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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第1章 始まりの冒険
29/50

遭遇

今回はルルティア視点のみです。



わたし達は今、エルムト街道を歩いている。




街道と言うだけあって道には石畳が敷いてあるものの、長年使われていなかったためか雑草に覆われとても整備されているとは言えなかった。





「キシァァァァアアアア!!」




不快な叫びと共に飛び出してきたのは5匹の”ワーレンスキンク”。二足歩行のトカゲを模した姿、その背は鎧のような鱗に覆われ腹は毒々しい赤に染められている。



その手にはどこから持ってきたのか錆びた剣が握られ、こちらに向かって無造作に振り回してきた。




カイはそれを難なく受け止め、流れるような手さばきで1匹を切り下した。



その間、カイはその場から一歩も動いていない。




それに怯んだ他のワーレンスキンクの隙を見計らってわたしは買ってもらったばかりの魔鎚を振り回す。



ワーレンスキンク達はそれを避けようと後ろへ飛び退くが、動きが遅れた2匹を硬い柄頭が捉え吹き飛ばした。




抉れた体から飛び散る体液が不快だったけれど、集中を切らすことなく魔鎚を残った2匹の方へ構える。




「やるなぁ、ルル」




カイが気楽な様子でわたしの隣に立つ。



褒めてくれるのは嬉しいけど、さっき奇襲をかけてきた別の魔獣3匹を素手で相手していたのを見た後だから微妙な気持ちになる。



「その魔鎚、大分使いやすいみたいだな」



「うん、すごく手に馴染むんだ」



「へぇ、さすがは夜叉族の武器といったところだな」




軽く会話しているけど、未だに戦闘中である。



対峙しているワーレンスキンク達はわたしたちの動きを探っているせいか向かってくる様子は無い。





「ところでさ、ルル」



「なに?」



「自分の魔力を感じれるようになっただろ?」



「うん、何となくは」



「せっかくの魔鎚なんだからさ、ちょっと魔力を込めてみたら?」



「え……でも、やりかた分かんないよ」



その会話の間に痺れを切らしたか、ワーレンスキンクがこちらに襲いかかってきたがカイの「ちょっと向こう行ってろ。≪木枯ブロウ・ウインド≫」の一言で吹き飛ばされていった。


…ちょっと不憫かも。



「魔鎚と自分を繋ぐんだ。魔鎚に魔力を手先から流す感覚でやってみて」




言われたように魔力を流してみると、柄の赤い模様がうっすらと輝きだした。



「あれ、なんか軽くなった?」



「おお、そんなに簡単に出来るとは。しかも軽量化の付加魔術付きか。すごいな」



ブンブンと軽くなった魔鎚を振り回すわたしを驚いたように見てくるカイ。



わたしがカイにビックリさせられることは多いけど逆は少ないのでちょっと良い気分だ。




「試しにそのまま殴ってみれば?」



目を向けた先には、先程カイに吹き飛ばされたワーレンスキンクが性懲りも無くこちらに向かってきている。



相当怒っているようだ。



カイの言葉に頷いて、魔力の流れを切らさないように気を付けながらワーレンスキンクの1匹に魔鎚を振り下ろした瞬間――――――




どかぁぁぁぁぁぁぁああああああんっっっ!!!




凄まじい爆発が巻き起こり、わたしは爆風で魔鎚を手放し吹き飛んでしまう。




地面に体を打ち付ける衝撃に目を瞑ったけど、カイに抱きとめられたので衝撃は無かった。




カイに礼を言って前を見ると、そこには爆発で跡形も無く吹っ飛んだワーレンスキンクの破片とわたしが手放した魔鎚が無傷で横たわっていたのみだった。




「これ、わたしがやったの……?」




呆然とその光景を見ていると、頭の上に手が置かれる。




「これが”特異体質”ってやつさ……にしてもここまでとは」



見上げると、カイが苦笑気味に目の前の光景を眺めていた。



その距離の近さに今さら恥ずかしさを覚えて慌てて魔鎚を取りに行き、カイの隣へと戻る。




「わたし、どうなったの?」



とりあえずさっき何が起きたか聞いてみる。



「さっきのはルルの魔力が魔鎚を通して爆破の魔術に変換され、ワーレンスキンクを吹き飛ばしたんだよ」



「へ?魔術?……でもわたし、言葉ワードとか唱えてないよ?」



「それがルルの”特異体質”なんだよ。つまり、ルルが持つ”爆炎の血統”によって詠唱無に火系統の魔術を行使できるってことだな」



「そうなんだ……」



「どうした?嬉しくないのか?」



「ううん、なんかまだ信じられなくて」



今までわたしを含めて魔術を使える夜叉なんて居なかったのに、火系統なら無詠唱で使えてしまうなんて……




「まあ、今まで魔術使ってこなかったんだから当然だよな。おれもフォローするし、これから慣れていけばいいさ」



「うん、ありがとう」



お礼を言うとニッと笑ってわたしの頭を撫でるカイ。



カイにはよく撫でられてる気がする。



忘れそうになるけどカイとは会ったばかりだし、彼の癖なのかも。



撫でられると胸の奥がふわふわしてくるけど、嫌な感覚じゃないから別に良いんだけど。





街道を進みながら襲いかかる魔獣達を倒すうちに魔鎚や魔術の扱いにも慣れてきた。



最初の爆発はどうも魔力の込め過ぎだったみたい。


大分威力を抑えて使えるようになった。



試しに魔鎚なしで魔術を使ってみたら、見事に成功したけど篭手が少し焦げてしまって落ち込んだ。



カイに笑われたのもムカッとしたのでもうやらない。







目的であるティボレの場所へと近づくうちに生えている雑草が低木に変わり、果てにはうっそうとした森になってしまった。




「もうすぐティボレの住む場所だ。気を引き締めていけよ?」



カイの言葉に頷く。



カイは相変わらず気楽そうな様子だけど、彼の纏う空気はピリピリしたものに変わっている。



緊張気味のわたしに気付いたのか、カイは笑いながらわたしの背中をポンッと叩く。



「そう緊張すんなって。さっきみたいに動いてくれれば大丈夫だから。ティボレは植物系の魔獣らしいし、期待してるぜ?」


「…うんっ!」



誰かに期待されるのはこんなにも嬉しいことなのだろうか。



やっぱりカイだからなのかな。





ほぐれた緊張のまま、カイに付いていく。




先程までかなりの頻度で襲撃に遭っていたのとは打って変わり、気配すら窺うことができない。




不気味な静寂の中、奥まで進む。




そして出たのは、開けた場所。




そこにあったのは―――――――





あらゆる獣のおびただしい数の骨の残骸と、その中心に佇む醜悪な魔獣の姿だった。




早く話を進めたいのに、なかなかすすまねぇ、書きたい処に到達しねぇ!!って感じです。


描きたい展開にたどり着くまで、どうぞ御付き合いください。




エルムト(古ノルド語: Örmt)…「支流に分かれるもの」の意。北欧神話に登場する川の名。アース神族で雷神のトールが、ユグドラシルのそばの「裁きの場」に行くときに毎日渡っているという。



ジンバブエワーレンヨロイトカゲ…”スキンク”はトカゲの種類に当たる。その模様からオレンジサイドワーレンヨロイトカゲとも。これと非常に酷似した個体がいるものの、関係性はよく分かっていない。これが二足歩行したら本当に怪獣映画とかにでてきそう。

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