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魔法の生体部品

 ラナはああ言っていたが、高校の時大学の勉強もせず、今も大学の単位ギリギリの状態で研究を続けてるんだ。魔法に今までの人生を賭けているんだ。それが――魔法の証明が失敗すれば、俺はやりたいこともやれず、何をしていたんだって話だ。俺には魔法しかないんだ。それ以外はどうだっていい。

 サイモンは良い奴だ。よく分かってる。ラナも同様に悪い奴じゃないんだろうが、考えすぎなんだ。いや、なんなら彼女は良い奴という確証まである。

 俺が研究をしていた半年間も、ラナはよく研究室に来てくれた。あいつもアニメが好きだから、休憩の間によく話が盛り上がっていた。

 研究室に戻るまでの通路の窓ガラスに、その頃の情景を思い浮かべる。一度、俺の寮で体育会系の奴らの喧嘩が起きた時、避難所としてあいつの寮の部屋に行ったことがあった。その時に淹れてもらった紅茶は甘ったるかったな。

 だんだん研究が現実味を帯びていくと、だんだんラナは、どこか怖気付いたような態度を取り始めた。何が怖いんだろうかと思っていたが、なんだ、そんな想像をしていたとは。地政学を学ぶとあんなことを考えるようになるんだろうか、広い世界を満たせるだけの妄想をするに足る知識を得た上で、悲観的になるとああなるのか。

 そんなラナの右肩下がりの研究への熱量と相反するように、サイモンはだんだんと食いつきが良くなっていったな。右肩上がりだ。

 サイモンは近代史を学んでいるんだったか、政治とかそっち方面に詳しくない俺から言わせて貰えば、地政学と近代史の違いはあっても目的は大体同じだ。政治の予測とか、なんか、まぁ政治のなんかだろう。

 サイモンは近代史を専攻してる割には科学知識があった。何故と聞いたら、歴史と科学は常に一心同体で、近代はその側面が特に大きいんだと答えた。だからって、そんな科学を勉強する気にはなるか?例えば俺が電気の歴史について調べるかと言われれば、そんな気にはならない。

 研究室の扉を開けると、ジョージが頬杖をついて居眠りをしていて、パソコンの前ではエリーが熱心にモニターの二重螺旋を弄っていた。

「サイモンが、お前らが呼んでたって言ってたけど、何だ?」

 エリーが首を傾げて、ジョージがあくびしながら言った。

「んぁあ?別に呼んでねぇぞ。サイモン一回ここ来たけど、お前がどこ居るか訊いてきたからラナとどっか行ったぞって教えたら、急いで飛び出て行って」

 んー、どういうことだ。よく分からんが、まぁ良いか。さて、臓器の方の遺伝子はどうなったかな?

「なぁエリー、どうだ?調子は」

 エリーは戸惑った。

「えっ、元気だよ」

「いや、研究の方」

「あぁ……えっと、なかなか……このナノマシンを作る臓器の構造が難しくって。臓器の構造さえ確定すれば、その、遺伝子プログラムは完成するから」

 俺がグラフと数式のようだと思っていると、すっかり目の覚めたジョージが口を挟んできた。

「これ、実際にやってたら相当なマッドサイエンティストだな」

 こいつもそういう事言う……

「実際にはやらないし、まずできないさ。理論上魔法使いが存在することの証明だ。ロマンあるだろ?ほら、SFのコンテンツだと思っていた遺伝子操作兵を、中国が第一列島線戦争で実戦投入したときとか、軌道エレベーターが現実に――」

 赤道上にずらりと並べられた時はお前だって興奮したろ、と言おうとした時、エリーが「あっ」と声を上げた。

「ん?どうした?」

「できた……臓器。魔力子作れそうなやつ」

「マジか」という声は、ジョージと重なった。

 まさか、そんなに早く。そんな馬鹿な。数日だぞ?

「どうやって作ったんだ?」という俺の質問は、同様と興奮が混じって上擦った。

「えっとね、魔力子を作る時のプリンターの動きをトレースできるように筋肉を配置して、あと、その……色々?」

 そう言って彼女は首を傾げたが、首を傾げたいのはこっちだ。

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