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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転移系

性格が悪いので異世界で魔法使いになった

作者: ひつじかい

 ズウンッと音を立てて、黒焦げになったオーガが地に倒れた。

 自分達が命がけで倒せるかどうかという怪物を一撃で葬った私の魔法を目の当たりにした騎士達は、怯えた様子で立ち竦んでいる。そんな彼等に、哀れ幼児退行した仲間の騎士達が縋って泣きじゃくっているが、それは織り込み済みの事なので責任を取る必要も取る気も無い。


 さて、地球と言う星の日本と言う国の一国民であった私が、一体何がどうなってこんな状況になったのか、順を追って説明しよう。



 あれは、夏休みのある晩の事だった。

 私は朝から友人達と共に車で出掛けたのだが、その帰り道、心霊スポットに行こうと言う話になり、一人だけの反対の言葉は聞き入れられずに連れて行かれてしまった。

 其処は廃トンネルで、過去に肝試しに来た連中の中に死者・行方不明者が出た事で有名らしい。

 本気で怖がっていたのは私だけで、友人達は彼処が心霊スポットだとは信じていなかったのだろう。

 其処で何が起こったのか詳しくは判らない。

 先ず、トンネルを照らしていた車のライトが消え、次いで、暗闇に凄まじい悲鳴と骨でも折れたかのような音が響き、最後に、私が何かに鷲掴みにされてトンネルの奥へと……いや、異世界へと引きずり込まれたのだ。尤も、これは私にとっての話であって、ある者にとっては骨でも折れたかのような痛みが最期だったかもしれないし、私がトンネル奥に引きずり込まれた後も誰かが何かに遭ったかもしれないが。


 兎に角、引きずり込まれて意識を失った私が気付いたのは、異世界のとある国のとある町の診療所で。此処が異世界だと気付いたのは、地球人にはあり得ない髪色をした人間がいたからだ。

 まあ、地球だろうが異世界だろうが、生活する為には金が要る事には変わらない。

 しかし、この国では、身元が不確かな人間が就ける職業は限られていて、奴隷か娼婦か冒険者の三択だった。


 先ず、奴隷。この国の奴隷は給料を貰えるし、貯めたお金で自分を買う事も出来るらしいけれど、奴隷をタダ働きさせる主人も決して少なくないらしい。勿論、タダ働きだけで済む筈も無い。漏れなく暴力付きである。 

 そして、娼婦は、例え好きでも無い男に抱かれる事が平気だとしても! 此処は現代日本では無いのだ。コンドームもピルも無いし、中絶には毒を使うらしい。性病に感染しても治療法など無い。

 最後は冒険者。魔物と戦うので、当然命がけ。しかも、この世界には治癒術士は存在しないし、あっと言う間に傷を治す薬なんて物も無い。

 貴女ならどれになる?

 私は冒険者を選んだ。


 さて、冒険者ギルドに登録する時に使用武器を聞かれたのだが、どれも経験が無いと答えると、試しに一通り扱ってみるようにと訓練所に連れて行かれた。

 しかし、運動音痴な為にどれも扱えず、最後に魔法を試してみるように言われた。

 職員曰く、魔法使いは数が少ないらしい。

「それでは、あの案山子に向かって悪口雑言を浴びせてください」

 耳を疑った。

「え? 今何て……?」

「案山子の悪口を言ってください」

 何でも、この世界の魔法の詠唱は悪口雑言らしい。

「案山子に当て嵌まる悪口を言った後に、『ファイヤー』と唱えてください」

「はぁ……? えっと……」

 案山子を見て考える。その頭部には、まるで幼稚園児が描いた様な歪な顔が描かれていた。

「誰が書いたのか知らないけど、変な顔ー! ファイヤー!」

 案山子は燃え尽き、ギルド職員がメソメソと泣き出した。

 訓練所の職員――冒険者ギルドと兼任――が説明してくれたが、案山子の顔を描いたのは彼女で、魔法使いの悪口雑言は、ターゲット以外にも当て嵌まる人の耳に入れば精神的ダメージを与えるらしい。

「下手をすれば自殺したりするから、気を付けてくれ」

「はぁ……」

 彼から聞いたのだが、魔法使いが少ない理由は詠唱が悪口雑言だかららしい。性格が悪いと思われてまで魔法使いになりたくない人が多いからだとか。

 しかし、悪口雑言で攻撃魔法が発動するなら、褒め言葉か愛の言葉で治癒魔法が発動しそうなものだが、そうはならないとは不思議なものだ。

 兎も角、他に選択肢も無いので私は魔法使いになったのだった。



 で、一ヶ月ほど経ったある日の事。

 とある村がオーガに襲われたとかで、領主様から私に討伐協力依頼が来たのだ。

 彼の騎士団と共に村へと到着すると、食べ残しが散乱していた。中にはまだ生きている者もいたが、到底助かるとは思えなかった。

 数人の騎士が彼等を止血し、馬車で街へと運んで行くのを尻目に、グロ耐性の無い私は吐いていた。このストレスはオーガにぶつけるしかない。

 村の中を捜すと、オーガは未だ食事中だった。

 此方に気付くと獣の様な唸り声を上げて、立ち上がった。平均身長190cmぐらいの騎士達がまるで子供に見える様な大きさだった。

「脳みそまで筋肉野郎が! 頭かち割って、ダンベル詰めてやろうか!? ウインドカッター!」

 オーガはあっさりと全身を切断された。

「わ、我々が十人でかかっても五人以上殺されるオーガが……こんなに簡単に……」

 見た目に反して弱いんだなと思っていると、騎士の誰かがそう呟いた。

「隊長! オーガスです!」

 先程のオーガの番いなのか、メスのオーガが吠えながら此方へ突進して来た。

「豚かと思ったら、オーガスかよ! 転がった方が速いんじゃないの?! ロックプレッサー!」

 避けた私は民家に突っ込んだオーガスを圧縮した。

「も、もう一体!」

 咆哮に目を遣ると、最初のオーガより巨体のオーガが大木を振り回して突進して来るのが見えた。最初のオーガは子供だったのだろうか?

 私との間に存在する民家が大木によって破壊されて行くが、大木もまた無事では済まなかった。折れた木片がオーガの目に刺さり、オーガは悲鳴を上げた。

「コントかよ! 馬鹿が無理して道具を使うからだ! ド下手くそ! フレイムバーナー!」



 こんな経緯で冒頭の状況である。

 幼児退行した騎士達は、『脳みそまで筋肉野郎』と『ド下手くそ』のどっちで傷付いたのか知らないけれど。

「じゃあ、隠れて助かった人がいないか捜しましょうか?」

「あ! そ、そうだな」


 結局、無事な村人は三名しか見付からず、街へ救援要請に来た男性一人と合わせて四名だけが助かった。一部食べられていた人達は、数日以内に亡くなっている。治癒魔法が発動しないか試してみたが、無駄だった。



 治癒魔法も罵倒で発動すると知ったのは、その二年後の事である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が面白いです。 そして治癒魔法も罵声というのは草ですね。
[良い点] 面白かったです!(〃∇〃)! [一言] 「根性なし!ヒール!」 「わ~変な顔♪ウケるーーー♪解呪♪」 「チンたら寝てンじゃねーよ!ナマケモノ♪ 働けー♪疲労回復ケアーーー♪!」 「何ーーー…
[一言] とても面白かったです! このお話の後の周囲の反応や2年後気づいたときの状況、主人公の人間関係など、もっとみてみたいなと思ったのですが、続編や連載はありませんか? よろしくお願いします!
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