そこで割り込んできたのはクロラストリティスだった。その突然の現れ方にトパーズとアレクは視線を交わす。
「完了しております。」コーディが告げる。クロラストリティスは満足そうに頷くと四人を見て、
「部屋を準備させた。案内する。」そう言うと部屋を出て行く。ラズは慌ててその後に続き、残りの三人もそれを追った。
「コーディ。」クロラストリティスは後ろを歩くコーディに呼びかける。コーディは頷くと後ろの三人をちらりと振り返り、歩調を緩め三人に並ぶ。
「これから西館へ向かいます。西館はクロラストリティスの私邸となっていますので、特に決まりが厳しいこともありませんが、プライベートな空間なので、マナーには気をつけてください。トパーズさん、アレクさんに躑躅の間を、ラズライトさんには蓮華の間を使用していただきます。」西館の2階に躑躅の間がある。そして、蓮華の間は3階にあった。
「オルトさんには、第三ゲートまでの通行許可書を出しますので、そこから私もしくはコランダムに連絡を取れば、こちらへの来館を許可します。」コーディはてきぱきと書類をめくりながら説明する。ラズたちはそこで見取り図(正確には見取り図という鉱石_持つ方向にある部屋を3Dで浮かべてくれるもの。)をもらう。
「こちらから出るのは朝と夕の二食ですから、それ以外は好きなようになさってください。都合で必要の無い時はご連絡ください。朝食は7時、夕食は6時30分からです。それからこれを。」コーディはそう言って、ラズたちに鍵を渡す。鍵の先には美しいが単純な作りで緑色の鉱石がはめ込まれていた。
「これが鍵です。マスターキィは私かコランダムかクロラストリティスが持っています。それと、これは図書館や施設に入る時の身分証にもなっていますので、なくさないようにお願いします。」その他に、この屋敷には召使いはいるが、よほどのことでないかぎり彼等の仕事を邪魔するようなことがあってはならない、と釘をさされた。それぞれに与えられた仕事を完遂するのがこの館のポリシーらしい。
そして、ラズたちには二人の召使いがつくことになった。
「カーネリアンです。」
「ルチルです。」
カーネリアンという女は、赤毛で後ろで一つでまとめている。この館の制服は基調が白なので、彼女の赤い髪はよく映えた。瞳は薄いアンバーだ。ルチルはカーネリアンよりやや背が低く、肩につくかつかないかの薄いクリーム色の髪に薄黄緑色の瞳を持っていた。