喪失-3
GWに入ったので、できるだけ早く更新していきたいです。
「はぁぁぁぁあああああ!!」
「ふっ!!」
今日何度目なのか分からない、剣と剣の衝突する金属音が響く。
ダーゴットと名乗る男の持つ剣と彼自身の圧倒的な力量によって早々に決着が着いてしまうと思われた戦闘は、カイトが発揮した”異常”とも思える身体能力の向上により予想外の粘りを見せていた。
カイトは自分の体がいつもより軽いことに気付きながらもそれに疑問を持つことなく、今はただ自分と剣を交える男を切ることだけに集中していた。
ガキンっ!
再び鈍い金属音が鳴り響き、二人は至近距離で睨み合う形となる。
と、次の瞬間には同時に後退し、距離を取る。
「忌々しき魔眼持ちが・・・!」
そう呟くダーゴットの眼には、明確な憎悪の色が浮かんでいる。
ダーゴットがカイト達と邂逅してから、ここまで感情を顕わにするのは初めてのことだった。
対するカイトは強い意志の籠った、血で染め上げたような紅い瞳で男を注視している。
二人の体の至る所には剣によって付けられた切り傷が見られ、右目のすぐ下を切り付けられたダーゴットはまるで血の涙を流しているように見える。
距離を取ったまま睨み合う二人。
二人が対峙している場所には粉々に切り裂かれた木々が散らばり、風の全くない現在では、二人が動かない限り物音一つしない。
静寂を破ったのは、ダーゴットが発する笑い声だった。
くつくつと押し殺すように嗤う男を見、カイトは怪訝な表情をする。
「何がおかしい?」
カイトは警戒しながらも問いかける。
「クク・・・まさかこのような子供に使う時が来るとはな」
嗤いを止めたダーゴットは再びカイトを見据える。
その瞳は、どこまでも冷たく――――――――
「もう、止めることはできん」
どこまでも昏かった。
「我、罪を祓い痛みを贄に汝を救済せん。≪神格化≫」
言葉を告げた瞬間、ダーゴットから莫大な”力”の奔流が溢れ出した。
その”力”は魔力とは比べ物にならない程大きく、濃密で、荘厳だった。
圧倒的な”力”を前にして、カイトは立つことすらままならなくなっていた。
「な・・・ん、だよ・・・その、力・・・」
自分の意志に反して、膝をついてしまう。
ダーゴットはゆっくりとした足取りでカイトに近づいていく。
そして、動くことのできないカイトを睥睨し、蹴り上げる。
あまりに強い衝撃。
吹き飛ばされたカイトは、まだ戦闘の被害に遭っていない木々まで到達し、そのうちの一本の木に激突する。
ダーゴットは再びカイトの方に近づいていく。
そしてカイトの所まで到達すると、剣を振り上げる。
―――――ああ、おれはここで死ぬのか・・・
―――――セフィはもう家に着いただろうか。
―――――師匠は帰ってきただろうか。
―――――この男、強すぎだ。でも、師匠ならきっと勝てる・・・よな。
―――――これで、セフィを守れたことになるのかな。
―――――じゃないと、おれがここまで頑張った意味が無い。
―――――どうか、この先も無事でありますように。
―――――でも、あと、ほんの少しだけ、一緒にいたかったなぁ・・・
朦朧とする意識の中、カイトは死を覚悟し、目を閉じた。
「だめぇっっ!!!」
カイトが再び目を開けると、そこに居るはずのない、居てはいけない少女の姿があった。
セフィはカイトとダーゴットの間に入り、カイトを庇うように両手を広げて立っている。
「なん、で、ここ、に」
「カイ君が戦ってるのに、逃げるなんてやっぱりできない!!」
「自らやって来るとは・・・好都合だ」
ダーゴットは剣を下ろし、セフィに近づこうとする。
近づくダーゴットから逃げるようにカイトに駆け寄ると、後ろを振り返り、言葉を発する。
「≪展開≫!!」
セフィの首に掛けられたペンダントが輝き、半径一メートル程の球形の透明な障壁が広がる。
「だめ、だ、にげ、ろ」
朦朧とした意識の中カイトは必死に訴える。
「いや!!カイ君が死んじゃう!!」
しかし、セフィがカイトを見捨てるはずもなく、カイトを庇うように抱きしめる。
「魔力障壁か・・・無駄なことを」
ダーゴットは剣を振りぬき、本来は決して破ることの出来ない障壁を易々と切り裂いた。
「そんな・・・」
呆然とするセフィに無感情な眼差しを向けたまま、セフィを掴み上げる。
「い、いやっっ!」
「”神気”に中てられてもここまで動けるとは・・・さすがは”巫女”と言った処か」
セフィは抵抗するも、ダーゴットの手はビクともしない。
「セ、フィに、さわ、るな」
カイトは朦朧とする意識の中、セフィに向かって手を伸ばす。
「もうお前に力は残っていない。諦めるんだな」
ダーゴットは憎々しげにカイトを見やる。
カイトはそれでも手を伸ばす。
「カイトぉッ!!」
セフィの悲痛な叫びがカイトに届く。
「お、れが、セフィを、絶対に、守るんだっ・・・!!」
巨大な”力”に抑えつけられられながらも、立ち上がろうとする。
「くっ・・・いい加減にしろ!」
ダーゴットは声を荒げ、カイトを蹴り上げる。
しかし、カイトはダーゴットを紅い瞳で睨みつけている。
ダーゴットは1歩、2歩と後ずさる。
その目には、明らかな怯えが含まれていた。
「何故だ、何故屈しない・・・その”眼”が、その”眼”のせいなのか・・・や、めろ、見るな、その”眼”で私をみるなあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
ダーゴットは狂ったように剣を引き下げ、カイトに向かって突き出し―――――
カイトの左目を突き刺した。
カイトは衝撃で再び木にぶつかる。
「ぐあぁぁぁああぁあぁあぁ」
あまりの激痛に呻くカイト。
「い・・・いやああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
左眼から大量の血を流すカイト、そしてダーゴットの持つ剣には、カイトの”眼”だったモノがそのまま突き刺さっている。
セフィは絶叫を上げながら、ダーゴットの腕を叩き、蹴り、噛み千切ろうとしている。
「よくも、よくもよくも!!離せ!!離してよっっ!!!」
しかし、それでも拘束が弱まる気配は無い。
ダーゴットは最早カイトの眼を潰すことしか考えてはいない。
息を切らしながら、怒りと憎悪で怯えを隠し、右眼も抉ろうと再び剣を構える。
しかし、ダーゴットは背後から迫りくる気配に気付き、剣をカイトに突き出すことは無かった。
「くっ・・・ホルストレイの使い魔か・・・!!」
ダーゴットは剣を振りぬき、鞘へと戻す。
「目的は達成された。ただちに帰還する。・・・命拾いしたようだな、”魔眼”持ち。もう会うことは無いだろう」
ダーゴットは独り言のように呟きながら、懐から白い水晶のような物を取り出す。
ダーゴットから流れる莫大な”力”はすでに治まっていた。
「ま・・・て・・・」
カイトは激痛で混濁した意識の中、右眼でセフィを見やる。
「いやだっ!いやだよっっ!!カイトッ、カイトぉっっ!!」
セフィは泣き叫びながらカイトに向かって手を伸ばす。
その手は、カイトには遠すぎた。
ごめんっ、ごめんな・・・!!
カイトは左目から血の涙を流し、セフィへと手を伸ばすことも出来ない自分を呪いながら、意識を手放した。
最後に聞こえたのは、ロウラの咆哮と、ダーゴットが「≪転移≫」と呟く声と、セフィがカイトを呼び続ける声だった。
や、やっとプロローグが終わりました(笑)
今まで詳しい説明が無かった諸々のワードは、次章から追々説明していくことになります。
あと、タイトルも少し変えます。
サブタイを付け加えるだけですが・・・
ダーゴットの豹変ぶりをもっと上手く描きたかったのですが・・・難しいですね。
次回からやっと描きたいことが描けるので、更新も早くできると思います。
これからもよろしくお願いします。




