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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第2章 グリトニル迷宮 潜入編
40/50

報酬

「それにしても旦那、あんなに丁寧な言葉遣いもできるんやね」


「まあ、ずっと目上の人と生活してたからな……ライ、お前今ちょっと馬鹿にしてなかったか?」


「そ、そそんな訳無いやろ」


「なんでそうわざとらしくどもる……」


「ねぇ、カイ」



ローブの裾を引っ張られ、ルルの方に振り返る。



「ん、どした?」


「どうして宿をもう決めたなんて嘘ついたの?」


「ああ、そのことか。 あの受付の男がなんか怪しかったんだ」


「え、そうなの? 私は普通の人に見えたけど」


「うーん、それにしては態度が慇懃過ぎだったような。 それに、アイツは多分スレールの噂を知ってたっぽいし」


「それじゃ、私達のことがばれてたってこと?」


「んー、多分な」


「多分……」



あまり確信の無いおれの台詞に、ルルは半眼でこちらを睨む。



「まあ、こっちは獣人を四人も匿ってる状況やし、警戒するに越したことは無いと思うで?」


「……うん、そうだね」



予想外のライからのフォローで、ルルも一応は納得したみたいだ。


その後こちらにウインクしながら親指を立てていなければ、ライも普通に良い奴なんだけどな……



しばらく雑談と街の人からの情報収集をして、石壁沿いにある小さな宿を見つけた。


本当は五人一緒の部屋の方が安全だったのだが、大部屋が無くて獣人組、おれとルルに分かれて泊まることになった。




「セリカ」


少しダメ元で呼んでみる。


「……何」


やった! 返事してくれたぞ!



「尾行が付いて来てたろ? まだその辺にいるか?」


「っ!……いないわ。 何故か途中で諦めたみたい」


「そっか、そりゃ良かった」


「……どうして分かったの? ライでさえ気づいてなかったのに」


「実はセリカ達に尾行された時からちょっと警戒域を広げてるんだ。 さっきは尾行してた奴らに手を振ってみたんだが、おとなしく引いてくれて良かったよ」


「なっ……! 手を振るってアンタ、頭おかしいんじゃないの!?」


「まあまあ、結果オーライということで」


「おーらい……? はぁ、やること成すこと意味不明……アンタには付き合ってらんないわ」



セリカはそう言うとスタスタと歩いて行ってしまった。


何だかやるせない気分だが、会話が成立したから一歩前進だな。






本当は観光でもしたかったがライに外出を控えるように言われたので、ルルと部屋でぐうたらしていた。


久しぶりに角のマッサージが出来たし、これはこれで満足だ。




日も落ちた頃、おれとルルは獣人組の部屋に行って食事を共にした。


セリカは相変わらず嫌そうな顔をしていたが。





「旦那にルルの嬢さん。 最終確認なんやけど、本当に迷宮の中までついてきてくれるんやな?」


「まだそんなこと聞くのかよ? ここまでワクワクさせといて付いていかない訳にはいかないだろ。 な、ルル?」


「うん♪」



ルルはダラリオの頭を撫でまわしてご満悦の様子。



くそ、ルルの奴……おれだって触りたいのに!



「そおか、ホンマにありがとうな。 でも、まだ報酬がまだ決まってないんやけど、それでええんか?」


「んー、そうだな……」



ライの言葉を聞きながら、注目するのは彼の耳。



あれはとんがってて微妙だな。 なんか触ると痛そう。



それに、ライにもダラリオにも言えることだが、大の男同士で撫であう画なんて想像にもしたくないんだよね……。



残る希望はセリカだが、彼女に指一本でも触れようものなら体中に矢を生やすことになるだろうし――――――



――――――あ、ひらめいた。



「決まったぞ、報酬」


「ホンマか? 叶えられるものなら善処するで」


「いや、頑張る必要は無いんだ。 それと、報酬はライ達の目的を達成してからで良いよ」


「……それで、その報酬って何なんや?」



少しだけ緊張した空気に包まれる中、おれは自分から一番遠い位置にいる人物へと体を向ける。



「……な、なによ」



一斉に注目を浴びて思わず後ずさるセリカに向けて『ズビシッ』という効果音と共に指をさし、宣言する。



「報酬はセリカの頭を撫でる、これで決まりだっ!!」




一瞬の静寂。



獣人4人は同じように口をポカンと開けて呆けている。



「「「は、はぁぁぁぁぁああああああ!?」」」


「うわぁ、いいねそれ!」




3人分の絶叫と1人分の小さな賛同が起こる。



「そ、そんだけでええんか……?」


「そんだけって何よっ!! 無理、ゼッタイに無理!! そんなことされるくらいなら既死者アンデッドに食われた方がまだマシよ!!」


「そこまで言うか……ほら、これだけ無理難題みたいだし、報酬としては文句無しだろ?」


「カイ、何だか可哀想……」



垂れ耳を逆立たせ、顔を真っ赤にして後ずさるセリカに、憐みの視線をこちらに向けるルル。


呆れた顔をする残り二人の獣人に、さすがにおれの精神もすり減ってきた。



というかダラリオ、少しは喋ったらどうだ……?




「まあ、カイトが良いならそれで良いんじゃないか?」


おお、そう思った矢先に喋ったぞ。


空気の読める良い奴だ。


「はあ!? 私の意志はどうなるのよ!?」


「お前が一時の羞恥に耐えれば良いだけだ……この際はっきり言うが、おれ達はセリカの魔力を頼ってここまで来てたんだ。 少しくらい我慢してくれても良いだろ?」


「うぐ……!」


ダラリオの思いがけない厳しい口調に、セリカは口をつぐんでしまう。



「もう、分かったわよ!! 勝手にすれば良いじゃない……アンタ、覚えときなさいよ!!」



セリカはおれに殺気めいた視線を送ると、自分の布団にくるまってしまう。





な、なんでこんなことに……


おれは早くも先程の発言を後悔し始めていた。




「セリカの承諾もあったことやし、これで契約成立やな」


「あ、ああ……」


「まあ、とりあえずは目的を達成せな。 という訳で、明日に備えて今日はもう解散しよか」


「ああ、そうだな。 ルル、行くぞ」


「え、もうちょっとだけもふもふ」


「ダメだ。 部屋に戻るぞ。 じゃあ皆、おやすみ」


「うぅ、おやすみ……」




名残惜しそうなルルと簀巻きになったセリカを後目に、罪悪感をつのらせながら部屋を後にした。

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