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Angel×Devil  作者: ゆいなれい
1話 其の任務、重大につき
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(4)

 襟首を掴んで町の路地を浮遊しながら進む1人(?)の人魂に、絞まりそうになる首を必死にかばいながら引っ張られている少年が2人。

 傍から見ると実に滑稽な光景だが、幸い人通りはなかった。

「は~い~、到着しましたよ~~」

 路地から中通りに合流した給水所の前で、その人魂はぱっと手を離した。

「も~、わたくしはずっとこちらで待っていたのに~、何で早く来てくださらないのですか~~?」

「え……でもここって、中通りですよ……ね?」

 天使の少年は不審に思い、人魂に訊ねる。

「そうですよ~! 合流地点に指定されていた~『中通りの給水所前』です~~」

「通達書には『中央通りの噴水広場前』って書いてあるんだけど……ほら」

 そう言いながら、天界で受け取っていた通達書を人魂に見せる。

「……!? ……あ、あんな騒がしい場所では~、任務の説明ができないからいいじゃないですか~! これも~、任務を円滑に行うための処置です~~!!」

 通達書を確認した人魂は、冷や汗をかきながら取り繕うように弁解した。

(覚え間違えてたのか……)

 大丈夫かなぁこの人魂族……と思いながらも、あえて口にはしなかった。

「くっそ……お前……何が到着だっ! ヒトの事……っ……引っ張りやがって首絞まるかと思っただろーがこのハゲ!!」

 掴まれていたのが首元のチョーカーなだけに、やっと喋れるようになった魔族の少年の第一声の罵声が飛ぶ。

「なっ……は、ハゲとはなんですか~! 初対面の相手に対して~、失礼にも程があります~~!!」

「あ、本当だ。毛の生えてない人魂族初めて見たかも」

「あああ、葵さんまで~何なんですか~!?」

「を、人魂族のハゲって珍しーのか?」

「うん……確か人魂族って、多かれ少なかれ頭の毛は生えてたはずだよ」

「へぇー。だとすると、お前のソレ、剃ったのか? それとも抜け落ちたのか??」

「もしかしたらまだこれから生えるのかもしれないよ?」

「も~っ、わたくしの事は放っておいてください~~! 今は任務のお話の方が大事です~~!!」

 どうやら頭髪に関してかなり気にしているのか、人魂は迫力ゼロな怒りを露わにしながら、一方的に話を強制終了させた。


 人魂はオホン、と一つ咳払いをして、2人の目の前に姿勢を正して浮く。

「さて~、気を取り直しまして~。え~っと、まず~、天使の方があおいさんで~、魔族の方がくれないさん~。間違いありませんか~~?」

 ここまで無理矢理引っ張ってきておきながら何を今更――……

内心ツッコミを入れながら、天使の少年――葵と、魔族の少年――紅は、質問にほぼ同時に頷いた。

「そして~わたくしは~、お2人の任務の伝達と監視役を任されました~、人魂族のセバスチャン=ユーリッヒ=ヴァーミリオン3世と申します~。よろしくお願いいたします~」

 そう言いながら人魂は、一礼するでもなく、得意げにそり返って自己紹介をした。

「……は? セバ……ばー……み……オン?」

 人魂の、一度聞いただけでは覚えられそうもないやたら長い名前と態度に、紅は怪訝そうな顔で繰り返す。

「セバスチャン=ユーリッヒ=ヴァーミリオン3世、ですよ~」

「あー……セバスチャン=……ウッヒッヒ?」

「ユーリッヒ、です~!」

「バー……ミアン?」

「ヴァーミリオン、です~~!!」

「あーもーっ! んなのいちいち呼んでられっかーっ!! 長ったらしーんだよその名前! もーいーじゃんお前の名前『ハゲ』で」

「!? な……っ、その呼び方は失礼にも程があります~~!!」

「だってホントの事じゃ――あたっ、いててなにすんだーっ!」

 紅の投げやりな決め方に、セバスチャンは短い両手でぽかすかと叩く。

 攻撃を片手でガードしながら、紅は尾の部分を勢いよく掴んだ。

 怯んだところを、反対の手で頭を掴み、セバスチャンの体を縦方向に引っ張って応戦する。

 うりゃうりゃ、と紅に体を引っ張られたセバスチャンの悲鳴が何とも言えず滑稽だったが、終わりそうもないやりとりに、横で見ていた葵はしょうがなく口を挟んだ。

「あのー……用件、早く済ませてほしいんだけど」

 思わず言葉に呆れと苛立ちが混じってしまう。

 その葵の声に、2人(1人と1匹?)の視線がこちらに集まる。

 セバスチャンは、紅の手が緩んだ隙をついてするりと抜け出し、いそいそと葵の方へ飛んできた。

「ああぁ~そうですね~そうですよね~~失礼しました~~」

「あっ待て、逃げんな!」

「僕はここに用があって来てるの。じゃれ合うのはその話が終わった後にしてね」

 痺れを切らせた葵の淡々とした態度に、紅はばつの悪そうな顔をする。

「別にじゃれ合いたいワケじゃねーけど……わかったよ……じゃあ、とりあえずそいつの名前、どーしとく?」

「どうするもこうするも~、わたくしの名前はセバス――」

「うーん……間とって『ヒトダマさん』は?」

 言葉を遮っての葵からの提案に、セバスチャンはぎょっとする。

「ヒトダマかぁ……安直だけどまあ、いんじゃね?」

「ちょっ、ちょちょちょちょ~っ、待ってください~~! 一体~どこの間を取ったらそ~なるんですか~~!?」

「え、だって、そっちの方が覚えやすいし呼びやすいよ? それに――」

「……それに~?」

「セバスチャンだと、何か名前負けしてる感じがするし」

「!!?? …………も~いいです~、呼びやすいように呼んでください~~……」

 葵の一言に心を折られたのか、セバスチャン改め、ヒトダマさんはへなへなと力なくへたり込んで降参した。

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