襲撃
新章突入と共に、伏線シリーズですw
今回は”二人目”と”三人目”が登場します。
ルルの登場シーンの時も書きましたが、これが分かるのは物語の終盤になるかと。
「うーむ……」
「どうしたの、カイ?」
「多分、後をつけられてる」
「……ホントに?」
「ああ、恐らくスレールの町からずっとだな……かなりの手練れかも」
おれ達は現在、街道を通ってコモル自治区で最大の規模を誇る街に向かっている。
スレールを出る前から何となくは気付いていたが、しばらく歩き続けても確かな気配を掴むことが出来なかった。
今もほとんど気配を感じられず、果たして本当につけられているかも不鮮明だ。
10年以上に渡る修行の成果で、意識を研ぎ澄ませば半径100m程なら正確に探知できる自信があるので、相手が気配を隠すのが相当上手いのか知覚範囲よりも遠いかのどちらかだろう。
今歩いているのはおれ達がティボレを討伐したのとは別の街道だが、黄色い杉林のような木々に阻まれ、視界は良好とは言えない。
「……ホントにつけられてるの? わたしは何も感じないよ?」
キョロキョロと辺りを見回すルル。
「んー、多分敵意は無いと思うんだけど……なーんか見られてる気がするんだよなぁ」
この感じに殺気が混じっていればすぐに気付いたと思うんだが、それにしては感覚が弱すぎる。
勘違いかもしれないレベルである。
「ま、考えるより動いてみよう」
右腕を突き出し、手のひらを下に向け、そこに魔力を集中させる。
「≪広域知覚≫」
その言葉と共に、手のひらから渦巻く魔力が一滴の光の雫となってこぼれ、地面に落ちた瞬間、光が波紋のように広がっていく。
「うわぁ……!」
その幻想的な光景にルルが感嘆の声を上げる。
広がっていく魔力の波を通して、あらゆる存在を知覚していく。
植物や魔獣の気配を読み取る中、異質な気配を察知した。
(約200m先、気配は3つか……)
どうやら後者の読みが当たっていたようだ。
どうやっておれ達をつけていたのかは不明だが。
そして、その3つの気配には魔力の流れをほとんど感じ取れないことで、気配を察知できなかったことにも納得した。
「問題はここからだな……ルル、ちょっと下がってろ」
「え、まさかいたの!?」
驚くルルを後目にして、近づいてくる気配に警戒する。
まあ、あの光の波紋を見ればさすがに自分達が気付かれたと分かるだろう。
そして現れたのは、灰色のローブを纏った三つの影。
三人とも背格好がバラバラで、一番小柄なのが弓を、一番大柄なのが斧頭が以上に大きいハルバードを背に抱えている。
その表情は、ローブに付けられたフードのせいで見ることは出来ない。
「……で? アンタ等は一体何者だ?」
「「「…………」」」
無言の返答。
不安げなルルを背に一歩前に出た瞬間―――――それまでに全く感じなかった殺気が突き刺さり、おれは反射的に剣を抜こうとする。
だが、その前にこちらへと到達したのは、武器を装備していなかった一人だ。
想像以上に速い攻撃。
右腕を振り上げ、顔面に迫る拳をのけ反ることでギリギリかわす。
ブゥンッという風切り音に加えて、その手に握られている回転する物体を視認した。
(トンファーかっ!!)
のけ反る勢いを利用し、抜刀ざまに切りつけたが、相手は冷静に後ろに飛びずさる。
(なんだ……?)
相手の動きに違和感を感じたが、すぐに目に飛び込んできた何本もの矢を見て、考える余裕が無くなる。
直撃コースの3本を、2本は剣で叩き落とし1本は剣の柄ではじき飛ばす。
他の矢は体の位置を変えることで器用にかわす。
「なッ…!」
小柄な影から驚愕の声が上がったが、今は反応してる場合じゃない!
剣の持ち手の死角になる右側から、巨大なハルバードが迫ってきている。
後ろには先程のトンファー使いが控えてるのも見えた。
くそっ、魔術を使うしか……でもそれだと街道がメチャクチャになりそうだな……。
スレールの行商人達に心の中で頭を下げながら魔術を使おうとした時――――――
「カイッ、しゃがんでッ!!」
その声に咄嗟に反応し、膝を曲げる。
ガジャアァァンッッ!!
と凄まじい衝突音が響き渡り、大柄な影が吹き飛んだ。
「……助かったよ、ルル」
「えへへ、カイの役に立てて嬉しいな」
そう言ってはにかむルルだが、あの重い一撃を跳ね返す膂力は凄まじいの一言だ。
「おいおい、冗談だろ……」
思わずといった様子で声を漏らしたのは何とか体制を立て直したハルバード使いだが、自分がこの可憐な少女に弾き飛ばされたことが信じられないようだ。
だが、それでも怯まず弓をつがえる小柄な影とハルバードを構える大柄な影だったが、それを手で制したのは意外にももう一つの影だった。
「セリカ、ダラリオ、ここまでや」
トンファー使いが他の二人に呼びかけると、ハルバード使いはすぐに武器をしまい、一方弓使いの方は渋々といった様子で武器をたたんだ。
そして声を掛けた本人も自らのトンファーを納めた。
「すまへんなぁ、いきなり攻撃してもうて」
そしておれ達の方へ向き直り、フードを脱ぐ。
線のような糸目に尖った鼻、どこかニヒルな微笑を口元に湛えている。
道化のような印象を受けるその顔立ちよりも、おれ達を驚愕させたのは――――――
小麦色の髪の上にピョコンと立っている、二本の耳。
「あんた、”狐人族”なのか?」
「ご名答! さすがはカイトの旦那や、よぉ物をお知りで」
一方的に名前を知られていることにムッとしたが、なぜか関西弁風な口調にペースを乱されている。
「あぁ、そう言えばコッチの自己紹介がまだやったわ! ボクはライクーン・シモーニア。ご存知の通り、”狐人族”ですわ。 以後よろしく頼んます。 ほら、二人もちゃんと自己紹介しぃや?」
彼に促され、二人も躊躇いながらフードを外す。
「な……!!」
その容姿をみて、さらに驚愕する。
2mはあるだろう大柄なハルバード使いの彼は、パーマがかった赤茶の髪と髭で丸い輪郭が覆われ、太い眉毛とくりくりとした目がどこか愛嬌ある顔立ちである。
そして、彼の頭の上にも髪と同じ色の丸くて控えめな耳が生えている。
「俺はダラリオ・スマーキンス。 ”熊人族”だ」
短めの紹介の後、一歩後退する。
……巨体の割に、案外律儀な奴かもしれない。
対して、小柄な―――といってもルルよりは背が高いが―――弓使いの彼女は、銀灰色の真ん丸な瞳を持ち、その奥には縦長の瞳孔が覗いている。 線の通った鼻に引き締められた口元を見れば、可愛いと言うよりは凛とした印象を相手に与えるだろう……その整った眉が不機嫌そうに顰められていなければ。
そして、瞳と同じ色に輝く髪の上、というよりもこめかみの上あたりには、髪とは違う真っ白な耳が横に向かって伸びている。
さらに、彼女は髪型も変わっていた。
耳の下の部分の髪だけが腰辺りまで延ばされ、後ろはバッサリと短く切られている。
まあ、とても似合っていたが。
「……セリカ・ニュール。 ”猫人族”よ」
そう言って顔を逸らしたまま、微動だにしない。
……どうやら、彼女はあまり友好的ではないらしい。
「アンタ達の素性は分かったけどさ。 まず、どうしていきなり襲いかかってきたんだ?」
至極最もなはずの俺の問いかけに、ライクーンは「いやぁ……」と照れたように頭を掻く。
「旦那たちの噂を聞いて、ぜひ協力して欲しいことがあったんやけど……ほら、噂って当てにならんもんやろ?」
「……んで、おれ達を試したってことかよ」
戦闘中の殺気の引きが早すぎたから違和感を感じていたが、本当に殺す気が無かったなら納得だ。
理解はした、が………。
「過去に色々あってさぁ、そうやって誰かに試されたりすんの大っ嫌いなんだよなぁ……」
抑えていた膨大な魔力を滾らせると、獣人三人に加え、ルルまで顔が引きつる。
「か、堪忍や、旦那!!ボク達だって本当はこないなことしたくなかったんやけど、失敗できん事情があって、どうしても慎重にならなあかんかったんや!!」
怯えたように言うライクーンを見て、ため息をつきながらも一先ず魔力を抑える。
「ふいーっ」と額の汗をぬぐう仕草をするライクーンにイラッとしたが、とりあえず聞くべきことを先に聞こうか……
「それで、おれ達に何を協力して欲しいんだ?」
その質問に、ライクーンの細い目から覗く金の瞳が鋭く光る。
そして一呼吸開けて、彼は口を開く。
「旦那……ボク達と一緒に”迷宮”を攻略してくれへんか?」
0章を読んだ方には今回も相変わらずのワンパターンと思われてしまったかもしれませんね……もっと新しい展開を模索していく予定ですので、ご容赦をw
ハルバード(Halberd 英)…日本語表記は「斧槍」。 中世ヨーロッパで主に使用された武器であり、槍の穂先の所に斧をくっつけたような形状をしている。 その形状のおかげで多彩な使い方が可能だが、重量と相まって中々扱いが難しいと言われる。 ダラリオのハルバードは斧部分が異常に大きく、もはや斧に槍の穂先を足したような状態である。
トンファー…沖縄の古武術に伝わる武器の一つ。50㎝程の棒の一方の先端近くに握り部分が備え付けられている。 柄を相手にぶつけたり棒を回転させながら突っ込んだりする。
原始的な武器にしては汎用性が高く、未だ護身用に技術を身に付ける人も多いとか少ないとか。




