新たな住人
また長くなってしまいました・・・
師匠が喋り出すと大変ですw
カイトは森の調査を終えて帰還したホルスとロウラに村やホルス宅周辺で増加している魔獣達の情報と、帰りに見つけた少女のことを話し、少女が眠る部屋へと案内した。
ベッドで眠る少女を見て、ホルスは一瞬目を見開き、逆にロウラは目を細める仕草をしたが、どちらもすぐに元の表情に戻り、ロウラは部屋を出て行ってしまった。
ホルスが部屋に一つしか無いイスに座ったため、カイトは不満そうな顔をしながらも口を開く。
「この子、なんであんなところにいたんだろう・・・村でも見たこと無いし、絶対に普通の子じゃないと思います」
「・・・」
少しの沈黙の後、ホルスはカイトに言葉を返す。
「カイトも知っての通り、先日爆発があった場所に行ってみたのだが、周辺に漂う強い魔力の残り香をロウラが嗅ぎ取ってな。恐らくあの爆発は何らかの魔術によるものと見て間違いない」
「そ、それ本当なんですか?村まで揺れるくらいの威力だったんですよ?」
「本当だよ。私は冗談は言うが嘘は言わないだろう?」
「・・・あんまり説得力無いんですけど」
「失敬な。それに、複数で協力すればあの位の威力の魔術は可能だぞ?」
「なっ・・・魔術ってそんなことまでアリなんですか」
信じられない事実に、固まるしか無いカイトを愉快そうに眺めるホルス。
「まあ、魔術と相応の準備があればほとんどのことは出来てしまうからな」
「さいですか・・・元の世界に戻れる希望が出てきましたよ・・・はぁ」
この世界の規格外さに肩を落とすカイトだが、「ほとんどのことが出来てしまう」魔力と技術を持っているのはホルスを始めとする超上級の魔術士だけだと知るのは、まだしばらく先の話である。
「ということは、複数の人間がこの森の奥まで入り込んで爆発を引き起こしたってことですか?」
「・・・爆発のあった所の近くに、大型の馬車の痕跡があった。あそこまで進むには"ラピードチェバル"に馬車を引かせる必要があっただろうから、相当の実力者がいたか金持が後ろについていたか、だろうが・・・」
"ラピードチェバル"は金に輝く六本足の馬であり、その馬力は言わずもがな、彼ら特有の術で周囲の地形を一瞬の間だけ変えることが出来る。
岩や木などの障害物を避けること無く進むことの出来るこの魔獣は様々な場面で重宝されるが、種族の希少性とその扱いにくさから実際に"ラピードチェバル"に馬車を引かせる者は少ない。
「なんでわざわざそんなことをしたんでしょうか・・・」
「分からない。それどころか、彼らが爆発を起こしたかどうかも怪しい」
「でも、それ以外考えられないじゃないですか。まさか、あんな爆発が起こせる魔獣がいるわけじゃないですよね・・・?」
恐る恐る尋ねるカイトに、
「まあいないわけでは無いが、"魔獣の森"にはそのような魔獣は住んでいないし、彼らが馬車に乗せて連れてきた、と言うのもあり得ないだろう」
と、平然というホルスに愕然とするカイト。
「い、居るんですか・・・」
「ああ、居るとも。しかしな・・・」
そこで言葉を濁すホルスに、カイトはさらに嫌な予感を覚える。
あの爆発を起こせる魔獣の存在を何とも思ってないかのように振る舞うホルスに、言うことを躊躇させる話に、良い話などあるわけが無い。
「な、なんですか」
腰を引き気味に尋ねるカイトに、ホルスは険しい顔つきで話し始める。
「複数人で魔術を合成した場合、それに使われる魔力もその人数分だけ混ざり合うことになるのだが、爆発の跡に残っていたのは単一の魔力だけだった」
「え、それってつまり・・・」
「何者かが単独であの爆発を起こした可能性が高い、ということだな」
確定的な口調で言われた言葉に、カイトは戦慄を覚えずにはいられなかった。
「そ、そんなことってあり得るんですか?」
「まずあり得ないな。私でも単独では不可能だ。そして、一番の問題はな・・・」
「これ以上の問題があるんですか!?」
カイトは思わず叫んでしまった。
これより悪い事情を聞いてしまうのを反射的に拒否してしまったのである。
「あ・・・」
カイトから声が漏れる。
カイトの叫び声によって少女が目を覚ましてしまったのだ。
ゆっくりと起き上がった彼女は辺りを見回し、すぐ近くに居る二人を見かけると、慌てたようにベッドの窓側の方まで後ずさった。
その澄んだ藍色の瞳には、警戒と怯えの色が浮かんでいる。
「あちゃー、起こしちゃったか」
バツの悪そうな顔をして頬を掻くカイト。
「・・・貴方たちは、だれ?」
警戒した表情のまま尋ねる少女に、カイトとホルスは顔を見合わせる。
そして、軽く頷くホルスを見、カイトが先に少女に向き直って口を開く。
「おれはカイト。君がケガをして倒れてたからここまで運んできたんだけど、まだ痛むところはある?」
そう言われて自分の体をキョロキョロと見回した後、首を横に振る。
「そっか、良かった。正直、治癒魔術は苦手だから不安だったんだよね」
「・・・治してくれたの?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「・・・どうして?」
「どうしてって・・・まあ、痛そうだったし」
苦笑しながら言うカイトをキョトンとした顔で見ていた少女は、
「・・・ありがとう」
と言って、ふわりと微笑む。
その可憐な表情に声を無くすカイトだが、脳天に響いた衝撃で我に帰る。
「いだっ!」
「なにをボーッとしてるんだ。私の紹介がまだだろう」
「あー、すっかり忘れてました」
悪びれずに言うカイトに再び手刀を食らわすホルス。
それを見た少女は怯えたように更に後ずさる。
「いった!・・・あー、怖がってんじゃないですか」
「む・・・カイトのせいだろう、どうしてくれる」
ジト目で睨むホルスを横目に、カイトは少女の方に向き直る。
「この人はホルストレイ。おれの師匠なんだ。怒ると怖いけど、まあ良い人だから安心して」
「まあとはなんだ、まあとは」
「ちょ、冗談ですから、チョップはやめて!」
右手を振り上げるホルスを必死に制するカイト。
そんな様子をしばらく見つめていた少女は、やがて堪えきれなかったかのようにクスクスと笑い出した。
それを見たホルスは表情を弛ませる。
「私のことはホルスと呼んでくれ。君の名前を教えてくれないか?」
「・・・セフィーシア」
「セフィーシアか、素敵な名前だな。この森で歩き回るのはさぞ大変だっただろう、しばらくここで休んでいくといい」
そう言っておもむろにセフィーシアの頭を撫で始める。
最初は体を硬くしていたが、すぐに気持ち良さそうに目を細めるセフィーリアを見、カイトがそれを遮るように口を開く。
「ちょっと師匠。羨ましい、じゃないや、セフィは一日中なにも食べて無いんですから。準備できてるんで、ご飯にしましょう」
「・・・セフィ?」
「うん、せフィーリアだからセフィ。・・・あー、嫌だった?」
「ううん、すごく良い」
そう言って輝くように微笑むせフィに、カイトはたじろいでしまう。
そんなカイトをニヤニヤした顔で見るホルスを睨みつけながら、カイトはスタスタと歩き出す。
「さ、さあ、早く行きますよ。おれも腹ペコなんですから」
カイトの部屋を出たところでロウラに出くわし硬直するせフィであったが、ロウラの"顔中舐め回しの洗礼"を受け、すっかり打ち解けた様子で居間へと向かうのであった。




