土野鹿路は死を覚悟する(2)
全ての生命体は生まれながらにして気と呼ばれる目には見えない物質を持っており、その気の性質は木から水の5つの中のどれか1つなのだが人によって違うし、その持っている量も違う。
僕、土野鹿路は土の性質を持つ常人には多すぎる量の気を持って生まれた。『常人よりも気が大きい』、これは普通の陰陽師にとっては一種のステータスなのだが、僕にとってはそれは有利に働かなかった。それは何故かと問われれば、僕がその大量の気をきちんと扱えないからである。あらゆる生命体には気を放出する目には見えない穴、気穴と呼ばれる物があるのだが、僕の気穴は通常の半分しかなかった。
要するに大きなタンクの中に水は大量に入っているのだけれども、その水を出すのは小さな蛇口だけ。それがこの僕、大量の気はあってもきちんと使えない、土野鹿路と言う陰陽師だった。
♢ ♢ ♢
金色の気を纏った金色の巨大蜘蛛の脚は、僕の足を貫いていた。
「がはっ!?」
蜘蛛の脚によって貫かれた僕の足から、だらだらと血が流れて行く。そして僕はすぐさま蜘蛛の脚を、気で作った土の刃で振って斬ろうとする。けれども金色の蜘蛛の脚は土の刃で斬れずにそのまま傷付かずにそびえ立っていた。
「くっ……! この硬さ、もしかして金鬼か?」
金鬼とは、金の気を持った鬼の事である。土の性質の弱点は木だから、別に金鬼は特に弱点ではない。けれども水鬼だった頃より遥かに厄介だ。
「弱点の水鬼を倒すのは簡単な依頼だったはずだったのに、いきなりその蜘蛛が金鬼になって、しかも足を傷付けられて……」
結構、大変な状況なんだけれども……。
僕の目の前で金色の蜘蛛は大きな口をあけて、僕を今にも食おうかと言う勢いで大きな鳴き声をあげながら、僕の足に刺さっているのとは別の金色の脚を振り上げる。
『シャアアアアアアアアアアアアアア!』
僕はその叫び声を聞いた瞬間、死を覚悟した。何せ、打つ手はあるだろうけれども、今の僕はそんな事を到底考えられないような状況にあったからである。
(もうダメなのかな……)
こんな僕だけれども、それなりに夢はあった。1人の陰陽師として力が欲しいと常に思っているし、もっと生きていたいと言う自然な欲求もあった。けれどもこんな蜘蛛なんかに殺されるだなんて……。
(死にたくない! 僕はまだ死にたくない!)
僕は心の底からそう思っていた。そう、本当に心の底から。
《-―――――力が欲しいか?》
と、僕の心にそんな声が聞こえて来た。僕はその質問に対して、死を覚悟して意識を手放そうとするその最中、《はい》と頭の中で返答した。




