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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第1章 始まりの冒険
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”シヴィル” - 2

説明回が続きます。

『一般生活及び特務全般における援助依頼の参集、そして依頼遂行者の為の総合扶助、互助組織』



これが”シヴィル”の理念と言うべきものである。



元々は街の傭兵に護衛や魔獣の討伐の依頼を斡旋する組織だったのが、それ以外の様々な依頼を受け取るようになり、それをこなす為に自分たちの元で依頼を受ける者を抱え込んだのが”シヴィル”の始まりだと言われている。



お金を払えば誰もがある程度はどんな内容でも依頼することができ、今や小さな村でも無い限りはどこにでも”シヴィル”は拠点を構えている為、地域をまたぐ様な依頼でも”シヴィル”同士の連携により容易に受理される。



無数に出される依頼は三種類に分割され、どれを専門にこなすかで遂行者の呼び名も変わる。



一つ目は引っ越しの手伝いや工事の手伝いなど、その町の中で達成できる依頼群であり、これらを専門にこなす者は"働きアリ《クロール・アント》"と呼ばれる。


はっきり言ってしまえば雑用だが登録者は最も多い。


例えるなら「日雇いのバイト」が一番相応しい言葉だろう。



二つ目は商工に関するもの。


これは特殊で、商品の流通を円滑に行えるようにしたり、鍛冶師や技師の派遣など依頼というよりも互助の面が強い。


元の世界での中世のギルドと言えばしっくりくるかもしれないが、商工に携わる者はほぼ皆がここに登録されていて、ギルドほど閉鎖的なものでは無いと思われる。



彼らが忙しく走り回る様に人々は敬意を払い”奔走者”と呼んだりする。


金に汚いのも彼らの特徴ではあるが……それはご愛嬌。



そして最後が、町の外が活動の中心となる依頼。


それは薬草や鉱石の採集に始まり、魔獣の討伐や捕獲及びそれらからの護衛、果てには未開拓地の探索など最も多岐に渡るが、いずれの依頼も多かれ少なかれ危険が伴ってくる。



”シヴィル”誕生の元とも言える依頼群をこなす命知らずな者たちは”冒険者”と呼ばれ、人々からは畏敬と憧れの念をもって見られている。




日々更新され、増えては解消されていく依頼たち。



この三種類の依頼は”シヴィル”内でもそれぞれに独立した組織で運営されるため、ある程度大きな街になると建物さえ別の場所に置かれたりもする。



ここ、スレールの町も施設は別々となっていて、”冒険者”の為のものは”ホーム”と呼ばれたりするのだが――――――



そこの扉の前では”冒険者”には不釣り合いと言えよう細身の男女が、一人は好奇心で顔を輝かせ、一人は不安そうな表情をしながらも、今まさに中へと踏み出そうとしていた。






*****





「へぇー、ここが”シヴィル”かぁ」



装飾も何もないドアを押し開けた先には、わたしの知っている光景が広がっていた。



壁に張り出されているのは依頼の数々。


それを辿った奥のカウンターでは女の人が暇そうに座っている。



横手にはテーブルとイスが広がり、依頼を終えた”冒険者”達がそれらを占拠し騒ぎ立てている。


シヴィルの中に酒場が併設されてるようだ。



カイは興味深そうにキョロキョロと見回しながら奥へと進んでいき、わたしも慌てて後に続く。




「初めての方ですかー?」



私たちに声を掛けてきたのはカウンターに座る女の人。



年は20歳くらいだろうか。先の方だけが金色の茶髪に緑色の目というこの国では珍しくない容姿であるが、くりくりとした目が何とも言えない愛嬌を醸し出している。




「あ、そうなんです。登録をしに来たんですけど」



声を掛けられたカイは落ち着きの無い様子から礼儀正しい態度になる。


「この子も一緒にお願いします」


そう言ってわたしの頭に手を置く。



・・・なんか子供扱いされてる気がする。



「かしこまりました。では、こちらの魔方陣に手を置いてください」




受付のお姉さんが示したのはカウンターの上に刻まれた手のひらサイズの魔方陣。


何やら複雑な模様を描いている。



「こうですか?」


「はい。そのまま年とお名前、出身地を言ってください」


「カイト、15歳、ヴェストリー出身です」


カイが言い終わった瞬間、魔方陣が青く発光し始める。


わたしは夜叉の仲間が”冒険者”になるところを見たことがあるので、これで見るのは二回目だ。



光が収まった時には、いつの間にかカイが置いていた右手に真っ白なリングが嵌められていた。



「これ、何なんですか?」



「その腕輪は冒険者の証であり、カイト様の強さの証明でもあるんです」



「強さの証明?」



「はい。今カイト様が付けている腕輪の色は白ですが、依頼を受ける度に少しづつ色が変わっていきます。白、赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の順に変わっていきます」



「なるほどー、大体7つの階級があるんですね。あと、様付けは気持ち悪いんで呼び捨てでも良いですよ?」



「あら、そうなの?それじゃ、カイト君で良いかしら」


「うーん・・・まあそっちの方がマシかなぁ」


「うふふ、あなた面白いわね」



カイはこの人ともすぐに仲良くなったようだ。



「腕輪の階級は強さの証明だけじゃないのよ?横に貼ってある依頼を見てみて。どの依頼書にも星がついているでしょ?」



確かに、どの依頼書にも下の方に何個かの星マークが付いている。



「その星の数が依頼の難易度の指標になってるの。初心者のあなた達は星一つか二つの依頼を受けるのをお勧めするわ」



・・・あれ、敬語じゃなくなってる。



「分かりやすくて良いですね。初心者でも依頼が選びやすくて助かりますよ」


「・・・カイト君、あなた本当に初心者なのよね?」


「え、はい。正真正銘ニュービーですけど」


「ぬーびー?・・・その言葉の意味は分からないけど、なんだか隙が無いし口調も丁寧だし。とても成人したばかりとは思えないのよ」



・・・このお姉さん凄いかも。



「あはは……ヴェストリーでずっと暮らしてましたから。多少は丈夫にもなりましたよ」


「…そうね、あそこの出身なら分からない話じゃないかも」



カイは自分の実力を知られたくないみたいだ。


わたしも気を付けて喋ろう。



「あ、そういえばルルの登録がまだじゃんか」


「あらー、そっちの子のことすっかり忘れてたわ」



一言も喋らなかったわたしも悪いのだけど、少しだけムッとした。



そしてわたしもカイと同じように登録を済ませた。



わたしは何となく左腕にした。


と言っても自分の意志で着けたりはずしたりできるのだが。




その間も談笑は続いていた。


受付のお姉さんはアニエスという名前らしい。



この人は悪い人じゃないって分かるけど、「ルルちゃん」って呼ぶのはやめて欲しい。


ちょっと恥ずかしい……



「ねえ、アニエスさん」


「ん、どうしたの?」


「この腕輪にさ、黒いのって無い?」


「…どうしてそんなこと聞くの?」


「いや、何となくありそうだなー、と」


「……確かにあるけど、それを着けてる者はこの世に二人だけよ」


「……たった、二人?」


「そう!一人はエルフリーデ・クトゥルフ。”失われた遺跡”でオリンピア神殿の設計図を発掘した人で、すっごい話題になったでしょ?

もう一人はホルストレイ・ザランハック。数十年前の魔物の大侵攻を食い止めて≪蒼き英雄≫と呼ばれてるわ。・・・かなり前に急に消息を絶ったから今は生きてるかも分からないんだけどね。

そういう訳で、黒は世界を救う程の実績を残した人だけに与えられるものだから一般には知られていないわよ?」


「…へ、へぇ~、そうなんですかぁ~……」


「…どうしたの?」


「い、いえっ、何でもないデス!!」



…カイが明らかに挙動不審になってる。



小声で「あれ、あんなに凄いやつだったのか……なんでトイレなんかに置いてあったんだ…?」とか「やっぱり世界最強クラスだったのか…なにが『そこそこ有名』だ!英雄とか呼ばれちゃってんじゃねーか!!」とか呟いているけど何のことだろう……。



アニエスは頭を抱えるカイの様子を訝しげに見ている。



カイは人間から見ても変な人に見られてるっぽい。




「おい」



不意にテーブルの方から声がかけられる。



カイにつられて振り向くと、そこには厳つい冒険者がこちらを睨むように見ていた。




「ここはガキが来る所じゃねーんだよ!ママのところに帰りな!」



周りから嘲るような笑いが起こる。



ちょっとむかつく。



カイも怒ってると思って顔を覗いたけど、何故か面白そうに笑っている。



「おれもこの子もこう見えて成人だぜ?ママからはとっくに卒業してますぅ」



「ふんっ!成人したばかりのガキが粋がってんじゃねーよ」



「粋ねぇ。オシャレって意味ならオッサンよりもおれの方がずっと粋だと思うけど?」



「んだとこのくそガキぃ!!」



イスを蹴飛ばしながら冒険者が立ち上がり、カイの胸ぐらを掴む。



大柄な体格とスキンヘッドが相まって近くに居ると凄い迫力だ。



左腕には黄色の腕輪が光っていて、中々のランクの冒険者なんだろう。



他の冒険者たちはニヤニヤと、アニエスさんは不安げな表情で二人の様子を見ている。




わたしも腹が立ったけど、一つ確信した。




このデカブツハゲよりも、圧倒的にカイの方が強い。




それはカイも分かり切っているみたいで、余裕な表情で言葉を返す。



「そうやってすぐ手を出すのはやめた方がいいぞ?」


酒と怒りで冒険者の顔が真っ赤になっている。



「テメェ…状況分かってんのかゴラァ!!」




冒険者がカイの顔に向かって拳を振るう。



しかし、そこにカイの姿は無い。




「なっ、どこ行きやがった!?」



目の前から姿が消え、冒険者は動揺する。



「要はおれが一人前の男だって分かれば良いんだろ?」



冒険者が声をした方に振り向くと、そこにはテーブルの上で仁王立ちするカイの姿があった。


その両肩には大きな酒樽が二つ抱えられている。



そのテーブルの周りの冒険者たちも驚愕の表情を浮かべている。



「い、いつのまに!?なんだその樽は!?」



……わたしにはカイが高速で動いて≪ラーナベルデの異次元袋≫から酒樽を取り出したのがギリギリ見えたのだけど、それを目で追えた冒険者はいなかったみたい。



「アンタらにおれを認めさせて、かつ暴力を使わない手っ取り早い方法。つまるところ――――――」



カイはダンっ!と樽を地面に降ろした後、カイに絡んできた冒険者の方をビシッと指差す。



「―――――おれと飲み比べで勝負だっ、オッサン!!」



静まり返る室内。



しかし一瞬の後、



「いいぞ、やれやれ!」


「だっはっは、面白くなってきた!」


「自分から勝負ふっかけるとは、豪気ねぇ」


「その酒樽はどっから持ってきたんだ?ま、面白そうだから良いけどな!」



周りの冒険者からの野次と声援が湧き上がった。




カイに絡んだ冒険者は予想外の展開に付いていけてないみたいだ。



「ふ、ふざけるな!勝手に決めてんじゃ・・・」


「ほーう、逃げるのか?」



ニヤニヤと冒険者を見るカイト。



さっきとは立場が逆転している。



カイの挑発に顔をさらに真っ赤にした冒険者は、



「……いいだろう、受けて立ってやる!!」



カイの立つテーブルにズンズンと足を踏み鳴らし歩いていく。




そして始まる飲み比べ。



喧騒の中心は間違いなくカイだろう。




クスクスと笑う声に振り向くと、アニエスが堪えきれないというようにお腹を抱えている。



「ふふふ…あの子は大物ね」


「……うん」


「ルルちゃんもカイが一緒だと苦労するかもねぇ」


アニエスがからかうように言う。




「それでも、わたしはカイと一緒に居たいから」



「あら、妬けちゃうセリフね」




まだ会ったばかりだけど。


カイのこと、まだ何も知らないけど。




「おーい、ルルもこっち来いよ!」




そうやってわたしを呼んでくれるから。



「うん!」



わたしはカイについていこう――――――彼の目指す場所まで。

んー、話の締め方が分からんです。


あと、「参集」は意味合ってないけど響きが良いんでそのまま。



ギルド(Guild 英)…中世から近世にかけて西欧で見られた職業別の組合みたいなもの。閉鎖的、独占的な運営により市民に不満が高まり、市民革命によって撤廃される。



スレール(Thrall 英)…ヴァイキング時代の北欧圏における奴隷のこと。奴隷貿易はヴァイキングの重要な収入源だったようだ。北欧神話ではスレールは独自の祖先を持つとされた。



ヴェストリー(古ノルド語: Vestri)…「西」の意。北欧神話に登場する小人の一人。オーディンとその兄弟が巨人の王ユミルを殺し、その巨大な頭蓋骨で天を創った際に、他3方位の名を持つ小人と一緒にその天蓋を支えることを命じられたそう。



飲み比べ…どれだけの量を飲めるかを競い合う危険な行為。飲み過ぎ注意。

     違う種類の酒を飲んで比較する、という意味でも使う。



以上のように地名などは北欧神話などから引用してます。


既視感がある名前も出てくると思います。



人名は適当です。ランパード王国の人たちは大体フランス名です。

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