セリカ・ニュール - 1
セリカの軽い遍歴とカイトに会うまでです。
~sideとか付けなくても良い、よね?w
私は、人間が嫌いだ。
いや、嫌いという言葉だけでは済まされない程に、私は人間という存在に憎しみを抱いている。
奴らは、私の全てを奪っていった。
まだ幼かった頃の話――――私には住処や友人を失ったこと、残虐な行為を平気な顔で行う人間がただただ恐ろしく、私は運よく難を逃れた両親と同族たちの影に隠れ怯える日々を送っていた。
その恐怖が殺意へと変わったのは、両親が私の目の前で殺された時。
私の唯一の肉親で、憧れで、心の支えだった彼らの死は、私の心を壊すのには十分過ぎた。
私は両親の意志を引き継ぎ、王国内で一番大きな獣人グループ――獣人に対する差別からの解放を目指して戦うテロ組織のようなものだ――の傘下に入り、人間への憎しみを心の依り代にして、ただひたすらに組織の指示に従ってきた。
私は”血統”持ちということもあって、組織には重宝されてきた。
そして、組織内で強硬派と穏健派の対立が激しくなり、組織の分裂にも発展しかねない状況の中、強硬派である私は派閥の長から同じく血統持ちであり行動を共にすることも多かったライやダラリオと共に密命を受けた。
内容は、『とある場所に厳重に保管されているモノを持ち出せ』というものであった。
いつも暗殺や潜入などの任務を繰り返してきた私達にとってはいつもより簡単に見える任務であったが、保管されているモノへの曖昧な説明に加え貴重な血統持ちを三人で単独行動させるという前代未聞の対応に、私達は不穏な空気を感じ取っていた。
私達の不安は案の定的中し、ウトガルドでの差別的な扱いや予想だにしない不死者の再生力を乗り越えて、やっとたどり着いた目的の建物には入口を開けることさえ叶わず、全くの徒労のまま引き返すことになってしまった。
≪精霊族≫を仲間として連れてこなかった時点で、魔術関連の仕掛けの処理は全て私に任されていた。
今までもそういう場面は何度もあったし、それで対応できていたのに、今回は全く歯が立たなかったのが悔しい。
魔力の保有量だけは≪精霊族≫にも劣らず、魔力の感知にも長けている私が何も出来なかったということは、組織の中で扉の仕掛けを解けるのは私達の長くらいだろうと判断し、いち早く報告に行くことを決めた。
対立が激しくなってきている現段階では、少しの対応の遅れが命取りになるかも知れない……任務失敗を報告しなければならないのは口惜しいが、このまま何も出来ずに時間が経ってしまうことの方が問題だ。
実は諦めきれていなかった私をライが諭すようにして撤退を宣言していた――――まさにその時だった。
迸るような魔力の波紋が、私の中を通り抜けて行く。
並みの者には決して感じ取れない残りかすのようなものだったけど、私には分かった…いや、分かってしまったのだ。
雷に打たれたように硬直する私を見て眉を寄せるライとダラリオに、私は言った。
「私達じゃ太刀打ち出来ないくらいにヤバい魔術師が、近くにいるわ」
~~~~~~
強大な魔力を感じた方へと向かって辿り着いた街に、その男はいた。
左目に眼帯を巻いた黒髪の青年は、私には遠くからでもハッキリ分かるくらいの異様さを醸し出していた。
今まで感じ取ったこと無いニオイ。
あの時感じた強力な魔力と同じ色の魔力―――それなのに、今感じる魔力は並みの人間とそう大差無いことに強烈な違和感を覚える。
私が今装着しているような魔力を抑える道具を使っている様子も無いし…まさか、自分の力で抑えてるとか?
そんなこと、出来るものなの…?
「あー、あの黒髪眼帯か。 うっわ、アレは確かにヤバいわ…もう、ボクの体が『早ぉ逃げろ』言うとる」
「……」
二人もあの男の存在に気付いたようで、ライは早くも冷や汗を流しダラリオは横目でジッと男を見つめている。
「アレ、ホントに人間なんか…? さっさと対応せんとマズい事になりそうやな……」
新たに増えた問題に頭を抱えるライだが、私が気付いたのはあの男だけじゃない。
「それだけじゃない。 あの男の隣の女もかなりヤバいわね」
そこに居るのは、鮮やかな桃色の髪と目をした少女。
白い髪飾りと背中に抱えている布に巻かれた何かが目立っている。
「え、あの子か? ボクには人畜無害そうな女の子にしか見えへんな…まぁ、あの男と仲良く喋りはってる時点で警戒モンやけど」
通行人に話しかけられ、恥ずかしそうにはにかんでいる少女を見れば私も信じられない気持なのだけど、見た目と中身の性質が違うのはよくあることだ。
「…アイツ、獣人よ。 しかも、あの魔力量から見て”血統”持ちに違いないわね」
「えぇっ!? それ、ホンマなん!?…ってアカンアカン」
思わず声を上げてしまい慌てて口を噤むライと、神妙そうに目を細めるダラリオ。
「私がこういうことで間違えたことなんて無いでしょ」
「それはそうなんやけど…」
「だが彼女は立ち振る舞いが素人のそれだ。 そこまで力があるようには見えないのだが」
ライの戸惑いに補足するようにダラリオが疑問をぶつける。
「そんなの私が知るわけ無いでしょ! どうせ、あの男に良いように飼われてるとかじゃないの?」
「いや、それは無いんちゃうかなぁ…」
胸糞悪い想像が浮かび、それを吐き捨てるように言うが、ライは否定的だ。
「なんでそんなこと言えるのよ。 この国で人間と獣人が仲良くするってそういうことでしょ」
「ボクもそう思っとる…でも、あの子の顔見てみ? 奴隷が主人に向かってあんな表情するか?」
どこか憂いを帯びたようなライの視線の先の彼女は、眼帯の男と言葉を交わし表情を綻ばせ、男もそれにつられたように軽く微笑みを返す。
二人を見つめている内に、私はその姿を在りし日の自分の姿と照らし合わせ、皆と楽しげに歩く光景を幻視し、不意に目頭が熱くなる。
「なぁ…あの男に接触してみよか」
二人に気取られないように目元を拭っていると、ライから信じられない言葉が飛び出す。
「そんなの危険すぎる!! もし戦闘になったら勝てないって分かってるでしょ!?」
「大丈夫や。 あの男の様子からしてそないなことには多分ならんし、ほっといたら組織の計画に少なくない支障が出る予感するし。 それに、あの男に頼んで協力してもらえば、密命を果たせるかもしれんし。 その為にボク達は組織への報告を置いてここまで来たんやから」
「そ、それもそうだけど…」
「時間も無いし、今は藁でも魔獣の尻尾でも掴んどかなあかん。 これは隊長命令や、慎重にいくで」
基本的には上からの命令は絶対と決められている私達の組織。
私はライの言葉に渋々従い、ダラリオもまた不満そうながらも無言のままそれに続く。
派閥間での対立が深まり、予断を許さない状況なのは私にも分かる。
だが、ライの焦りはもっと別のことに対してのような気がする。
恐らくライは、私やダラリオが組織から知らされた以上のことを知っている。
私達の目的である”モノ”の正体はもちろん、それを何に使用するのかどうかまで。
それはきっと私達が任務を遂行する為には必要の無い情報なのかもしれないが、それでもどこか後ろ暗いものを感じざるを得ない。
ただ人間への憎しみを糧に機械的に行動してきた私だが、組織の動きに何も疑問を覚えないという訳では無いのだ。
まぁ、疑問に思ったところで私が何か出来るわけでは無いのだけれど。
ライや組織に対する不信感を募らせながらも、私達はあの異様な魔術師への接触の準備を開始するのだった。
そんな=そないな(関西弁)
あんな=あないな←文面にすると何かおかしいから「あんな」にしました。
関西弁…やめときゃ良かったかなぁ…まあ、異世界なのであまり気にせずお願いします。
余談ですが、PV数が6桁に到達しました。
嬉しい限りです、はい。
これからも細々と頑張ります。




