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Angel×Devil  作者: ゆいなれい
1話 其の任務、重大につき
7/18

幕間 ~ 不安と、不満と、葛藤と(side 葵)

 天界の上位天使で、上司でもある白李様に任務を命じられ、僕は中立界にやってきた。

 そこで関わりたくもない騒動に巻き込まれ、迷惑被っていたところに、伝達役の人魂族――ヒトダマさんが現れた。

 騒ぎの原因でもあった魔族の少年――確か「くれない」だっけ?――も、どうやら今回の任務参加者らしく、彼と僕、2人で話を聞くことに。

 そしてヒトダマさんから言い渡された任務というのが、なんと!

 この中立界で、魔族と共同生活を送れ、というものだった――!!



「はい~、こちらが~お2人の拠点になる住まいです~~」

 そう言いながら、ヒトダマさんは一軒の建物を示した。

「へぇ……ここが」

 僕は目の前の建物を見上げる。

 それは小さな宿舎、という感じの二階建ての造り。

 2人で生活するには充分すぎる大きさの一軒家だった。

 外壁にはところどころ修繕された跡もあり、小奇麗に整備されている。

「元々宿屋だった建物を~改装したものだそうです~。さあ~、ひと通り~中をご案内します~~」

 ヒトダマさんは鍵を取り出して、その家の扉を開けた。

 そして僕は、先に中に入っていくヒトダマさんの後に続く。

「なんだ、案外狭そうなところだな」

 僕の後ろを歩く彼は、1人そんな事をぼやいていた。


 内装の説明を聞き終えて、僕ら3人は、一階の食卓の置いてある部屋でひと息ついた。

 朝から何も食べていないとぼやいていた紅くんに至っては、簡素な出来合い料理を懸命にほおばっている。

 ヒトダマさんが用意してくれたお茶をすすりながら、僕は先程受け取った『任務遂行に関する資料』と書かれた書類を開く。

 途中、わからないところをヒトダマさんに質問しながら目を通し、この任務に関していくつか知る事はできた。

 まず一つ――この任務は天界と魔界両界の、初の合同企画任務である事。

 どうやら提案は魔界側の代表者かららしい。

 そして、任務中に取る僕らの行動や態度が、そのままその世界の言動と取られてしまう事。

 任務中の注意事項として、武器や術の使用制限などが特に事細かに記載されていたのはそのせいか。

 昨今の両界の仲は、まあ、特に良くもなければ悪くもない。

 そんな不安定な関係が何年も続いているのだから、相手に対して行った武力行使が、相手界への宣戦布告だと解釈されてしまっても致し方ない。

 お互い、武力的衝突は避けたいのだろうという配慮には、少なからず安心できた。

 もう一つは、任務中に期限付きの『合同課題』が出される事。

 課題の内容までは書かれていなかったが――それは随時、ヒトダマさんが持ってきてくれるらしい――、合同というからには、彼と2人で協力してこなさなければならない。

 その彼――紅くんとは、今日初めて会ったばかりだけど、第一印象は正直イマイチだ。

 強制転移でここへ来た、って言うし、任務を請ける事自体知らされていない風だったのが引っかかる。

 現に今も、食べ終わった料理が足りないと、ヒトダマさんに悪態をついているだけだ。 どう見ても協力的だとは思えない。

 この任務をクリアしないと魔界への帰還許可が出ない、ってヒトダマさんから言われてたから、一応受けるのだろうけど。

(どうにも僕は、彼と合いそうな気がしないんだよね――)

 先の見えない状況に、僕は、思わずため息をついた。

「おや~? 疲れちゃいましたか~葵さん~?」

「あ、ううん……別に、そういうわけじゃないよ」



「あ~、それでは~、説明も終わりましたし~わたくしはこの辺で~~」

 そう言いながら、ヒトダマさんはふわりと席を立った。

 任務と状況を把握するのに必死で、あまり時間は気にしていなかったが、窓から見える空はすっかり赤く染まっていた。

「おー、とっとと帰れ帰れ」

 ぶっきらぼうにそう言い放った紅くんは、視線は下を向いたまま、ヒトダマさんにひらひらと手を振る。

 ようやくもらった資料に目を通し始めたようだ。

 ちゃんと読んでいるのかどうかはあやしいところだが。

「まったく~、紅さんは最初から最後まで意地悪なのです~~!」

 頬をぷう、と膨らませて不満をもらすヒトダマさんを、僕はまあまあ、となだめた。

 当の紅くんは無関心な素振りで、無言のまま、気だるそうに資料のページをめくっている。

「ま、まあいいです~。わたくしはオトナなので~、許してあげるのです~~」

 体を反らせて、得意げに偉ぶってみせる態度が少々癇に障ったが、あえて何も言わないでおいた。

 ヒトダマさんがゆっくりと出入扉を開くと、差し込んできた夕陽で、室内が空と同じ赤に染まる。

「次は~お2人への『課題』を持って~、こちらにお邪魔する事になると思いますので~~」

「とりあえずそれまではここで待機、って事だよ……ね」

 要するに、しばらく2人きりで生活をしろ、と――

 未だ腑に落ちない、という気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。

 僕の心情を察したのか、ヒトダマさんは苦笑しながらぽんぽんと僕の肩をたたく。

「まあ~大変でしょうが頑張ってください~。では~、これにて失礼します~~」

 丁寧にお辞儀をすると、短い手をひらひらと振って、ヒトダマさんは扉から出て行った。

 パタン……と、扉の閉じる音と同時に、部屋にひと時の静寂が訪れる。

 紅くんが、資料をめくる音だけがやけに響く。

 何というか……気まずい。

 自慢できる事じゃないが、僕自身、あまり人付き合いが得意な方ではない。

 そんな僕が、今しがた出会ったばかりの相手と今日からここでしばらく一緒に暮らすとか、難儀な任務なのは目に見えている。

 同じ初対面でも、他の天使と合同任務をするのとも、また違うのだ。

 相手は住む世界も、考え方も違うと言われる『魔族』なのだから――

 ……さて、これからどうするか。

 一度外に出てもいいが、時間的にそろそろ辺りが暗くなってくる頃だ。

 食材も3日分ほどは用意されていたし、出掛ける理由もない。

 あれこれ思考をめぐらせていると、後ろで軽くパン、と机を叩く音がした。

「まあー……いろいろ面倒くさそーだけど、やるっきゃねーよなー」

 閉じた資料を筒状に丸めながら、紅くんが1人つぶやく。

 そのままふい、と顔を上げると、お互いの目が合う。

 紅くんのツリ目がかった菫色の大きな瞳に、少しだけどきりとした。

「んーじゃあお前、とりあえず名乗っとけば?」

「…………相手にどうこう言う前に、先に自分から名乗りなよ」

 自分の口をついて出た言葉に、僕はハッとなる。

 紅くんの上から目線な態度に、少々カチンときてしまったようだ。

 広場でのアレもあまりいい印象じゃなかっただろう上に、更にこの対応……

 当の紅くんも、無表情でこちらを見ながら黙ったままだ。

 どうしよう……さすがに何とか弁解して取り繕っておかないと。

 そう思いながらあれこれ模索していると、それより先に、紅くんが口を開いた。

「……ふーん、お前って見かけによらず結構言うのな。さっきの広場でもそーだったけど」

「あ……いや、その……」

 抑揚のない口調に、全身の血の気が引いた。

 ああ……これから任務のパートナーとして付き合っていかないといけないのに……これは本気でやばいかも――

 僕がパニックに陥っているのをよそに、紅くんの言葉が続く。

「ま、思った事ちゃんと言ってくる態度は嫌いじゃないけどな。腹ン中で何考えてんのかわかんねーどこかの誰かよりよっぽどいいし」

 筒状になった資料を、望遠鏡のようにして覗きながらそう言った。

 その後、自分の言葉で何か思い出したのか、1人ブツブツぼやいていたが、僕の頭は、内容を聞き取る方には働いていなかった。

 ――え……あれ……? 怒ってない……?

「ん? どした??」

「……あ、い、いや、なんでも……」

 紅くんはきょとんとした顔で、僕の方を見ながら声を掛けてきた。

 意表を突かれた反応に、ぽかんと口が開いたままの僕の顔はよほどマヌケな状態だったのだろう。

 そんな羞恥心は後回しに、僕は早々に気持ちを切り替えた。

「じゃ、言いだしっぺのオレからな。さっきもあのハゲが呼んでたし、資料にもひと通りのデータ載ってたと思うけど、オレは紅。まー、成り行きとはいえ、しばらくヨロシクしてやるぞー」

 そう自己紹介した後、「ついでに言えば、魔族最強だ!」と付け加えた。

 態度のでかさは相変わらず癪に障ったが、紅くんはこういう生き物だ、と無理矢理自分に言い聞かせて納得する。

「ええっと、僕は葵。天界の任務遂行課に所属する天使です。よろしくお願いします」

 紅くんに軽く一礼して、互いの自己紹介をすませた。


 それから資料に沿って任務了承の書類を作り、専用の封筒に入れて転送する。

 ――これで本当に、後戻りはできない。

 とにかく、この不可解な任務が任務として成立したからには、精一杯やるだけだ。

 僕はよし、と気合いを入れていると、

「なあなあ、ところでお前、メシって作れる?」

 ひと通りの作業を終え、テーブルに頬杖をついて呆けていた紅くんが唐突に訊いてきた。

「え、ああ、うん、簡単なものなら……いろいろ材料も揃えてくれてたし」

「んじゃあ、悪ィんだけどさー……」

「?」

「……何か……食うモン……作ってくれねー?」

 弱々しくそう言い残して、紅くんはぐったりとテーブルに突っ伏した。

 同時に、紅くんのお腹の音が盛大に響いた。


 僕は用意されていた材料で、紅くんに簡単な料理をふるまった。

 それが思いのほか好評で、勝手に家事担当を任命されたが――まあそれはいいとしよう。

 しかし、まさかその3日分はあった材料が次の日で尽きようとは、一体誰が予想していただろうか――

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