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Wonder Worker World ~ 隻眼の英雄 ~  作者: 今宵 侘
第0章 転生~別れ
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喪失-2


「嘘だろ・・・」



カイトの発動した魔術、≪乱気流ターブランス≫は風系統の魔術でも最高位の魔術であり、またカイトにとって威力、範囲、一撃中の手数において最大の魔術、つまり切り札である。



避けるどころか、魔術で防御することさえ至難の業であるはずの大魔術。


それは確かに標的の男を巻き込み、周りの森ごとシュレッダーのように切り刻んだ。




しかし、男は無傷で立っていた。



瓦礫の山となり、周りに吹き飛ばされた木々や抉れた地面の中、男が立っている周りだけが先程と変わらない様子のままになっている。


ただ一点違ったのは、男が抜き身までも漆黒の剣を鞘から抜き構えている。





カイトは背すじに冷たいものが走るのを感じていた。



カイト達の前に現れるまで全く気配に気づけなかったこと、喋っている間にも刹那の隙さえ見せなかったことで、カイトは戦いを長引かせるのは危険と判断し、そして男の気配が希薄なのは魔力量が少ない為だと予想し、先手必勝とばかりに最初から全力の魔術を発動した。


どんな手練れだろうと、高位魔獣でさえ一撃で瀕死になる魔術を使えば軽くない怪我を負わせられるはずだったのだ。



それを避けることなく魔術を使うことも無く防ぎ切った男に、カイトは初めて恐怖を感じていた。




「・・・まさかここまでとはな」



男尾が口を開いた。


相変わらずの無表情だったが、先程までの希薄な雰囲気が強い殺気めいたものに変化したのをカイトは感じ取っていた。



「お前、年はいくつだ?」


「・・・今年で11だ」


相手の隙を探りながら、カイトは答えた。


「その年でこの規模の魔術が行使できるとは・・・やはり失うのは惜しいな。我々と共に来る気は――――」



男が少しだけ剣を下げた瞬間、カイトは飛び込み上から振り下す。


しかし男はそれを剣で難なく受け止め、右手のみで支える。



力押しで勝てる相手では無いと判断したカイトは飛びずさり、魔術を発動する。


「≪炎砲バーニング・キャノン≫!!」


至近距離で放たれた高速の炎弾が男に炸裂する。



しかし、またも男にダメージは無い。



そしてカイトは見た。


男が振るった剣に炎が当たった瞬間、炎が霧散したのだ。




「な・・・なんで」



理解し難い現象が起こり、カイトの思考が一瞬止まる。


次の瞬間、男がカイトの目の前まで迫っていた。



反応が遅れたカイトは剣を受け止めようと剣を上に構えたが、男が振りぬいたのは剣では無く右足だった。


「ぐがっっ」


無防備な脇腹に容赦なく蹴りを入れられたカイトは地面に何度も体を打ち付けながら数m吹き飛んだ。



体中を苛む痛み。呼吸が苦しくなったことで、カイトはアバラが何本かやられたことを理解する。



それでも、カイトはよろよろと立ち上がり、剣を構える。



「はぁ、はぁ・・・アンタ、魔術を消すとかどんなチートだ」


「・・・この剣、≪ラーズグリーズル≫はあらゆる魔術やそれに付随するものを打ち消す。つまり私には魔術は無効だ」



その一言で、カイトは理解する。


男から魔力が感じられなかったのは、魔力量が低い訳では無かったのだ。

あの剣による能力チカラにより、男の魔力を打ち消していただけだった。

そして、そこまでしてあの剣を装備しているということは、自分と相手が共に魔術を使えない状況であれば、絶対に負けない強さと自信があるのだろう。


先程の打ち合いは一瞬だったが、剣術は男と同等くらいの腕前を持っているかは判らない。

しかし、いかんせん体格が違いすぎる。それは剣のリーチに直結し、カイトに明らかなビハインドをもたらしていた。



結論は唯一つだった。


『この男には勝てない』のだと。



「・・・そういうことかよ」


痛む胸を庇いながら、かろうじてそう呟く。



「・・・もう分かっただろう。魔術が意味を成さない状況で私に勝つことは不可能だ。そこをどけ」



カイトは動かない。



「・・・なぜ、そこまでしてその巫女を庇う?アレが巫女になった以上、我々はアレを殺すようなことはしない。むしろ、アレには厳重な警護が付けられるだろう。このような魔獣だらけの森の中よりはずっと安全だろう」


「セフィをアレよばわりすんな」


カイトは男を射殺すように睨み付ける。


「何が厳重な警備だ!まるでモノ扱いじゃねーか!!そうして大聖堂が完成するまで監禁して最後は『世界のための生贄』か!?ふざけんなよ!!」


男が目を見開く。


「・・・何故それを知っている」


カイトは叫ぶ。


「世界の平和なんか知るか!!一人の女の子の犠牲の上に成り立つような平和なんかいらない!!おれは”彼女”を救う為にこの世界に来たんだ!!絶対に守って見せる!!」


今やカイトは最初に男と対峙した時以上の魔力を纏っていた。


そして、黒いはずのカイトの瞳は、燃えるような紅に染まっていた。



「!!・・・≪魔眼≫持ちだったのか。

 ・・・もはやお前は危険分子と見なすしか無いようだな」



再び剣を構えなおす男。


「最期に名乗ってやろう。私は教国ユミル戦教師長、ダーゴット・デストスだ」




ダーゴットの名乗りが終わるか終らないかというところ――――カイトは地面を蹴りだした。

また一旦切りますw


ごめんなさい。

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