運命への穴≪とびら≫
窓から差し込む光に反応し、清和井海人≪セガイカイト≫は目を覚ました。
「また、あの夢だ・・・」
時間を確認しながら呟く。いつも起きる時間より少しだけ早い。
「でも、今日のはちょっと違ったな」
そう言いながら頬に触れる。
湿った感触が伝わってくる。
「夢見て泣くとか、ガキかよおれは・・・」
ため息をつきながらも、今日見た夢について考えてみる。
これで5回目だ。
教会みたいな建物の中で女神様みたいな人に会って、
信託がどうとか英雄がどうとか言われる夢。
我ながら阿呆らしい夢を見るものだと思っていたが、
何度も同じ夢を見るのと、夢にしては妙に鮮明に記憶に残っていたので、気になってはいた。
そして極めつけが今日の夢だ。
前と同じようなセリフの後、彼女が自分に助けを求めてきた。
どうして今回だけそのようなことを言ったのか、そもそも何から助ければいいのか、分からないことだらけだ。
「何なんだよまったく・・・」
頭をかきながら着替えをしにクローゼットに向かう。
今までの夢だけならばただの夢だと割り切ることができていた。
しかし、今日の夢で彼女が見せた表情が、海人の胸を締め付けていた。
彼女は所詮、海人の夢の中の登場人物であり、考えること自体が馬鹿馬鹿しいことなのだが、
海人には最後に見たあの涙をどうしても夢と割り切ることができなかった。
居間に向かい朝食をとる間も彼女のことが頭から離れず、心ここにあらずといった海人の様子に
家族は呆れ半分、心配半分といった表情で彼を見ていた。
学校に行くため家を出た後も彼女のことを考え続けていた海人。
そんな彼が、通い慣れた通学路に開いた、あるはずの無い大きな"穴"に気づくはずもなく・・・
海人は、真っ暗な闇へと自ら足を踏み入れたのだった。




