(5)
「……では~、遅ればせながら任務内容をご報告させていただきます~」
なんとか気を持ち直して、ヒトダマさんは本題でもある任務の話に入った。
「なー、ところでさー、さっきから任務任務って、一体何の事だ? その辺全然話読めねーんだけど」
「ああ~、確かに~紅さんは補佐役様がここに強制転送されたようですからね~~」
「強制転送……?」
ああ、もしかしてそれで何も持ってないのか――
葵は、見るからに軽装な紅の格好を横目になるほどね、と思った。
「そーだ、あのヤロー! イキナリこんなとこに飛ばしやがって……着いたら周りなんもねー森の中だし、道わかんねーしハラは減るし……あーっ! 思い出したらまたハラ立ってきたーーーっ!!」
「はいは~い~、恨み言はその辺で~。任務の内容を読み上げますから~ちゃんと聞いててくださいね~~」
そう言いながら、いきり立つ紅をどうどうと抑えた。
ヒトダマさんはどこからともなく筒を出したかと思うと、その中に入っていた報告書を取り出す。
そしてオホン、と咳払いをしてから、書類に視線を落とした。
『――任務通達
当任務は【天魔交友検討議会】での決定、施行による【重大任務】である
(中略)――それにより、天魔両界から選出されし代表者各一名
天界代表者 葵
魔界代表者 紅
――以上二名は、本日より中立界での【共同生活】の任を与える』
「「…………」」
「……とまあ~、簡単に一部省略しましたが~今回の任務はこの町で行われます~。詳しい事はこちらの資料を~――」
「「はあぁ!? 共同生活ーーーっ!!??」」
葵と紅のすっとんきょうな声が見事にハモる。
そして2人は、ヒトダマさんにぐいぐいと詰め寄った。
「ひいぃ~なんですか~~!?」
「え、ちょっと何、もしかしてそれが任務……!? しかも重大って一体どういう事??」
「えぇ~っと、それはですね~……」
「おい、何でオレがそんなモンやらなきゃなんねーんだよ!? オレは魔界に帰りてーんだけど!!」
ヒトダマさんが答えを言いよどんでいた矢先に、紅の、苛立ちのこもった声が遮る。
「ああぁ~そう言われてもですね~~……」
ただ通達に来ただけのヒトダマさんにはどうしようもない事態なので、文句を言われても答えに迷ってしまう。
それに自分だって、この任務の詳細など聞かされていなかったのだから。
困惑するヒトダマさんなど気にもかけず、任務の内容に納得のいかない葵が次の質問をぶつける。
「共同生活、って事はここに住め、って事だよね!? それって何日? 何ヶ月?? もしかして何年も、とか言わないよね!!??」
「あ~……えぇ~……多分数週間くらいじゃないかと~~……」
「とっとと帰って、あんの嫌味ヅラヤローに仕返しを―― あー……そーいやオレ、まだメシ食ってねー……」
「そそそ~それは大変ですね~~」
脱力しながらぐうぅと音を立てる紅の腹に、ヒトダマさんは労いの言葉をかけた。
とはいえ、それで問答が終わったわけでもなく、
「そもそも魔族と共同生活って……そんな任務聞いた事もないだけど!?」
葵の容赦ない詰問が続く。
「あうぅぅ~~……」
「あーハラ減ったーっ! なあお前、何か食うモン持ってねーの??」
「~~…………」
「ヒトダマさん、ちょっと聞いてる!?」
「なー……任務とかどーでもいーからさー、早く魔界帰ってメシを――」
「あ~~~も~~~っ! 2人一緒に喋らないでくださ~~い~~~!!」
とうとう痺れを切らせたヒトダマさんは、2人から逃れるように高く浮かび上がった。
陽が傾きかけた町に、ヒトダマさんの怒声にしては間の抜けた声が響く。
こうして――
種族の異なる少年2人の共同生活という、異質で不可解な任務は騒がしく幕を開けた――