幸福の刹那
せフィとの生活をもっと書きたいのですが、さらに起伏の無い話になってしまいそうなので、展開を進めるため割愛させて頂きます。
また余裕があれば書きます。
せフィとロウラが薪を抱えて戻ってきた。
カイトは玄関先でハラハラしながらそれを見ている。
ホルスは未だ残る爆発の後と、オリンピア大聖堂に関する調査のため、しばらく留守にしている。
せフィがホルス宅にやってきてから、もう一年になる。
彼女はカイトに見つかるまでの経緯を含め、ほとんどの記憶を失っていた。
残っている微かな記憶は彼女に強い恐怖を思い起こさせるものだった。
そのため、最初の頃は口数も少なく夜になると悪夢を見てうなされることが何度もあったが、カイト達の献身的な世話によって彼女の本来の性格だったのだろう、とても明るく活発になり、今ではそれに手を焼いている程である。
さて、現在ホルスから出されている毎日の修行メニューをあらかたこなしたカイトは無くなりかけていた薪を取りに行こうとしたのだが、せフィが「いつもカイ君に頼ってばかりだから、今日はわたしだけで行く!」と言い出して聞かなかったので、仕方なくロウラを護衛につけて行かせた次第である。
ロウラはいいのかよ、と心の中でツッコミながらも、最近は落ち着いてきたものの、もし上位の魔獣に出くわしでもして襲われていたらどうしようかなどと心配していた。
結果、無事に帰ってきたは良いが、器用に背中に積み上げて悠々と歩いてくるロウラに対し、前が見えないほどの薪を抱えてフラフラとした足取りでやってくるせフィは実に危なっかしい。
見ていられなくなったのか、カイトはせフィに近づいていく。
「お疲れさん。後はおれが持ってくから」
「もう、これくらい大丈夫だってば!」
「ここまでで十分だよ。よく頑張ったな」
そう言って少し強引にせフィの手から薪を受け取った後、これまた器用に片手で持ち直しながらせフィの頭を撫でた。
すると、せフィは
「えへへ、カイ君は優しいね。ありがとう」
と言ってカイトに顔を近づける。
そして、カイトの頬についばむようなキスをする。
最近せフィは何かある度にコレをしてくる。
原因は村の冒険者の一人がカイトを気に入り、追いかけ回しては故郷の挨拶だとか友愛の証だとかで襲いかかっていたのを見たからであろう。
なお、せフィはホルスに対してもコレを行っているため、ホルスの親バカ度は絶賛上昇中である。
カイトも気恥ずかしいが嫌ではない、いや正直かなり嬉しかったりするので、彼女にやめさせようとはしていない。
「っ! じ、じゃあ倉庫に置いてくるから先に中入ってろよ」
「んーん、付いてく」
「……勝手にしろよ」
顔を真っ赤にして早足で歩いていくカイトを見て、クスクス笑いながら追いかけるせフィだった。
「ホルスはいつ帰ってくるの?」
「んー、予定だと今日辺りには帰ってくるんじゃないかな」
「ホント!?じゃあ今日の夕ご飯はごちそうにしないと!」
「そうだなー……でもあんまり食材が残ってないんだよな」
「じゃあ今から獲りにいこうよ!」
瞳をキラキラさせて言うせフィに苦笑しつつも、最初の頃からは想像もつかない程元気になった彼女を見て、この子は本当に強い子なんだな、と感心してしまう。
「まあ、まだ日が落ちるまで時間あるし狩りに行くか」
「やった!じゃあさっそくいきましょ!」
「あ、やっぱせフィも行くんだ」
「当たり前でしょ!早くいこうよ!」
「はぁ……分かったよ。じゃあロウラ、留守番頼めるか?もしかしたら師匠帰ってくるかもしれないし」
ロウラが軽く頷くのを見、装備を整えたカイトは「ロウちゃん留守番よろしくねー」と手を振るせフィを連れて再び外へ出たのであった。
この軽い判断が間違っていたのかは分からない。
例え違う行動をしても、未来はそう変わらなかっただろうし、そうそう予想できることでは無かったから。
それでも、カイトはこの判断を、この先深く深く後悔することになる。




