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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第1章 始まりの冒険
33/50

事件の真相

読んでくださる方が少しずつ増えていて、嬉しい限りです。


これからも細々とがんばります……。

シヴィルに入ると、昨日の宴にはいなかった冒険者たちに声をかけられた。


最初にここに来たとき知り合った人たちだ。


依頼を終えて今朝方帰ってきたそうだ。



彼らはおれ達への賞賛と昨日参加できなかったことを残念そうに話して、疲れた様子でシヴィルを出て行った。



この町にも大分馴染めている気がする。



眼帯のせいで初対面の人には怖がられたりすることが多いけど、少なくともこの町の冒険者たちとは仲良くなれた。


おれ達の噂が広まったようで、町を歩いている人たちに声を掛けられたりもした。



何人かは何故かおれの顔をじっと見ていたが、敵意は無かったから大丈夫だろう。





カウンターに向かうと、いつものようにアニエスが座っている。



……訂正する。


アニエスはいつもとは違ってカウンターにうつ伏せになってうーうー唸っている。



「…おーい、大丈夫か?」



声を掛けると、ガバッという効果音と共に勢いよく顔を上げた。


額にうつ伏せをしていた跡が残っていて吹き出しそうになる。



「やっと来たわね!待ってたんだから!」


「悪い悪い。それより、調子悪そうだけど大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないわよ!飲み過ぎで頭はクラクラするし寝不足で死んじゃいそうよ!っていうかあなた私より飲んでたくせに何でそんなに元気なの!?」


まくし立てるように言うアニエスに少し気圧される。



「さ、さあ。こういう体質なんだよ。そんなにしんどいなら他の人に替わってもらえば良かったのに」


「できたらやってるわよ!でも、昨日カイト君から依頼完了の証明を渡されてたから私が責任持って依頼完了の手続きしなきゃならないのよ!」


「あー、つまりおれのせいってことか……ごめん」


「…べ、別にカイト君のせいじゃないわよ。私が昨日手続きしなかったのが悪いんだし。……それに、昨日サボったの他の職員にばれちゃったし」



だんだんと声が小さくなっていったアニエス。



「結局、アニエスがサボったのが悪い」


ルルの止めの一言で撃沈されたアニエスが再び声を掛ける前のポーズに戻った。



アニエスは思ってたより子供っぽい性格のようだ。



ルルは何だか満足そうな表情をしている。



…ルルって………いや、これ以上考えるのはよそう。



とりあえずは手続きだ。



「あのー、アニエス?そろそろ手続きを完了させたいんだけど……」


「……そうね、早く終わらせましょう」


アニエスはなんとか回復したようだが、目は死んだ魚のよう。


…ちょっと不安なんだが。



「カイト君達が持って帰ってきたのはティボレの胚玉…つまり核に当たる部位ね。……これ、魔術結晶に近いもので取り出すのが凄く難しいらしいんだけど、よく取れたわね」


「ああ、何回か取り出したことあるからな。そう難しくは無いぞ?」


アニエスが絶句する。


「それ……つまりティボレを何回も倒したことがあるってこと?」


「まあな。それがどうか…し、た…」


アニエスが口をあんぐりと開けたまま固まっていた。



……そういえばティボレは高ランク魔獣だったな。



”魔獣の森”を1日歩き回ればそのくらいの魔獣なら必ず遭遇してたからな。


っていうかそんな所に10歳にもならない内から一人で放り出すとか……師匠はやっぱり鬼畜だった。




「冗談でしょ……成人したばかりの新米冒険者が星7クラスを何回も……」

「師匠め……何が『この位出来なきゃこの世界で生きていけない』だ……人外レベルに跳びぬけてんじゃねーか…!」


自分の世界に入っているおれ達にルルがあたふたとしているのが意識の隅に入っていたが、おれは師匠に恨みのテレパシーを送るのに忙しい。




「ちょっといいかな」



混沌とした空気に割り込んできたのは落ち着いた感じの重低音。



「め、メイヤー!?どうしたんですか、こんなところで!?」



声の主を見たアニエスがひどく狼狽えている。



年は50を超えた辺りだろうか。


白髪の混じった茶髪に優しげな表情を湛えているが、瞳の奥の鋭い眼光が彼を只者では無いと意識させる。


見たことのない人物の登場に、おれとルルは揃って首を傾げる。



「私はジルベール・ボドワン。スレールの”メイヤー”―――――シヴィルの代表者を務めさせてもらっている者だよ。カイト君にルルティア君、だったね。君たちと少し話がしたいんだが……」



へぇ、この人がメイヤーか。



世界の公共機関であるシヴィルは、各々の町村の代表が管理することが多い。



つまり、メイヤーの職に就いている者はその町村の代表―――――ここスレールにおいては町長にあたる。



この町一番の権力者がおれ達に話があるとここまで来てくれたのだから、無下にも出来ない。



「構いませんが、まだ依頼完了の手続きが終わってないのでしばらく待たせることになりますよ?」



「そうか、それは丁度良かった。そ今回の依頼の報酬についても話し合いたいと思っていた所なんだ」


「はあ…でも、おれは別に正規の報酬のみで構わないんですが……」


「なに、遠慮することは無いさ。個人的な興味も含めて、君たちと話したいことはたくさんあるのでね。報酬の件はついでみたいなものだよ」


「いや、でも……」


「ま、とりあえず場所を変えよう。ここじゃ目立ってしまうからね。依頼の件もあるしアニエス君もついてきなさい」


「あ、は、はい!」


そういってカウンターの奥へと行ってしまった。



有無を言わさず、とはまさにこのことだな……



ルルも若干不満そうな顔をしている。



アニエスに促されて入った部屋は思ったよりも簡素で、置いてあるのは大きめの机とそれを囲むようにソファが置いてあり、後は鮮やかな壁掛けと観葉植物が申し訳程度にあるくらいだった。


ただ一つ、机の表面にカウンターと同じような魔方陣が刻まれているのが気になった。




ソファの一つにメイヤーがすでに腰かけている。



「さあ、君たちも座って。アニエス君もそんな所に立ってないでこっちに来なさい」



おれとルルがメイヤーの対面に座り、紅茶を人数分用意して戻ってきたアニエスは恐る恐るといった様子でメイヤーの隣に座った。




「ふむ……」


メイヤーがおれの顔をジッと見ている。


そして、メイヤーがニッコリと微笑む。



な、なんだよ。



「あ、いやすまない。良い目をしていると思ってね」


そして照れたように頭を掻くメイヤー。



……悪い人じゃないが変な人だな。



「ちょっと、カイトくん!?メイヤーになんて失礼な!」



……やば。口に出てたみたい。


しかし、


「はっはっは!!その通りだから良いんだ。私の友人にもよく言われるよ」


メイヤーは気にしてない様子だ。



「あのー、そろそろ本題に……」


「ああ、そうだったね。ではまず依頼の件だが、成功報酬は10万ノルドと黄ランクへの格上げ、でどうだろう?」


「えええ!?」


おれ達も驚いたが、隣のアニエスが一番ビックリしている。



「報酬金2倍に3階級のランクアップですか!?そんなの聞いたこともありませんよ!?」



おお、アニエスがおれ達の気持ちを全部いってくれる。



「報酬金はともかく、彼らはたった2人で星7つの依頼を成し遂げたのだ。本来の実力は黄よりもう2、3階級は上のはずじゃないかい?」



「う……」


「だが、彼らも冒険者になって日が浅い。いくら実力が高いとはいえ難易度の高い依頼を受けるのは危険だろう。そこで、駆け出しの卒業地点であり、高いランクでも自己責任で臨める黄ランクで留めることで、彼らの冒険者としての生活を押し上げ周りの混乱も抑えられると踏んだのだが。どうだろうか?」


「そう、ですけど……」



確かに正論だ。



今回は他の冒険者やアニエスを互い良く知っていたから良かったものの、白ランクが星7の依頼を成功させたなんて信じてくれる人はそういないし、そこから諍いが起きかねない。


だからといって青や紫のような高いランクにいきなりなってしまうと悪目立ちするのは目に見えている。



このメイヤーが良く考えて提案をしてくれているのは分かる、のだが……



「メイヤー」



アニエスと半ば言い争いのようになっているメイヤーに声をかける。



「なんだね?それと私のことはジルでいいよ」



「えーと、じゃあジルさん。どうしてここまでしてくれるんですか?おれ達は星7つとはいえ、まだ依頼を一度しか成功させていません。それなのにここまで買ってくれているのはどうしてでしょうか?」


何故、ここまで優遇してくれるのだろうか。



「それは、私が君を信用に足ると思っているからだよ」



信用は、長い時間をかけて出来るのが普通である。


この男は少しおれを信用しすぎなんじゃないか。



疑いの視線を向けるおれに、メイヤーは微笑みを返す。



「……君たちは、奴隷館の事件を知っているかな?」



その言葉におれの体が硬直する。


手に持っているカップから紅茶が少しこぼれた。



ルルも奴隷館という言葉に反応して別の意味で硬直したが、その後に続いた事件という言葉に首を傾げた。



「お嬢さんは知らないようだね。……事件が起こったのは10日前――――――ちょうど君たちが依頼へと出る前日だね――――――、奴隷館が全焼してね。突然のことだったから私を含め、町の人たちはとても驚いたよ。さらに驚いたのはね、それ程の大火事だったのに死者が一人も出なかった事なんだ。でも、それだけじゃない。奴隷として売られようとしていた人たちは怪我一つ無く新品の服に身を包んでいた。彼らは一人ずつに食糧が与えられ、泣きながらそれを食べていたよ。一方、商館を運営していた側の者たちは皆ぼろ雑巾になって転がっていたよ。貴族も平民も関係なく、平等にね」


「本当にすごかったの!!あそこを経営していた傲慢貴族が警備隊に泣きついてたのよ!あれは相当ひどいことをされたに違いないわ、いい気味ね!」


メイヤーがが嬉しそうに語り、アニエスが興奮気味に続く。


ルルは話をキラキラした目で聞いている。



その間ずっとニコニコしながらこちらを見つめるメイヤー。



おれは冷や汗をダラダラと流していた。



「でも、それで終わりじゃ無かったんだ」



「え!どういうことですか!?」



ここからはアニエスも知らない話らしい。


ルルと同じような目になってメイヤーの話に聞き入る。



「現場の片隅に『町長へ、犯人より』と添えられた紙の束が発見されてね、驚きを超えて呆れたよ」



「な、何だったんですか!?」



「ここ数年の奴隷の買い取り先、売り渡し先、オークションの日時に取引先の細かい個人情報などなど……国の法にのっとれば500人以上の首を刎ねてなお有り余る、血印付きの書類の束だったよ」



「す…すごい……」



アニエスはもはや放心状態だ。



ルルは驚いた様子だったが、何かを察した様子でチラチラとこちらを伺い始めた。



「凄いなんてものじゃない!権力と薄汚い武力を纏ってスレールに巣食い続けた奴隷館を、内側と外側、それもたった一夜で滅ぼしたんだ!尊敬を通り越して畏怖すら覚える!」


そしてこちらを一瞥し、再び語り出す。


「私はそれを成し遂げた素晴らしい人物に一目でも会いたかった、そして感謝したかった!だから、私はその人物を探し尽くしたんだ。そして分かったのが、奴隷だった人たちは皆その人物に会っていたということ。最初はその人物に口止めされていたらしくて、その人物がたった一人だということしか分からなかったよ。しかし、私も食い下がった。それで、利用してはいけないと思いながらも最終手段に出たんだ。私が彼らに見せたのは書類の束に挟まっていた一枚の紙だった」



「ま、まだ何かあったんですか……?」


アニエスはもう疲れた、と言わんばかりに口をはさむ。



「これが私の心を打ったのだよ。その紙にはこうあったよ。『町長へ。彼らはこの国の仕組みに囚われてしまった不幸な人達です。あなたがこの国の現状を少しでも憂う気持ちがあるなら、彼ら奴隷たちを憐れむ気持ちが少しでもあるなら、彼らを保護し、まっとうな暮らしをさせてあげてください』、とね」


メイヤーは声を震わせながら言った。


「町長として、メイヤーとして何一つ出来なかった私は、彼に救われたのだよ。そして私は彼らを保護し、普通の暮らしが出来るまで援助すると告げた。そして、私たちを救ってくれた英雄にお礼をしたい。約束に反するのは承知しているが、それでは恩義を返せないのだ、と言ったんだ」


おれの冷や汗は止まらない。


「そして彼らは口を揃えて言ったよ。『黒髪で、眼帯をした銀の英雄が私達を救ってくださいました!私達の分もどうかご恩義を』、とね」



そしてメイヤーは立ち上がり、おれに深く深く一礼した。



「本当に、ありがとう…!」



「ちょ、ちょっと!やめてくださいよ!」



おれは慌ててメイヤーに顔を上げるように言うが、メイヤーは微動だにしない。



熱っぽい視線に気付き顔を向けると、そこに居るのは二人の少女。



「本当に、カイト君なの……?」


信じられない、という顔のアニエス。


そのまま信じなくていい……



「やっぱり、カイだったんだね」


ルルのキラキラ視線が痛い。





再び混沌とした状態になった部屋に声を響かせる。




「違う、違うんだよ!!いや、違わないんだけど、ちがーうっ!!」



自分でも何を言ってるか分からない。



他の三人がキョトンとした目でこちらを見つめる。



「……違うんだよ。確かにやったのはおれだけど、そんなに大層なことじゃないんだ」



「……どういうこと?」



意味が分からない、といった様子のアニエス。



他二人も同じだ。




……あーあ、だから隠しておきたかったのに……


おれはため息をつき、話し出す。



「おれはな、ごく個人的な理由で奴隷館を潰したんだよ……」





長いので一旦切ります。


ジルさんの口調が定まらないw



サボる…なまける、ずる休みをする、の意。sabotage(仏)の「サボ」を動格化したもの。フランス風の名前が多いランパード王国の方言。

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