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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第1章 始まりの冒険
32/50

帰還

更新が開いてしまい申し訳ないデス…しかも短め。



ルルティア視点の書き方をちょっと変えてみました。


というか話し言葉に近づけました。

日が落ちる頃にスレールに戻ったおれ達は、まずシヴィルに依頼完了の報告をしに向かった。




シヴィルは依頼を終えた冒険者達で賑わっていて、出発前に顔見知りとなった人たちもたくさんいた。


横の酒場ではすでに満席に近い状態で、すっかり出来上がっている人も何人か見られた。



そんな彼らから掛けられたのは、「やっぱりダメだったか」という同情や「調子に乗るからだ」というからかいに近い罵倒ばかりで、だれも依頼が成功したと思った人はいないらしかった。



まあ、当然だろう。



星7つクラスの依頼はそう簡単に終わらせられるものでは無いのが常識だという。



それなのにスレールからティボレの住処まで歩くだけで往復1週間かかるのをたった8日で帰ってきたおれ達は、ティボレを一目見てビビッて逃げ帰ったとでも思ってるのだろう。



確かに冒険者なり立てがこんな依頼やるなんて普通無理だと思うけど、アニエスまで「ほれ見たことか」と言わんばかりの表情なのでちょっと不満だ。



「おいおい、酒に強いからって魔獣を倒せるわけじゃないんだぜぇ?」


ニヤニヤしながら肩を組んできたのは、シヴィルで最初に絡んできた冒険者だ。


飲み比べで惨敗したのを根に持っていたのか、凄く嬉しそうに嫌味を言ってくる。



ルルがそれをもの凄く怖い顔で睨んでるのにも気付いていない様子だ。




ちょっと乗っかってやるか……




おれは悔しそうに俯き、とぼとぼとアニエスの居るカウンターへと歩いていく。



それを見た周りの冒険者たちは同情的な視線をこちらに向けている。


まだニヤニヤとこっちを見てる奴が一名いたが。



ルルは心配そうにこちらを見ている。


俯いたおれを気遣ってくれているのだろう。



良い子だなぁ。




「ただいま、アニエス……」


落ち込んでいる振りをして言ってみる。



「お、おかえり、カイト君」



「アニエス、おれ……」


「気にすること無いわよ!ダメ元で頼んだんだから、出来ないのが普通なの!無謀に戦って死ぬよりも生きて帰って来るのが大事なんだから、ね?」



アニエスはおれを励まそうと必死な様子。



ルルが何か言おうとしたが、おれが見えないように人差し指を口に当てて「シーっ!」とやればルルも状況を飲み込めたみたいで、口を手に当てて堪えるようにクスクス笑っている。



「最初はどんな冒険者でも失敗するものなの!……今日は皆とお酒でも飲んでパアーッとしましょう!私がお酌したげるから!……だから、元気出して?」



すると、酒場の方からも「おう、早くこっち来いよ!」「愚痴でもなんでも聞いてやらぁ!」「あたしもルルちゃんとまた飲みたーい」「アニエスさん、おれにもお酌してくれえええ!」などと声が上がる。



「みんな、ありがとう……」



あったかい人ばかりだなぁ……



感謝の気持ちが自然に出てくる。




そして、俯いたままバッグから大きな塊を取り出し、カウンターにドチャリと置いた。






へ?





空気が固まる。



おれが置いたのは、ティボレから切り取った素材。




そして、輝かんばかりの笑顔を作りながら顔を上げた。




「まあ、依頼は成功してますけどね!」





……は?





はああああああああああああああああああああああああああああ!?






イタズラが成功して満足しているおれとお腹を抱えて笑うルルだったが、それを続けられたのも放心状態から回復した冒険者達から担がれてもみくちゃにされるまでの短い間のことだった。







******






昨日は大変だった。




冒険者たちに何故か胴上げされたのから始まり、ほとんどわたしが倒したなんてカイが言うものだから(まあ事実なのだけど)どうやって倒したか皆に聞かれて、最後は腕相撲大会に発展した。


結果は全勝だった。


ちょっと嬉しい。



途中で話を聞いたらしい商人の人たちが押しかけてきて、たくさん感謝された。



中には泣いてる人もいて大げさだとは思ったけど、良い気分だった。




お酒を飲むのは控えたから、たくさんの人と話せた。




少し前までは人間と目を合わせるのも怖かったのに、知らない人と喋るのは凄く凄く楽しかった。




依頼をこなす前からそうだったけど、カイも人気者だった。



カイがティボレを倒したときの話をした時は、皆が興奮しながらも耳を澄まして聞いていた。


カイは話がとても上手で、みんな引き込まれていた。



……わたしのことを格好よくしすぎで、すっごく恥ずかしかったけど。




アニエスも「お酌付き合うって言っちゃったし!」って言い訳みたいに言って参加してた。



……それで、ずっとカイの隣にいた。


ずっとニコニコ嬉しそうだったのは良いんだけど、なんだか胸がモヤモヤした。



なんでだろう。



アニエスが受付サボってたからかな。


……違う気がする。





夜遅くまでお祭り騒ぎは続いたけど、わたしもカイもいつも通り朝日が上り出す時間に目覚めた。



相変わらず飲んでも元気なカイに、わたしもほとんどお酒を飲まなかったので目覚めはスッキリだ。



朝ごはんを食べながら、カイと今日の予定を相談する。




「ルル、朝メシ食ったらシヴィル行って依頼の報酬貰いに行くけど良いか?」



「んむ」


サンドイッチを食べながら返事をする。


「それ終わったら今日は依頼も受けないし、休みにしようと思う。それで、ルルはどっか行きたいとことかある?」



「むー……」



特別行きたい場所は無い…けど、カイとお出かけかぁ……



「ふぁいは?」


「ん、おれ?おれは特に無いな……どうする?宿の部屋でダラダラする?」


「む~……」


「え、いやなの?…じゃあ、適当に店回ってみるか?」


「んむっ!」


「ま、明日にはこの町を出るし丁度良いか。掘り出しもんとかあるといいな」


「むぐむぐ」


「…ちゃんと飲み込んでから喋れって」



苦笑するカイ。



少し恥ずかしくなってきた。




残りを口に詰め込むように食べて、立ち上がる。



「早く行こう、カイ!」


「ん、そうだな」



ここ最近はずっとカイと一緒だったけれど、二人でお出かけするのはちょっとドキドキする。



カイに買ってもらったワンピースに触れ、思わず頬が緩むのを感じながら、わたし達はシヴィルへと向かった。

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