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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第1章 始まりの冒険
31/50

奴隷商

第三者視点からスタートです。

スレールの町の一角に立つ豪勢な建物。




一見すると貴族の別荘とも思えるその館の内情は、ランパード王国内でも屈指と言われる程の規模の奴隷商館なのである。



とは言え、王国内に限らず大陸の主な国は奴隷売買を禁止しているので、表立った商売は行われていない。



そんな裏の商売に群がってくるのは無法者の人攫いや盗賊団、それを牛耳るのはあろうことか王国の貴族なのである。



さらに悪いのは奴隷たちを買うのもまた貴族や大商人などの権力者なのであり、王国の権力が行き届きにくいコモル自治区において権力者の組織だった犯罪を取り締まることはもはや不可能であり、このスレールの町では”公然の秘密”として人々の意識に定着していた。



交易で人が多く流れてくるこの町の人々の失踪が後を絶たないのもこれが関わっていると言わざるを得ないだろう……





そんな奴隷館は現在、息も絶え絶えな二人のゴロツキの乱入によって少々慌ただしい空気に包まれていた。




「一体どうしたというのだ!!他の者はどうした!!」




死人のように顔を青ざめさせた二人のゴロツキ、もとい奴隷商の下っ端を執務室に呼び寄せたのはこの奴隷館の総支配をしている者。



奴隷商売を足掛かりに貴族の位を上げてきた、非道な男である。



「他の奴らは、死んだ!殺されたんでさぁ!!」



「なんだと!?」



苦しそうに言葉を発する下っ端を、男は忌々しげに睨む。



「手負いの夜叉1匹も捕まえられんとは……貴様らは何をやっていたのだ!!」




夜叉妃ヤクシー≫の奴隷としての価値は一般の奴隷に比べ何十倍にもなる。



大金を掴むチャンスを失ったことに普段は傲慢な態度をとる男も焦りを隠せない。




「ち、違うんでさぁ!!おれらをやったのは夜叉じゃねぇんだ!!」




「なに!?協力者でもいたのか!?」




「分かりやせん……ただ、ありゃあ”化け物”だ…おれ達で太刀打ちできる相手じゃなかった」



「相手の人数は?」



「…たった一人でした」



「なんだと?」




男は鼻で笑いとばした。



いくらこの下っ端どもが無能とはいえ30人以上が≪夜叉妃ヤクシー≫の捕獲に向かったのだ。



どうせ簡単な罠にでもかかって一網打尽にされたに違いない。




「お館様!!ここにいちゃマズイ!!早く逃げねぇと”アレ”が……”アレ”がきちまう!!」




狂ったように叫ぶ下っ端を見て、男はさらに軽蔑を込めた視線を送る。




「貴様に指図する権利など無いわ!たかが一人の協力者に遅れなどとらん!!再び≪夜叉妃ヤクシー≫の捕獲に手を回す!!……おい、貴様!協力者の特徴を教えろ!!私に楯突いたことを死ぬまで後悔させてやる!」




下っ端の一人の胸ぐらを掴み上げ、脅す様に問う。




「あ、アレは……黒髪で眼帯をしていて、あ、ああ紅い目をしていて……」






「それはこんな顔か?」





突然響いた声に部屋に居る全員が振り向く。





そこに居たのは、まさに男が探そうとしていた人物。



その両手には血だらけになった館の警備兵が引きずられてきていた。




「な……んで…」



「貴様、何者だ!!」




下っ端二人は失神寸前の状態で腰を抜かし、支配人の男は腰の剣を抜いて侵入者に向ける。




「たいした腕も無いのにそんなの振り回そうとすんな」




”彼”の声と共に、支配人の剣が真っ二つに折れる。




男は有り得ない現象に呆ける間もなく顔面に拳がめり込み、机や書類を巻き込んで吹っ飛ぶ。




激痛に地面をのた打ち回る男の横に、”彼”の持っていた警備兵が投げ捨てられた。



「ひっ」



情けない掛け声とともに、自分の横に沈む二人の警備兵が自分の駒の中でも特に腕利きの二人だと認識し、絶望する。



「これで館に居る全員と挨拶できたかな。……で、お前がここの支配人なんだろ?」




”彼”の言葉に戦慄を覚えながらも、男はわずかに残る貴族としての矜持を振り絞る。




「き、さま…こんなことをしてタダで済むと思っているのか」



「それはこっちのセリフだ」



顎を蹴りぬかれ、脳が揺さぶられる。



それでも気絶しないのは”彼”の力加減によるものだろう。




「貴族が頭になって奴隷商売って…最低だな……こりゃ国でも変えなきゃ無理かもなぁ」




”彼”は男に顔を近づけ凄絶な笑みを浮かべる。



「とりあえずここは終わりだ。あらゆる証拠、証言言質を取らせてもらう。拒否権は、無い」



男は朦朧とした意識の中抵抗の意志を見せようとするが、”彼”の眼をみた瞬間、戦慄する。




紅い。



血よりも紅いその眼には、男にどんな脅しも霞むほどの恐怖を感じさせた。




「さあ、洗いざらい吐いてもらうぞ。最低最悪な悪事の全貌を」




この後の記憶は男に残っていなかったという。





そして、次の朝に奴隷館の全焼と共に人々に広まる大事件を耳にする事無く依頼に出かけた二人の冒険者のことを知るものは、ほとんどいなかった。

短めですがここで切ります。



伏線もっと張れば良かったな……と後悔。

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