グリトニル迷宮 外門
活動報告で遊んできましたw
”特待生”も読まれてる方は、登場人物たちがメタな会話をしてるので宜しければチラッと見て行ってくれれば嬉しいです。
日も上らない内からからウトガルトを出発したおれ達は、相変わらず常人には不可能であろう速さで目的の場所へと足を運んでいた。
おれはまだ眠たげにしているルルの手を引きながらも、突き刺さるような視線にさらされ続けている。
原因はもちろんセリカである。
さすがに、「昨日までは無視され続けてたし、一歩前進だな!」と言えるほどの精神及び嗜好は持ち合わせていない。
他の獣人との間にも、昨日までには無かった微妙に気まずい空気が流れている。
元々は好奇心で協力を引き受けたんだし、あんなこと言うんじゃなかった……でも、猫耳は男のロマンだよなぁ……なんて今さら意味の無いことを考えていると、周りの植生が森から草原のようなものに変わっていく。
さらに足を進めていくと、植物が全く見られない不毛地帯へと変化し、人工物と分かるガレキがちらほらと見られるようになってきた。
「この辺りはもうグリトニル迷宮やから、旦那達も注意しといてな」
「ああ、分かってるよ」
「うん」
ライに言われるまでも無く、既に異様な空気が周囲を覆っているのを肌で感じている。
急激な植生の変化に、虫一匹さえ見られない光景はまるでここ一帯の時が止まっているかのようだ。
それに加えて、先程から地面に足が引っ張られているような妙な感覚がするのだが、これも迷宮の影響なのだろうか……
不安げに服の裾を掴んでくるルルを宥めながら歩いていくと、こちらに向かってくる何体もの”何か”がおれの警戒域まで近づいてきたのを感じる。
「来るわよ。 戦闘準備」
ほぼ同時にセリカも気付いたらしく、冷静な声色で背中に括ってある弓を手に取る。
「いいか、ルル。 既死者はそれを動かしてる術者の魔力があれば、いくらでも再生して復活するんだ。 つっても術者本体は見当たらないし、ここの既死者は無限に再生するらしいから、再生を少しでも遅らせる為に出来るだけ頭を潰してくれ」
「う、うん……」
「まあ、出来ればで良いんだ。 とりあえず戦闘不能にしてくれればそれで良いから」
「が、頑張ってみる」
緊張気味のルルに、前回みたいなことにならないように気を付けなきゃな、と決意する。
幸い、仲間の獣人達は皆熟練で既死者との戦闘経験もあるので、主な立ち回りは彼らに任せて今回はルルのフォローに集中することにする。
そこまで思考が及んだ所で、ようやく20体ほどの既死者達が姿を現す。
散々偉そうにルルにアドバイスしたのだが、実際に既死者を見るのはこれが初めてだ。
おれはてっきりホラー映画に出てきそうな腐りかけで緑色なゾンビをイメージしていたのだが、青白い顔と焦点の合っていないような目つき以外は人間とほぼ変わらない姿で、大層なことに壊れかけの鎧と武器まで装備している者までいる。
それでも、そのボロボロの装備と微妙にぎこちない歩き方は、彼らを既死者として見るには十分な要素だった。
「それじゃあ――――――行くでっ!!」
ライが掛け声と共にその姿がブレる程の急加速で集団に突っ込み、一番手前の二体の既死者の頭を吹き飛ばす。
その両手には高速回転するトンファーが握られていて、既死者達がその二つの凶器に触れた瞬間、その部位だけが消えるようにはじきとばされていく。
それに続いたのはダラリオと、意外にも早く動き出したルルだ。
ダラリオは片手で巨大なハルバードを振り回し、斬撃の渦に既死者達を巻き込んでいく。
ルルも動きは固いものの、体つきに見合わない巨大鎚を振り上げ既死者の頭に叩き下ろすと同時に、爆炎がその既死者を包む。
次々と灰になっていく既死者と自らの炎に照らされるルルの勇ましい姿を見て、自分は無用な心配をしていたな……と安心するような、ルルの成長が早くて寂しいような気持ちになる。
そうして2分と掛からず五体満足で立っている既死者はいなくなったものの、ズルズルぐちゃぐちゃと不快な音を立てて再生が始まっている。
「もう囲まれてるな……」
「そんなこと分かってる。 早く行くわよ」
「はい……」
前線の三人が既死者の相手をしている間に≪広域知覚≫を使って敵の数を確認したら、かなりの数の既死者がおれ達を包囲するように近づいてきているのが分かった。
が、それもセリカにはとっくに分かっていたようで、他の仲間に声を掛けてすぐに行ってしまった。
知覚魔術を使ったのは、セリカのところまで既死者が来た時の為の護衛のついでだったのだが、セリカがいれば使う必要も無かったし護衛も要らなさそうだな……と苦笑して、ルルの健闘を讃えながら急いで目的の建物がある場所へと向かうのだった。
~~~~~~
迫りくる既死者を退けながらも走り続け、形の残る建造物がちらほらと見えてきた。
「≪爆≫」
人差し指を既死者の額に押し付け言葉を唱えると、鈍い爆発音と共に既死者の首から上が焼失し、膝から崩れ落ちる。
おれ達の突破作戦は苦戦を強いられている。
何度倒しても減らないどころか増え続ける敵の数に、無尽蔵の体力を持つ既死者のしつこい追い回しによって、こちら側にも少し疲れが見え始めている。
最初の突撃からの自然な流れで、前線の突破をライ、ダラリオ、ルルの三人が担当して、後ろの既死者の足止めをおれとセリカが担当している。
「下がって!!」
爆発音と喧騒の中で凛と響く声に無意識に反応し大きく引いた瞬間、連続的な爆発音が鳴り響き、今までおれの居た辺りが炎に包まれる。
既死者だけで無くおれにも容赦ない攻撃に冷や汗を流しながら再び後続の既死者をけん制しようとするが、セリカの「邪魔!!」という一言で再び一歩下がる。
おれの斜め後ろに位置しているセリカは弓を地面に水平に構え、三本の矢を一気につがえて放つ。
風切り音と共に勢いよく放たれたそれらは、既死者達が固まっている地点に着弾し、激しい爆発が起きる。
おれを巻き込みかねないえげつないやり方だが、これで一息つけるのは確かなので一応感謝の言葉を掛けておく。
「ありがとう。 助かったよ、セリカ」
「べ、別にアンタの為にやったんじゃないわよ! あと、軽々しく名前呼ばないでって言ったでしょ」
にべも無いセリカの態度に、思わずため息をつく。
本来ならセリカは爆発の魔術は使えないのだが、特殊な魔術陣を彫り込んだ矢じりに魔力を送ることでそれを可能にしているみたいだ。
ふうっ、と緊張していた体を少しほぐした瞬間、体が閃光に包まれ、この日一番の爆発音が鼓膜を震わす。
何事かとセリカと共に前線の方へ振り向くと、爆心地の中心に息を切らして佇むルルの姿が。
なんか、見たことある景色だな……
「セリカ、旦那! ”安全域”まで後ちょっとやさかい、このまま突っ走るで!」
アハハハ、と乾いた笑いを漏らしていると、ライから急かす様な声が掛けられ我に返る。
どうやら進行方向にいた既死者はルルが吹き飛ばしたのが最後だったようだ。
もはや立派な遺跡と呼べるまでに古代の建造物が立ち並ぶ道を五人で走り抜ける。
しかし、獣人の尋常でないスピードにも、筋肉のタガがはずれた既死者は難なく付いてくる。
奴らの再生力を鑑みて、既死者達が近づいて来れない”安全域”とやらに到達する前に確実にもう一度接触されるだろうと予測する。
「という訳で、置き土産だ」
足を止めて後ろを振り向き、今まで節約していた魔力を使うことにする。
「≪炎滝障壁≫」
既死者にしたのと同じように、人差し指で地面にそっと触れた瞬間、激しい熱波と共に目の前に燃え盛る炎の壁が形成される。
高さは3m程だが、横方向にこちらを囲うように炎を伸ばしたので、魔術が持続する30分間は既死者も近づけないだろう。
何故か予定よりも規模が少しだけ小さくなってしまった気がするが、まあ些細なことだな。
再び前に振り向くと、四人が唖然とした表情で揺らめく炎の壁を見つめている。
「なあ、カイト……これだけの事が出来るならお前だけでも既死者を突破できただろ」
「まあそうなんだけど、出来るだけ魔力は温存しときたいからさ。 ほら、さっさと行こうぜ」
「カイ、やっぱり凄い……」
1人分のキラキラした視線と三人分の微妙な視線を受けながら、おれは目的の建物へと足を進めるのだった。
魔術陣の説明はまた追々。
”特待生”の魔術陣とはまた少し違います。




