高まる疑心
凄く短めです。
「なあ、もうちょっと急いだ方が良くないか? そろそろ≪炎滝障壁≫が切れる頃なんだけど……」
「心配いらん、ここら辺はもう”安全域”や。 その代わりに色んな罠が仕掛けてあるから、慎重に進んでるねん」
「……なにそれ、聞いてないぞ」
周りを見渡せば確かに、あちらこちらに地面に穴が開いてたり矢が転がったりしている。
「いやぁ、別に隠そうって気は無かってんけど前に通った場所やし、後ろに付いてきてくれれば大丈夫かと思ってな?」
「おいおい……いくら大丈夫でもそういうのは事前に教えてくれないと困るんだが」
半眼でダラリオとセリカの方にも目を向けるが、二人とも気まずそうに目を逸らす。
「い、いや、本当は既死者を振り切ったらすぐ言おう思ってたんやけど、何故か前よりも既死者の数が桁違いやったし、旦那の魔術が凄すぎて今の今まですっかり言うの忘れてたんよ……堪忍や」
「頼むよ、まったく……」
おれ達は燃え盛る炎の壁を背に、どうしてか既死者が近づいてこなくなるという”安全域”に到達し、その中でも一際目立つ建造物に向かっている。
「それにしても、前回より既死者の数が多かったってのが気になるなぁ」
「そう、そこが予想外やったんや! 前回はボク達三人でも楽々切り抜けられたのに、今回は旦那達の助けが無いとヤバかったわ」
「だからって命に関わる情報を伝え忘れるのはどうかと思うけどなー」
「うぐ……ま、まあそれはさておいてや、襲ってくる既死者の数が増えたのは強い旦那が来たからと違う?」
「強いってそんな曖昧な――――――いやでも……なあ、ルル?」
ライのお粗末な話題転換だったが、その中に引っかかるものを感じルルに尋ねてみることにした。
「ほえ? どうしたの、カイ?」
考え事でもしてたのか、いきなり呼びかけられて何とも可愛らしい声がルルの口から漏れる。
そんなルルに顔を近づけ、少しだけ声量を落として尋ねる。
「迷宮に来たときから、何か変な感じがしないか?」
おれの質問にルルは目を少しだけ見開き、首を縦にコクンと動かすことで肯定する。
「うん、するよ。 何だか地面に足を引っ張られてるみたいな感じ。 カイもなの?」
「ああ……やっぱりか」
他の三人にも同じ質問をしたかったが、彼らがこの迷宮についてどこまで知っているのかが分からない現状では、あまり怪しまれるようなことはしたく無い。
おれは、既死者とこの迷宮に関して、既にある一つの仮定を考えついているのだが……
それは余りにもぶっ飛んだ思い付きで、その仮定を実現させるには決定的に足りない要素もある。
それでも拭えない嫌な予感を抱きながらも、とりあえず言えるのは――――――
「――――――出来るだけ急いだ方が良いな」
「え? どうして?」
「んー、何となくかな」
「もう、カイってば……スレールを出てからそればっかり」
「あはは、ごめんな。 はっきりとした事が分からないと自信が持てなくてさ」
「むぅ……分かったら、ちゃんと教えてね?」
「ああ、必ず」
ルルは満足したように頷くと、元の位置関係に戻った。
こそこそと会話していたおれ達にライが一瞬だけ眉をひそめた見ていたが、何事も無かったかのように歩き出した。
他の二人も先程に目を逸らした状態のまま、無言でライに付いていく。
やれやれ、この先には一体何が待ち受けているのやら……
高まる不安と、実はそれと同じくらいに高まっている好奇心を抱えながら、やっとたどり着いた目的の場所である、本殿とも言うべき荘厳な建物をルルと共に見上げるのだった。




