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魔法使い

 研究室にソックのみんなが集結した。俺は全員に、俺が作り上げたとっても賢いナノマシンをスーパーナノマシンをお披露目してやった。

 みんなすごく感心していた。特に感心していたのはサイモンだった。

「すごいね。本当に魔法が作れるんじゃないか?」

「魔法というか、魔力だね。根本的な力場だ。それを自在に操れるんだ、とてつもなく便利だぞ、こいつは」

 サイモンは口元に手を当てていた。その目は笑っていたが、なんでかは分からない。

 エリーがシミュ映像を見ながら俺に訊いてきた。

「あの、ジャック。これ、魔法使いを作れたら、その、作ってみたいと思わない?」

「……え?」

 予想外の質問に逡巡を始めた俺をよそに、エリーは続ける。

「これは、その、純粋に私の興味なんだけど、このナノマシン、結構炭素構造とか有機系多いんでしょ?」

 俺は一旦逡巡を後回しにした。

「ああ、カーボンナノチューブとか、新めの論文に出てくるの高硬度炭素結晶とかを多用してる。なんならほぼほぼ炭素まである。電気を通す通さないを構造によって変えられるからな、電磁石なんてカーボンナノチューブをちょっと特殊な組み方したものだ」

 俺の言葉を聞いたエリーは、目を輝かせながら言った。

「七十四年、去年だったかな……えっと、心臓と肺を一つに、こう、融合させた臓器を持つマウスを人工的に作って、その臓器を作るための遺伝子データが論文で公開されたんだ。あとは、新しい臓器を作るための卵子と精子の遺伝子の組み合わせも発表されてね……でね、私、その、遺伝とか専門だからさ、魔法使いの遺伝子、作れるかも……」

 俺は強い興奮を覚えた。仮説上だけでも、魔法と魔法使いが実在のものになるんだ!ファンタジーが現実になるんだ!最高じゃないか、そんなの。

 エリーの言葉を聞いてからは、即決だった。

「よしっ、次は、魔法使い遺伝子の作成だ!」

 ジョージが「おー」と言いながら拍手をして、サイモンも「いいですね」と、にこやかに同意した。エリーも嬉しそうに、無言で笑っていた。ラナの表情が少し曇って見えたのは気のせいだろう。

 とりあえず、俺はナノマシンの実験をするために、研究室を貸してくれた中年男性の教授に許可をとりに行った。特に話し合うこともなく教授がすぐに許可をおろしてくれたのは、少し意外だった。なんなら、教授は自分にも実験を見せてくれと頼んできた。

 俺は教授を連れて、みんなが待つ研究室に戻った。みんな教授を見て一瞬驚いた表情を見せたから、俺は急いで説明した。

「えっと、教授も一緒に実験を見るって」

 俺の説明を追うように、教授がみんなに向け会釈をして言った。

「ちょっと、お邪魔させてもらいますね」

 みんなもそれに合わせ、「よろしく」という趣旨の言葉を口にしながら会釈をした。

 俺も実験の手順をよく知らなかったから、教授に手伝ってもらった。

 教授はパソコンを触りながら言う。

「この部屋の壁の奥に実験用の小さな空間、おおよそ三センチ立方です。と、ナノマシン生成3D(スリーディー)プリンターがあります。あまりに複雑なものは作れないが、この程度ならできるでしょう。ただ、あまり大量には作れないですが。精々、二百個程度ですかね」

 みんなが教授が操作するパソコンを眺める中、俺は少し不安に駆られた。きちんと循環を作れるか?二百個じゃなかなか厳しいんじゃ……いや、大丈夫か。循環はしなくても、まぁなんとかなるだろう。

 教授は設計図を見た時に、何か驚いた様子だった。

「どうしたんですか?」と俺が訊くと、教授はゆっくりと振り向いてきた。

「君、これはどういう構造?」

 そう言って、教授はナノマシン内壁を指した。

 俺は答えた。

「ここは、最近発表された炭素結晶です」

 教授が間髪入れずに俺の言葉を切り捨てた。

「違うな、この結晶は未発表のものです。数値をどこか間違えたんじゃないですか?結果、ファンデルワールス力の誤魔化しが効いたんです。どういう仕組みかはよく分からないですが、この新型結晶じゃないともっといろんな分子間力が働いたはず。この結晶だけで論文が書けますよ」

「マジすか」

 ラッキー、多分これで一生飯が食える。とりあえず、教授には実験の手順を進めてもらおう。

 みんなが食い入るようにパソコンの画面を見つめる中、ついにナノマシンのプリントが始まった。

 全く、最新技術はすごいな。よくわからない結晶構造も、材料さえあれば作れてしまう。そういえば、このナノマシンは基本有機系だから単細胞生物みたいなものなのか。エリーが言っていたのはそういうことか。

 しばらく待っていると、どうやらナノマシン二百個が生成できたようだ。

 教授が俺に訊いてきた。

「さて、命令はどうしますか?」

 俺は一瞬悩んだのち、答えた。

「じゃぁ、とりあえず球体を作らせますか。ナノマシンに電気は与えられますか?」

「できますよ。放出時に帯電させるんですね、そう設定します」

 教授がパソコンをいじって数秒後、教授が顔を上げて俺たちを向いた。

「さて、実験の準備ができました」

 俺たちはより一層、パソコンの画面に食いついた。

 教授がキーを押した。

 パソコンに映る狭い小さい空間をモニタリングしている映像に、ナノマシン群体が現れ始めた。

 それらは、虹色に揺らいでいた。

 見惚れていると、ジョージが俺に訊いてきて我に帰った。

「……なんだ、この光」

「ああ……なんだろう、光コミュニケーションによる集合思考で、可視光までの出るのかもしれない」

 光の情報が伝播するのに合わせて、虹の揺らぎも波のように伝播する。

 虹の揺らぎは、球状にまとまっていった。まるで虹色の太陽のような……

 まるで、魔法のような。

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