最悪な目覚め
心地良い鳥のさえずりによって、カイトは覚醒した。
カイトは見知らぬ森の中で体を起こす。
「……どこだここ。ていうかおれ死んだんじゃなかったっけ――――――ん?」
そこでカイトは違和感を感じて顔をしかめる。
声がまるで女のように高くなっているのだ。
「あー、あー。なんだこの声……?」
と言って喉に手を当てようとして、目を剥く。
喉仏が無い、どころではない。
勢い良く立ち上がり、体全体を確認する。
「……小さくなってる」
カイトは、清和井海人として16年の人生を歩んできたはずだ。それなのに、自分の体として動いてるのはおよそ3,4歳くらいの子供のような体である。
「おいおい、どうなってんだコレ……シャレになんねえぞ」
そう呟きながらも、オーバーヒートしかけた頭をクールダウンさせようとする。
まずは現状確認だ。
辺りを見回してみる。
一見何とも無い森に見えた……が、足元に生えた花はおろか葉っぱまで真っ青な植物を発見し、認識を改めた。
よく見てみれば、普通に見えた他の木々も、それぞれに有り得ない外見的特長を兼ね備えていた。
(これは、まさか……いや、確実にそうなんだろうな、これは)
つまるところ、ここは正真正銘の異世界であり、最初の仮説が当たっていたことになる。
意識を失う前に感じた筋肉が縮むようなあの痛みは、本当にカイトが縮んでいく時の痛みだったのだ。
到底信じられるようなものではないが、自分の体と周りに生い茂る奇妙な植物を見れば、とりあえず信じるしかないだろう。
まさに夢が現実となった形である。
("彼女"の言っていた言葉が本当なら、俺は英雄としてこの地にやって来たってことだよな?それにしては待遇が悪いような……あれ?ってことは"彼女"も実在してるってことなのか!?)
そこまでの考えに至った瞬間、カイトは彼女の実在の可能性への驚きと安堵、加えて焦燥の思いに囚われていた。
方向の見当もつけず、カイトは動き出していた。
会ったのが夢の中だけとはいえ、自分に助けを求めた人が待っているのだ。
意味のないことと分かっていても、とりあえず走り出さない訳にはいかなかった。
……小さな体の割に、めちゃくちゃ速かった。
小さくなる前よりも速いかもしれない、と自分で自分に呆れながらもがむしゃらに走っていると、
横から急に何かが飛び出してきて、カイトは避けきれずに思い切りぶつかった。
大きな何かに弾き飛ばされ、カイトは呻きながら立ち上がる。
「いてて、いきなりな、ん、だ……?」
そこには青と黒の縞模様をした、トラと呼ぶには余りにも大きな獣が、獰猛な目つきでカイトを見ているのだった。




