木祓呂椿は溜め息を吐く
五行の陰陽師に関する5つの名門。
木の名門、木祓呂家。
火の名門、火壬夜家。
土の名門、土屋敷家。
金の名門、金剛院家。
水の名門、水宮司家。
―――――――そんな5つの名門の1つ、木祓呂家の和室の一室。壁には『兄様命!』と書かれた巻物がかけられており、和風で綺麗な箪笥や真っ白な扇子が綺麗に置かれている。そんな部屋で、1人の背の高い少女が机の上で、真剣な眼差しで札に筆で文字を書いている。
「金……剛……剣……士……。―――――――あぁ! 士の文字を間違えっちゃった……」
「うぅ……」とその背の高い少女は、机に突っ伏していた。
青みがかった黒色の髪を腰まで伸ばした、可愛いと言うよりかは綺麗な顔立ちの少女。背も高いモデル体型で、着ている服も実用的であるだけでなく、フリフリの可愛い服を着ている。目の下の泣き黒子がさらに魅力的な彼女、木祓呂椿は机に突っ伏していた。
「士の漢字を間違えてしまったから、またやり直しですー……」
椿が今やっているのは、式神作りである。木の陰陽師は式神作りに長けている。故にこうやって、式神を作る事も木の陰陽師としての職務の1つである。けれどもこの式神作りと言うのは、とても難しい作業なのである。
気を込めた筆で、絶えず手に気を込めた状況で筆順通りに書いて行かないと式神は完成しない。この式神作りとはかなり難しい物である。こればっかりは才能云々よりも、経験や勉学が物言う所なので椿は苦手なのである。
「うぅ、またやり直さなきゃです……。これで30枚です……」
椿は周りを見渡す。そこには今まで書いて来た式神の残骸が転がっていた。書き順を間違ったり、途中で筆の魔力を高め過ぎてしまったり、また手に込めてる魔力を切らしてしまったりと……まぁ、そう言った感じで出来てしまった式神になれなかった和紙の山を見て、椿は溜め息を吐いた。
作った式神がこんな出来だとまだ両親に怒られちゃう。そう思った私は、さらに気分が落ち込んでいた。
「はぅ~……。お兄ちゃん~……」
と、私は机に突っ伏したままそう口にしていた。
木祓呂椿には2人の兄が居る。1人は自分と同じくらい木の性質に恵まれた木祓呂木霊。そして……火の性質を持って生まれた故に火成家の養子となった双子の兄、火成蒼炎。けれども椿が呼んでいるのは……
「蒼炎……お兄ちゃん……」
双子の兄の方だった。自分よりも小さいけれども、自分以上に頑張っている兄。彼女はそんな双子の兄の事を尊敬していた。
(お兄ちゃん……椿の所に会いに来て欲しいです……。椿は……椿は……)
椿がそんな事を考えていると、携帯が鳴り出す。
『イラつくぜ~! イラつくぜ~!』
蒼炎の声でイラつくと言う言葉で、着信を告げる携帯。――――――そしてその着信は、携帯で唯一着信を変えて設定している人物、火成蒼炎からの着信である。着信があった事に気付いて、慌てて椿は携帯を取る。
「……! ……お、おお、お兄ちゃん!?」
慌てて携帯を開く椿。そして髪を綺麗に整えた後、ゴホンゴホンと咳をして喉を整えた後、携帯の着信を取る。
「え、えっとお兄ちゃん……?」
『おぉ? 椿か? 火成蒼炎だが……とは言っても、携帯だから当たり前だろうがな』
「う、うん。蒼炎お兄ちゃん……椿ですよ……」
兄の蒼炎の言葉を聞くだけで椿は、心の底から嬉しい気持ちになる。さっきまで式神作りに失敗して落ち込んでいたのにも関わらずである。
「お兄ちゃん、電話もそうだけどあんまりうちに来てくれないですし、会ってもくれないから寂しいです……」
『お前と会うと、自分の小ささが際立つから行きたくねぇ。双子の癖に無駄にデカくなりやがって……』
「うぅ、ごめんなさいです……。お兄ちゃん……ごめんなさいです……」
『……イラつくぜ。まぁ、良い。お前に質問が合ったんだ』
今の会話のどこに、イラつく事があったんだろう? ……けれども、お兄ちゃんを怒らせちゃったから今度会った時には、ちゃんと謝って置こう。
椿はそう思いながら、兄の言葉を待っていた。
『俺の幼馴染の陰陽師、土野鹿路って居るだろ?』
「土野さん……? うん、お兄ちゃんの知り合いだし、私も良く会っているです。この前だって、失敗した式神の束を渡したです」
失敗した式神の束は、気を込めたって式神にはならない。けれども、きちんと気を込めているし、少なくとも軽い防御くらいにはなると思って、椿は兄の知り合いである土野鹿路と言う陰陽師に式神の束を渡していた。それがどうしたと言うのだろうか?
『なるほど……。まぁ、そんな事だと思っていたがな。だからか……』
「お、お兄ちゃん……?」
『あぁ、悪い。別にお前の事を悪く言ったつもりはない。ただの確認だ』
「は、はぁ……?」
確認? 確認ってどう言う意味だろう?
椿は今の言葉の意味を考えるが、ちっともそれの真意を読み取る事は出来なかった。
『じゃあ、またな。椿。今度はもう少しゆっくり話そう』
「あっ……お兄ちゃん!」
まだ話したい事がいっぱいあるのに、と椿が言う前に電話は切れてしまった。
「今度っていつなんですか、お兄ちゃん……」
椿は膨れた顔で、1人そう言っていた。




