決意
本編スタートです。
0章を見てなくても楽しめると思います。
そして一人称視点主体になると思います。
おれは、異世界へと連れて来られた。
”彼女”からの神託を受け、この世界を変えるため、と言われて。
ある人は使命感に燃えて世界を救うために奔走したり、ある人は自分から元の生活を奪った神を恨んで復讐しようとするかもしれない。
あるいは、自分には重荷に過ぎると放棄したり、与えられた力を自分勝手に使おうと思う人だっているだろう。
お前はその内のどれなのか、と聞かれたら、おれは間違いなく一番最後の人に該当するだろう、と答える。
だって、世界をどうこうしようなんて考えたことも無いし、したいなんて思ったことも無いのだから。
おれが救おうとしているのは、世界なんて大層なもんじゃない。
たった一人の、幼い少女なのだ。
まあ、初対面はもっと成長した後の、素敵な淑女様だった訳だが・・・
それはさておき、おれは異世界に着いてすぐに最高の師匠に出会うという幸運を掴んだ。
これも”英雄”としての能力なのかもしれない。
そして、おれにとって一番の僥倖だったのは、”彼女”と出会えたことだった。
”彼女”と師匠、それに友であるロウラとの一年に及ぶ生活は、おれが元の世界で過ごした平凡で緩やかな16年に匹敵するほどに濃密で、それでいて幸福だった。
いつも充足感に満ち、笑い合って過ごした日々は、突然の襲撃によって幕を閉じた。
”彼女”が連れ去られ、おれは左眼を失うという最悪の結果を伴って。
おれは修行を続けながら、色々なところへ行った。
”彼女”を探し続けた。
しかし、”彼女”へと繋がる手がかりは全くと言って良いほど見つからず、何人かの珍しい友ができたことだけが収穫だったと言える。
おれが異世界から来たという話を聞いた数人の友には、自分の暮らしを奪われたのに怒らないのか、とか違う世界の者にまで迷惑をかけて申し訳ない、とか助力が欲しいときは何時でも言ってくれ、なんて言葉を掛けてくれた。
”英雄”という責務を放棄してたった一人の人だけを助けようとしている罪悪感に押しつぶされそうになっていたおれが、その言葉達にどれだけ救われたか分からない。
だから、おれは決意したんだ。
どんなものよりも強くなる。
そして、目の前で苦しむ人々がいれば、すべてを救おう。
目の前の人々だけなんて、おれはとんだ偽善者なのだろう。
誰かが利を得れば、誰かがその分の損を請け負う。
それは、どの世界だって同じなのだから。
でも、だからこそ、おれは救おう。
おれがその損を請け負えば良い。
”彼女”が受けようとしている理不尽も、何もかもを。
そんなの不可能だ、と鼻で笑われるかもしれない。
まあ、そうだろうな。
これはただの自己満足。
おれが救えた、と思ったならそこで終わってしまうのだから。
だから、おれは旅に出ようと思う。
何にも囚われない、おれだけの旅をしよう。
そうすれば、きっと何かが見えてくる。
おれがこの世界にやってきた理由。
”彼女”の姿だって、きっときっと・・・
だって、おれは”英雄”、なんだから。




