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50音順小説

世界に生まれ出で 50音順小説Part~せ~

作者: 黒やま

最近芸能界は妊娠&出産ラッシュなんで書いてみました。

世間は私のことを愚か者というけれど 私はそんなこと全く思っていない。


この子がおなかにいると分かったとき 一人でも産むと決めた。


だってこの子は確かにここにいて生きているんだから。





世都那(せつな)!まだまだ長いんだから今からそんな弱気でどうするの。」


最初はあれだけ産むことに猛反対していた母が今ではめげるなと叱咤する。


陣痛が開始から五時間経過して徐々に顔には苦渋の色しか出てこなくなった。


覚悟はしていたものこれほどまでの激痛を伴うとは想像していなかった。


世の中の母親は皆これを経験して親になったかと思うと称賛したい気分だった。


母もこうやって私を産んでくれたのであろうか。。。


「お母さん、お母さんも私を産むときこんなに辛かったの?」


痛みが和らいでる少しの間母にこう問いかけた。


「辛くなんてないわよ。痛くたってもうすぐ我が子に会えるんですもの。

 その喜びの方がずっと大きかったから、痛みなんてなんのそのよ。」


「そっか、そうだよね。ずっと会いたかったんだもん。これくらい平気。」


「そうよ、その意気よ。」


それからまたしばらくして痛みが襲ってきた。


けどおなかの子に会うためだ、ここは頑張らねば。





おなかの子(この子)に父親は存在しない。いや必要ない。


相手は2年間同棲していた彼で私の妊娠が発覚した途端逃げてしまった。


私は彼のこと責める気持ちにならなかったしこの子を堕ろす気持ちにもならなかった。


一人で働き一人でこの子を育てる世に言うシングルマザーにでもなろうと思った。


それは決して軽い気持ちなんかで決めたわけではない。


まだ小さいけど本当に小さいけど私の中で鼓動を打っているこの子が愛しいから。


どこからかそれを聞きつけた両親には早く堕ろせと言われたけど頑として受け入れなかった。


その日初めて父にぶたれた、子どもの頃からいくら叱っても殴りはしなかった父がぶった。


「世都那、お前のこと見損なったぞ。もう二度と家の敷居をまたぐんじゃない。」


事実上勘当された私はそれから今まで父に会ってない。


母も私には会うなと言われているらしいがそれでも心配して毎日のように説得しに来た。


けれど私の気持ちをずっと主張し続けたらいつしか理解してくれ母の方を説得してしまった。


私の変わらぬ決意を受け止め母の方が折れ、そして今では応援してくれている。




「世都那、あなたはこれから母親として強く生きなくちゃだめよ。

 けど心が弱った時はいつでも母さんに相談しなさい。あなたは私の子なんだから。」


「うん・・・お母さんありがとう。」


陣痛の感覚も短くなりいよいよ分娩室に入った。


母は入るその直前まで手を握っていてくれた、父はやはり来ない。


私の周りには医師と看護師がいてずっと励ましてくれていた。


「もう少しですよ、ふんばってください。」


「赤ちゃんの頭見えてきましたよ!」


あぁやっとこの瞬間が来た、あなたに会うのに一体どれほど待っていたのだろう。


しばらくして赤子の大きな産声が聞こえた。




「おめでとう、世都那。もうお母さんね。」


「うん、見てすごくちっちゃい。」


私は隣にいる娘の小さな手を指さす。


それをみて母は笑って言った。


「あなたもうお母さんの顔になってるわ。」


「まだまだ半人前だけどね。」


そんな会話をして二人で笑いあっているとふいにドアをたたく音がした。


「どうぞ。」


声をかけ入ってきた人物はぶたれて以来会っていなかったあの父であった。


「世都那・・・本当に産んだんだな。」


「頑固なところはお父さん譲りだから。」


久しぶりではあったが緊張した雰囲気にはならなくてスムーズに言葉が出てきた。


「顔を見てあげて、口のあたりなんてお父さんそっくりなんだから。」


眠っている娘の顔を自然と目じりを下げ見る父の姿は微笑ましかった。


「名前はもう決めたのか?」


娘から目をそらさずに父は私に尋ねた。


「うん。お父さん、お母さん、私の名前から一字ずつとって由都姫(ゆづき)。」


「由都姫か。可愛い名前だな。」


「そうね。」


久方ぶりの家族団欒であった、新しい家族を交えての。




はじめまして 私の赤ちゃん


私を選んでくれてありがとう


生まれてきてくれてありがとう



新しい世界へようこそ 由都姫

選んでくれてありがとう

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